このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

旅人 −ある物理学者の回想−

【著者】 湯川 秀樹    【装丁】 角川文庫 293頁
【価格】 590円+税    【発行】 昭和35年1月

日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が自らの前半生を振り返る。大阪大学の講師になる27歳までの回想である。
博士は1907年(明40)、東京市麻布区市兵衛町に生まれた。1歳2か月のとき、父の小川琢治が京都帝大の教授になって赴任する際、京都に移り住むことになった。
博士の家庭は、姉2人、兄2人、弟2人の7人兄弟である。
博士は、小学校、一中、三高、京大と学生時代を京都で過ごすことになる。本書ではそのときどき、博士が何をどうとらえ、成長していったかが美しい文章で綴られている。
27歳で終わっているのは惜しい感じがするが、博士が最も研究に集中していた時期をもって筆を置いたという。若い人には是非読んでほしい名作である。
さて、小生の読後感である。
①人はどこへ生まれるかで大分人生が変わる。
もちろん博士の優秀さに異論はないところではあるが、やはり庶民とは違うと思わざるをえない。父親をはじめとする学者の家系は、学問好きの子を育てる。うらやましい家庭環境ではある。
②物理学者はまた、幅広い分野での教養人である。
漢文、和歌、書道といった日本的なものはもちろんのこと、哲学に精通しており、英語、独語、仏語といった語学にも堪能である。
③よき家庭人でもある。
湯川胃腸病院の末娘と結ばれるが、彼女について愛情あふれる紹介をしている。人として偏りがない。
最後に、博士の学問に対する考え方を紹介しておこう。
「未知の世界を探究する人々は、地図をもたない旅行者である。地図は探究の結果として、できるのである。ずいぶんまわり道をしたものだ、というのは目的地を見つけた後の話である」





2011.3.15

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