このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

Cの福音

【著者】 楡 周平      【装丁】 角川文庫 389頁
【価格】 629円+税    【発行】 平成20年10月

作者の処女作、悪の世界を描いたハードボイルドである。私たちが生活している表の世界の裏には、ひょっとしてこんな世界があって、多くの人間がしのぎを削っているのかも知れない。
本書の登場人物に善人は見当たらない。もちろん、商社マンや芸能人など、まともに働いているようにみえる人間も登場するが、実はコカインに侵されていて同情の余地はない。一般人が被害を蒙らないという意味では、過激な割には安心して読める小説である。
朝倉恭介は、小学校の6年間を東京で過ごしたものの、その後、父母とともにアメリカへ渡った。総合商社勤務の父がニューヨーク駐在の命をうけたためである。
恭介は中学校を卒業してフィラデルフィアのミリタリースクールへ入る。文武両面で優秀な成績をあげ、いよいよ卒業というときになって、卒業式に出席すべく旅客機に乗った両親が事故で亡くなってしまう。
恭介は良家の子弟が集まるブラウン大学へ入学した。両親の事故による莫大な補償金により経済的に支障はなかったが、精神的には満たされない生活が続いた。転機が訪れたのは3年生の夏休み、ファルージオという人物に知り合ったときだ。
大学を卒業するとき、恭介はファルージオに日本における麻薬販売組織構築の計画をもちかける。日本に帰った彼は表向き投資顧問会社の代表という看板を掲げ、裏では麻薬販売の元締めとして活動する。
どのようにして日本に麻薬を持ち込むか、それをどのように捌くか、そしてなにより、如何にして秘密を保持するか、恭介は知力と体力の限りをつくして難問に取り組む。
その後の活躍(?)は読んでのお楽しみというところだが、“悪”もこれくらい徹底すると気持ちがよいという見本のような小説だ。




2011.3.23

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