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【著者】 髙城 のぶ子 【装丁】 新潮文庫 205頁
【価格】 362円+税 【発行】 昭和62年5月
1984年(昭59)の芥川賞受賞作である。
相馬涼子は、瀬戸内にある高校の2年生。担任の三島良介は女子高生のあこがれだ。涼子もその一人だったが、偶然、彼がクラスの松尾勝美を叱責している現場を隠れ見て考えが変わった。それは叱責というより口汚く罵るといったほうが近いものだったからだ。
確かに松尾は問題児だ。出席日数不足で学年も1年遅れている。教室にいても話の輪に入ることはなく、いつも一人でぼんやりしている。アメリカ人の兵隊と付き合っているとの噂だが、その他にも男性関係があるらしい。身体だけは大人びているだけに、同級生からは敬遠の目で見られている。
しかし、三島に叱責されている姿を見てから、なぜか涼子は松尾に惹かれてしまう。松尾は決して三島の言に屈していない。涼子などとは出来も育ちもちがうのだ。
松尾の家は埋立地にある。1階が母の経営する飲み屋で、2階が松尾と松尾の母の居間である。松尾の部屋には星の写真があたり一面に貼ってある。まるで、空の中にいるようだ。
そんな思いもつかの間、隣の部屋の千枝が暴れてなんとも収集がつかない。アル中なのだ。
星好きの松尾を喜ばせようと、涼子は大学教授の父に大学から望遠鏡を持ってこさせ、松尾を招待する。しかし、松尾はもうひとつのってこない。
松尾の非行は彼女の家庭、すなわち母親が生み出したものであろう。親は齢をおうごとにわがままになり、子どもは成長するにつけ親に気を使う。一体、親子とは何だろうか。お互い罵りあったとしても、その実、他人が入り込めない部分がある。“血”とは何とも不思議なものである。
かたや、涼子と松尾の友情は、肝心なところで交わることを避けている。
松尾との交流が涼子の成長の記憶に刻まれていくだけだとしたなら、なんともやりきれない気がするのだが・・・。
2011.3.2
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