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冬の旅


【著者】 立原 正秋  【装丁】 新潮文庫 637頁
【価格】 781円+税  【発行】 昭和48年5月

40年近く前の作品だが、いまだに読み続けられている一冊である。
物語は、行助が多摩少年院へ送致されるところからはじまる。
行助は小学校4年生のとき、再婚する母の澄江とともに宇野家へやってきた。新たに父となる宇野理一は中堅企業・宇野電機株式会社の社長である。経営者として申し分なく、また物事を公平に見ることのできる人物だが、どうも子育てに関しては失敗したらしい。
理一には病気で亡くした前妻との間に行助より2歳年長の修一郎がいるが、これがドラ息子で始末が悪い。当然のこととして優等生の行助とはしっくりいかない。
事件が起きたのは行助が高校2年生になって間もなくのことである。修一郎が母を陵辱しようとした現場を目撃し、誤って修一郎の腿を刺してしまったのだ。
事件の真相について母も子も語ろうとしない。事実を告げないことが、修一郎に対する復讐である。
行助はいわゆる世渡り下手である。生真面目だけに損な性分だが、自らの行動に恥じることなく生きていく姿は清々しい。本書が多くの読者を惹きつけた所以である。
ところで、本書では少年院の生活がリアルに書かれている。起床から就寝までこまごまと描写されているが、悲惨さを感じないのは、収容されている者たちが若いからだろう。もちろん個々の院生の事情をみれば理不尽さは拭いきれないのだが、今振り返れば当時は“若い”というだけで何がしかの希望が持てた時代だったのだ。





2010.11.3

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