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【著者】 吉田 修一 【装丁】 朝日文庫 (上)265頁 (下)275頁
【価格】 (上)(下)540円+税 【発行】 (上)(下)2009年11月
毎日出版文化賞と大佛次郎賞を獲得した長編小説である。
2010年(平22)、妻夫木聡と深津絵里の主演で映画化され、モントリオール世界映画祭で深津が最優秀女優賞を獲得して話題になった。
主な登場人物は、親に棄てられ祖父母に育てられて土木作業員をしている清水祐一、湯布院の老舗旅館の息子で大学生の増尾圭吾、床屋の娘で保険外交員の石橋佳乃、紳士服量販店店員の馬込光代、といったところである。
舞台は、福岡、佐賀、長崎の北九州3県で、この間を行ったり来たりしながら物語が展開する。
石橋佳乃が殺されたのは、福岡と佐賀の県境で、高速道路の開通により見捨てられた形になった三瀬峠である。事件発生当初は増尾に疑いがかかるが、捜査が進むに従い清水祐一が真犯人として浮上してくる。事実、祐一が犯人で、物語の主題は犯人探しから殺人犯と女性との逃避行へと移っていく。
祐一は、たまたま出会った光代を自分の車に乗せて近隣を転々とする。警察に出頭しなければ、と思いながらも今日一日、二人でいたいという思いを断ち切ることができずに時間だけが過ぎていく。
さて、本書の題名である「悪人」とは誰のことを言っているのだろう。
祐一は殺人者であるがゆえに、“常識的には”悪人の部類へはいるだろう。とすれば、彼に殺された佳乃が善人か、といえば彼女の行跡には同情できないところが多々ある。増尾は鼻持ちらない男だが、法的罪を犯しているとも言い切れない。光代は間違いなく善人だ。
振り返って、祐一という人間のとった行動を見直してみるしか方法はなさそうだ。
これを個人的な人格の歪みとみるか、現代社会の病理現象のひとつとみるか、あるいは人間本来の業(ごう)とみるか。
物語は、読者に疑問を投げかけたままで終わる。
2010.12.8
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