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【著者】 熊谷 達也 【装丁】 文春文庫 535頁
【価格】 657円+税 【発行】 2006年12月
時代は明治末期から昭和初期にかけて、山形県の山奥で狩猟を生業とするマタギの話である。松橋富治の生まれた村は耕地に恵まれないため、秋から春にかけてクマやアオシシ(ニホンカモシカ)を獲って生計をたてていた。富治はマタギとしての腕をあげていたが、土地の有力者の娘、文枝と関係を持ったため、その父親により村を追放されてしまう。
行き先は当時新たな稼ぎ場所として注目されていた鉱山である。鉱山の仕事はそれなりに面白いが、マタギへの未練は断ちがたい。そこで、鉱山で知り合いになった小太郎の村へ下り、マタギ組をつくることにした。
小太郎の村へ住むために村の長老がだした条件は、なんと小太郎の姉、イクと所帯をもつことである。実はこのイクなる女、子どものときに親に売られて娼婦となり、いま村に戻っているのであるが、誰彼となく相手をして風紀を乱すことおびただしい。そこで、富治にこれを押し付けようという算段だ。富治はこれを受け入れ、マタギの頭領としての生活を始める。
さて、本書雑感である。
①世の中は広い。個々人の経験できる世界はたいしたことはない。その点、こうした小説は見知らぬ世界を教えてくれるありがたい存在だ。
②マタギは動物の生命を奪うことによって生計をたてている。獲物もマタギも自然と一体である。マタギは、山の神様に対する信仰を、環境保護といった型どおりのテーマ以前の命題として受け入れている。
③動物は生きることに疑問をもたない。生きること自体が目的だ。マタギの生き方もそれに近いのだろうか。クマとの対峙も、対等な“勝負”としての迫力をもって迫ってくる。
2011.2.1
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