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手紙
【著者】 東野 圭吾 【装丁】 文春文庫 428頁
【価格】 590円+税 【発行】 2006年10月
推理作家としてのイメージが濃い東野圭吾だが、「手紙」は犯罪加害者家族の苦悩に視点をあてた異色の社会派小説である。2006年、山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカなどの出演で映画化された。
主人公・武島直貴が高校3年生のとき、兄・剛志が空き巣に入り、家人に見とがめられて殺人を犯す。このため強盗殺人の罪で懲役15年の実刑を言い渡され、服役することになるが、この兄から月に1回、手紙が届く。主な内容は「弟を気遣っている」というものだが、直貴はその心情を素直に受け入れることができない。
本人は刑務所の壁の中で世間から隔離されているからいい。自分がどのような気持ちで毎日を送っているか、おそらく想像もできないだろう。自分は常に世間の目に晒されている。進学は思うどおりにいかない。好きな音楽活動も中断せざるをえず、恋人との交際もあきらめざるをえなかった。いつも兄の存在を隠し、びくびくしながら生活しているのだが、かといって正直に打ち明ければ打ち明けたで多くの人が去ってゆく。就職にあたっても家族状況を偽って入社すするものの、「強盗殺人犯の弟」というレッテルから逃れきることはできない。
直貴は何回も壁に突き当たり、そのたびにできる限りの努力をした。努力の多くは報われなかったが、それでもただ一人、彼を慕ってついてきた女性がいたことは救いである。
この国では、個人的行為であっても(とりわけ犯罪にあっては)そのつけが類に及ぶのだ。加えて、刑に服しただけでは、本人のみならず血縁も免罪されるわけではない。ある意味、加害者本人よりも、その家族の方が背負うべき荷が重いかも知れない。しかも、それに対処する答えは、簡単には導き出せない現実がある。
本書は、犯罪加害者の家族を真正面から描きながら、実は一方で、差別などとは無縁だと思っている読者に「(無自覚に)差別する側にたっていないか」と問いかけている。
2010.4.23
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