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【著者】 森村 誠一 【装丁】 祥伝社文庫 343頁
【価格】 638円+税 【発行】 平成21年10月
パレスサイドホテル社長、久住政之助が、自分の経営するホテル34階にある専用室で刺殺された。部屋はスウィート仕様で外扉、内扉と二重になっており、外部の者の犯行とは考えにくい。真っ先に疑われたのは、秘書の有坂冬子である。ところがあろうことか、冬子は本件捜査を担当することになった平賀刑事と事件当日一夜をともにしていたのだ。当日の冬子の行動は確かに不審な点が多いが、アリバイが確実なことは間違いない。
そうこうしているうちに、その冬子が福岡のホテルで殺された。彼女が死ぬ前に、(意思に反して)残したわずかな手がかりを頼りに必死の捜査が始まる。そして、疑わしい男にたどりつくが、なかなかアリバイをくずすことができない。犯人と警察の知恵の勝負である。
本書は昭和40年代の日本の姿の一端がよく描かれている。
当時はまだ、ホテルという施設が庶民とは縁遠い存在だった。このため、ホテル業界の内実から始まってチェックイン、チェックアウトの仕方まで丁寧に解説している。
また、航空機の運行状況をみると、現在とは比較にならないくらい本数が少ない。パスポートの発行も極めて限定的だったようだ。ただ、だからこそ犯人の足取りをつかむことができた、とも言える。
目星をつけた容疑者を追い詰めていくという捜査手法は現代の科学捜査の対極にあるようにみえ、いかにも古さを感じさせるが、推理小説のひとつの形であろう。
いま読んでも、職人芸的捜査方法が親近感をもって迫ってくる。
2011.4.8
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