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王妃 マリー・アントワネット
【著者】遠藤 周作 【装丁】新潮文庫 (上)408頁 (下)388頁
【価格】(上) 590円+税 (下) 552円+税 【発行】(上・下とも) 昭和60年3月
オーストリア女帝マリア・テレジアの末娘にしてフランス国王ルイ16世の王妃、マリー・アントワネットの半生を綴る。
物語はマリー・アントワネット14歳の春、フランスの皇太子ルイ・オーギュストと結婚するところから始まる。二人がはじめて出会うことになったストラスブールの町はオーストリア王女歓迎の人々で埋まり、その人波のなかをマリー・アントワネットの行列が進んでゆく。
ところで、皇太子の第一印象は・・・。「泣きはらしたように、まぶたのはれた青年。小肥りで、足もみじかい。近視なのか、眼のひかりも鈍く、どこか遠くか、あるいは自分とは関係ないものを見るように、彼女をながめている」(本書)といった具合で、彼女が抱いていた夢とはほど遠いものであった。
さて、物語には主役のほかに主役を引き立てる準主役や脇役が必要だが、本書ではこれらの役者が実に巧みに配置されている。
王室に敵愾心を抱くマルグリットは孤児で、薄汚れてはいるが、横顔がマリー・アントワネット似の美形である。スウェーデン人ながら終始マリー・アントワネットに忠実なフェルセン。修道女ながら聖職者のあり方に疑問を持ち、自らの信念に生きるアニエス。詐欺師のカリオストロと彼をとりまく怪しげな面々など。多くの魅力的な人物が、その時々にそれぞれの出番を心得て登場する。
著者の筆致は絶妙で、あたかも歌劇か映画でも見ているように物語は展開する。
結婚してからのマリー・アントワネットは十分に我儘で贅沢三昧の生活を送る。夫は善良なだけで争いを好まない。宮廷生活は妻のペースで営まれるのだが・・・。
当時のフランスは20万人の特権階級(王侯貴族・聖職者など)が、2600万人の人民を支配していた。民衆は困窮し、各地で農民一揆が散発するようになった。マリー・アントワネットはこうした事態に不安を感じながらも、その思いから逃れるように奢侈の日々に身を置く。折も折り、「首飾り事件」がおき、民衆の心はさらに王室から離反してゆく。
不安が現実のものとなり、囚われの身になったとき、彼女は改めて夫の優しさを思う。狩猟と鍛冶だけが趣味の夫。何も悪いことはしなかった夫だが、国王であれば無能が無実でないのが現実だ。
いよいよ彼女の最期が訪れる。気品を保ち、優雅に振舞うことでしか自らを主張することができなくなった彼女は、静かに断頭台へ向かうのだった。
2010.4.20
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