このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
【著者】 小杉 健治 【装丁】 光文社文庫 428頁
【価格】 648円+税 【発行】 2006年3月
二つの物語が平行して進行する。
【その1】背広の仕立ての仕事が思わしくなくなった麻美子の父は、母と離婚し他の女性のもとへ去って行った。その父から誕生日ごとに手紙が来る。一度も顔を見せたことのない父だが、毎月20万円、養育費を送ってくる。
父が去って10年、24歳になった麻美子は、間もなく結婚することになった。相手は高樹という経営コンサルタントだが、愛情はない、打算の結婚である。弟の伸吾はこの結婚に強く反対している。ところが、結婚式直前になって婚約者が死体で発見される。その容疑者として伸吾が逮捕され、母は心労で入院してしまう。
【その2】秋山圭一は現職の刑事を殺害し、9年の刑期を終えて出所してきた。彼が罪を犯した背景は、兄の焼身自殺である。経済的行き詰まりと妻の不倫が原因とされた。しかし、圭一は保険金を手にするため、義姉が不倫相手と共謀して兄を死に追いやったのではないかと考える。そこへ同じような疑問をもった「悪徳刑事」が現れた。なぜ、彼を殺害するに至ったのか、不思議なことに圭一には明確な記憶がない。
麻美子の物語と圭一の物語が行き会うのは、本書半ばに至ってからである。
その接点は意外性に富んだものだが、これ以上は読んでからのお楽しみ、ということにしよう。
本書のテーマは、「親子の絆」であり、「夫婦の絆」であり、ひいては「人と人との絆」である。現代の日本では、人間関係は日々希薄になっている。本書は、私たちが失いかけているものを思い起こさせてくれる一冊である。
2011.2.23
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |