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【著者】 遠藤 周作 【装丁】 新潮文庫 428頁
【価格】 590円+税 【発行】 昭和56年6月
若い人には、理解はできても共感までには至らないかも知れない。中高年向けの、ある程度人生経験を重ねた人向けの秀作である。
1957年(昭32)に発表された「海と毒薬」から20年を経過した時点での後日譚である。華やかな大都会、新宿歌舞伎町で、人々はロンドのようにからみあう。
この時間を埋めるのは、開業医の勝呂医師である。本書は彼をめぐり、個性的な人が数多く登場する。
あらすじに代えて、主要人物を紹介しよう。
◆勝呂医師=戦時中、H大学病院の助手として勤務していたとき、米兵捕虜3名の生体実験に参加した過去をもつ。今は新宿の裏通りで開業しているが、B級戦犯として服役後、医師として復帰したものの過去の経歴から逃れることができず、これまで落ち着いて生活をしたことがない。周囲には堕胎医としても知られている。
◆ガストン=新宿に住み着いている外国人。貧しいくせに他人の不幸に目をつむっていられない。どういういきさつからか末期ガンの老人と知り合い、日雇い仕事をしたり、にわかボクサーになったりして援助する。著者は彼にイエス・キリストをみているのかも知れない。
◆年寄り=アパートで独り暮らしをしているが、末期ガンで死期が近い。週に一度訪ねて来る孫のキミ子に会うのが楽しみだ。ガンは進み、ガストンによって勝呂医院へ入院させられる。
◆山崎・林=不良私立大学生。新宿のスナックを足場に悪さをする。単位を取り損ねて矢野教授に救済を頼みに行くがあっさりと断られる。しかし偶然にも教授の奇行を目撃する。
◆矢野教授=二流私大の二流学者。外面だけは整え、テレビに招かれたりもするが、言行不一致の見本のような人物である。若者の格好をしてディスコへ行くのが楽しみだが、娘のハナ子に知られるところとなる。
◆折戸徹夫=日日タイムズの若手新聞記者。戦犯の復活を糾弾する特集記事で高い評価をえる。自らを正義漢と思っているが、傍から見れば自信家で出世欲の強い直情径行人間である。このため折角知り合えたスチュワーデスの貴和子に去られてしまうが、その理由が分からない。
2011.3.17
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