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クラッシュ

【著者】 楡 周平     【装丁】 宝島社文庫 701頁
【価格】 848円+税    【発行】 2000年4月

本書が単行本として刊行された1998年は、あらゆる機械のハイテク化が進む一方でインターネットが発達し、コンピュータが身近なところで圧倒的な力を発揮しだした時期である。
エアー・ストリーム社製の最新鋭ジェット旅客機A−500は、同社が命運をかけたモデルである。その初就航便が霧のフランクフルト空港で着陸に失敗し、乗員乗客200人全員が死亡した。
A−500のフライト・コントロール・システムを請け負ったU.S.ターン・キー社にも戦慄が走るが、結局この事故はパイロットの操縦ミスということで外見上は落着し、メーカー側に責任が及ぶことはなかった。
しかし、エアー・ストリーム社にしてもU.S.ターン・キー社にしても、事故について原因見直しを迫られたのは当然だ。
U.S.ターン・キー社は、オーナーのグレンとプログラマーのキャサリンが設立した企業である。新しい企業だけに、エアー・ストリーム社に対するソフトの提供は、同社の事業の中枢をなしている。もちろん、キャサリンのプログラマーの腕があったればこそ獲得できた仕事である。
ところが最近、事実上の夫婦といっていいこの二人の関係がおかしい。原因は、グレンが秘書のアンジェラと関係をもったことにある。
もともとグレンは女性関係がルーズである。しかし今日、グレンに必要なのは、若くて魅力的な肉体ではなく、問題を解決できる能力だ。言いかえれば、アンジェラではなくキャサリンである。しかし、どうしたことかキャサリンと連絡がとれない。
グレンに棄てられたアンジェラは、かつてU.S.ターン・キー社を首になったアトキンソンに誘いかけ、インターネット上にキャサリンの裸身を掲載する。目的は、キャサリンの追放とアトキンソンの復帰である。キャサリンはこれをグレンの仕業と勘違いし、彼に対して復讐を企てる。
その第一ステップは、高度32000フィートで2機のA−500旅客機を操縦不能にし、犯行声明で、インターネット上に解決の答えがあると公表する。ところが、そのHPはアクセスするだけで凶悪なウィルス「エボラ」に感染する、というものだった。
本書は、今日でこそ周知となっているコンピュータ社会のもつ落し穴を見事に予告した。
その第一は、コンピュータは万能ではない、ということである。実際、今月17日にJR東日本のCOSMOSが1時間ほどダウンし、新幹線の運転ができない事態が発生した。原因は大雪のため、ダイヤ変更指示数が規定の数を超えたから、ということらしいが、それにしても新幹線が止まったという事実は動かしがたい。
その第二は、ルールが確立しないままインターネット社会が急拡大した、ということである。この点に関しては10年前も現在も変わっていない。世界的規模のことなので無理からぬことではあるが、インターネットとは、各人が十分承知して付き合うしか方法がないといえよう。火事があるから火を使わない、というわけにはいかないのと同様である。







2011.1.19

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