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【著者】 小杉 健治   【装丁】 集英社文庫 320頁
【価格】 533円+税    【発行】 1990年6月

東京地裁記者クラブ詰めの新聞記者である“私”の殺人事件裁判記録である。
地裁412号法廷では、ひとりの女性が殺人罪で裁かれようとしていた。事件は「夫殺し」である。
弓丘奈緒子は、愛人との結婚意思をほのめかした夫を、柳刃包丁により殺害したとして起訴された。奈緒子は、警察、検事による取調べの過程において犯行を認めており、当然のこととして有罪は間違いないと思われていた。
実は、奈緒子は“私”の幼ななじみ、市橋晴彦、寛吉兄弟の姉である。私は、精神薄弱の寛吉と親しかったのだが、いつしか消息が途絶え、このとき20年以上が経っていた。
この裁判は、はじめから奇妙なことがある。それは、弁護人が水木弁護士から原島弁護士へ交替したことである。原島弁護士はある事件がきっかけで引退していたが、この事件で復帰した。この交替劇は、水木弁護士が原島弁護士へ依頼したものらしい。
裁判が進むにしたがって、思わぬ事実があきらかになってくる。精神薄弱の家族をもつ、ということもサブテーマになっており、話に厚みを加えている。
本書は、法廷ミステリーとでもいうのだろうか。裁判小説は高度な専門知識と緻密な計算が必要なだけに、書く側は大変だろうが、読むほうはおもしろい。裁判は、専門家が頭脳と法律知識を駆使して闘う場である。それを物語として組み立てる作者の力量には敬服せざるをえない。
本書は、1987年の推理作家協会賞を受賞した。むべなるかな、である。



2011.5.5

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