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【著者】 和田 竜 【装丁】 小学館文庫 (上)219頁(下)218頁
【価格】 (上)(下)とも457円+税 【発行】 2010年10月
歴史小説の面白さを再認識させてくれる一冊である。文章の分かりやすさも手伝って一気に読んでしまう。
武州の忍城(今の行田市)は成田氏の居城であるが、上杉と北条の境界にあって、そのときどきに主を変えていた。家臣千人ほどの小豪族とすればやむをえないところであろう。
秀吉が北条を攻めてきたとき忍城は北条の支城であったが、城主・氏長は先読みをして、秀吉への寝返り工作を続けながら、表面上は半数の家臣とともに篭城のため小田原へ向かった。
留守を預かったのは、城主のいとこにあたる成田長親である。城兵はわずか五百人。秀吉方は、石田三成を総大将として大谷吉継、長束正家らが率いる軍勢が二万人を超える。とても勝負になるものではない。
長親が秀吉軍に逆らうことなく降伏すれば、それで片がついたはずである。
ところが三成は、合戦での実績がないだけに、何としてもここで武功をあげたい。戦国大名である以上、いくさ上手の名声がほしい。
そこで、慇懃無礼の見本のような長束正家を使者に立て、忍城の意向を確かめにやる。重臣である正木丹波や柴崎和泉、酒巻靭負は長親に相手の挑発に乗らぬよう自重を求めるのだが、なんと、「戦いまする」と返答してしまう。
この長親という男、家臣に限らず領民からも「のぼう様」と呼ばれている。「のぼう」とは「でくのぼう」の意味だという。ところが、そう言われても一向に気にしない。
不器用なため迷惑がられても、百姓仕事が大好きなだけの男である。
果たしてとんでもない大器なのか、単なる阿呆なのか。筆者も判断ができないようだ。
さて、そうはいっても合戦だ。
我々読者は、秀吉の大軍を迎えうつ忍城軍の活躍を高みで見物しよう。
2011.1.14
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