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【著者】 大岡 昇平 【装丁】 新潮文庫 182頁
【価格】 324円+税 【発行】 昭和29年4月
大岡昇平がフィリッピンにおける戦争体験をもとに綴った回想録風の小説である。“私”こと、当時一等兵であった田村が戦後6年を経て、精神病院の病床で苦しかった日々を振り返る。
田村は結核のため本隊を追われ、芋6個をあてがわれて野戦病院送りになる。もちろんたいした治療を受けれるわけではないが、隊にいたときと比べれば安寧の毎日といってよい。
しかし、それも長くは続かない。
米軍の砲火は日ごとに迫ってきて、ついに病院を捨てざるをえないときがやってきた。現地人ゲリラの襲撃を恐れながらの逃避行である。
日本軍の集結地に向かう途中、友軍の兵士に遭遇するが、もはや軍隊の形をなしておらず、幽鬼の群れというが相応しい。野草を食い、ヒルを食う。最大の敵は飢えである。
その田村がどのような経緯で生き延びたか。精神を病んでいる本人には記憶がない。
それは筆者自身、書くに耐えないという思いが投影したからであろう。
2011.4.27
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