このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

半落ち

【著者】 横山 秀夫   【装丁】 講談社文庫 357頁
【価格】 590円+税   【発行】 2005年9月

警察小説で多くの作品を著している横山秀夫の長編小説。2004年には、寺尾聰の主演で映画化された。
「妻を殺害した」として現職の警察官が自首してくるところから物語が始まる。アルツハイマー病が進行している妻から懇請されての嘱託殺人である。犯行の事実は明白だが、なぜか容疑者は犯行後の足取りを話そうとはしない。警察官が引き起こした事件で、しかも自首したのが殺害から3日後であるため様々な疑問や憶測が行き交う。
本書の提起しているテーマのひとつは、“命の尊厳”の問題である。人は病により人格を喪失することが明らかでも、なお生きていなければならないのか。警察官のした行為は、助かる命を助けるのと同等の意味をもっているのではないか・・・。
病気の家族を支えることの難しさは、高齢化の進展とともにますます深刻さを増すことであろう。形こそ違い、誰でもいつかは直面する問題である。
提起しているもうひとつのテーマは、警察の捜査から裁判に至るまでのプロセスである。事件は、あたかもベルトコンベアーに乗ったかのように処理され、一定の方向へ運ばれる。この間、多少の疑問は黙殺されることもあるのだ、とか。
本書に登場する警察官や検事、弁護士、裁判官などは、それぞれ相応の使命感や正義感をもって仕事に取り組んでいるが、それでもなお個々人の力では如何ともしがたい“流れ”がある。
様々な課題を提供して物語は終了する。



2010.4.12

文庫ライブラリ

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください