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【著者】 浅田 次郎
【装丁】 講談社文庫 ①371頁 ②443頁 ③448頁 ④433頁
【価格】 ①629円+税 ②③④695円+税
【発行】 ①②2010年9月 ③④2010年10月
「蒼穹の昴」の続編である。
「小説現代」に3年半にわたり連載された後、2006年から2007年に全4巻が刊行され、2010年9月から10月にかけて文庫版が発刊された。
舞台は、1907年(明40)から1916年(大5)までの中国。清朝の崩壊から袁世凱の復活と没落までの時期を描いた歴史絵巻である。
「蒼穹の昴」は、梁文秀や李春雲(春児)といった架空の人物中心の物語であったが、本書は史実に軸足が置かれており、したがって実在の人物が数多く登場する。
なかでもキーマンは張作霖であろう。満州で馬賊の領袖としての名を馳せながら、1928年(昭3)、関東軍による列車爆破により死亡した。世界史の教科書には数行説明があるだけだが、本書ではその人物像が生き生きと描かれている。
張作霖に限らず、登場人物は浅田次郎によって、浅田次郎なりに明確な性格づけがなされる。読者の想像力を具体的イメージに導く力量はさすがである。
例えば筆者は、宋教仁という人物には好意的だ。宋は議会制民主主義を標榜し、国民党を組織してその実現に邁進したが、いま一歩のところで凶弾に倒れた。彼が理想の国家像を語る演説の場面は圧巻だ。君主制に逆戻りすることはもちろんのこと、賢人支配についても否定する。彼にとって、政治の基本は国民に対する信頼にあるからだ。さて、彼が賢人支配の一形態を実現した現在の中国を見たらどう思うだろうか・・・。
最初述べたとおり、本書では「蒼穹の昴」に登場した人物が、様々なつながりをもって再登場する。梁文秀は柳川文秀という名で日本へ逃れており、その妻は春児の妹、玲玲だ。また、張作霖配下の五当家、李春雷が春児の兄といった具合である。
架空の人物と実在の人物が入り乱れて話が進むので、その点は十分承知して読み下す必要があるだろう。
2010.12.2
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