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非情銀行

【著者】 江上 剛      【装丁】 新潮文庫 558頁
【価格】 705円+税    【発行】 平成16年5月

2002年(平14)、みずほ銀行築地支店長だった著者が、覆面作家として世に出したデビュー作である。銀行員生活を通して経験し感じたことが土台となっているだけに緊迫感があるが、同時に、外部の人間には信じがたいような内実が明らかにされる。
大栄銀行は、バブル崩壊後の経営建て直しのために東光銀行との合併を模索していた。その中心にいるのが人事担当常務の中村である。いま彼の唯一最大の関心事は、合併後の自分の有り様だ。財閥系の東光銀行に飲み込まれるとして、どうすればその中で自分が浮かび上がることができるか。目的実現のためには悪魔と手を握ることをいとわない。
これに叛旗を翻したのが、中堅行員の竹内と佐々木、それに若手の進藤、ユリの4人である。きっかけは、竹内と同期入行の岡村が、中村が創設した強制収容所“人材能力開発室”送りにされ、死亡したことによる。
竹内は当初、岡村の死に対する復讐のつもりで行動を起こしたのだが、仲間4人で調べを進めていくうちに銀行内部に巣食う闇の世界に行き当たる。
もちろん本書はフィクションであるが、つくりものとは思えないリアリティーをもって迫ってくる。個人的な善人悪人の枠を超えて、そういう人間をつくりだす業界の構造を描き出したところに本書の普遍性をみることができる。まこと、社会的地位は高潔さとは無縁である。
著者は本書の中で“竹内”を演じたのだろうか。著者の温厚な風貌からは窺い知れない芯の強さにはまったく敬服する。




2011.4.5

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