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M 8 (エムエイト)


【著者】 高嶋 哲夫      【装丁】 集英社文庫 543頁
【価格】 743円+税      【発行】 2007年8月

首都直下型地震の話である。
阪神・淡路大震災から10年を経た2005年12月がストーリーの舞台である。瀬戸口誠治、河本亜紀子、松浦真一郎という阪神・淡路大震災当時、高校3年生だった被災同級生は、それぞれポストドクター、議員秘書、自衛官になり東京で生活している。瀬戸口は、コンピューターによる地震予知を研究し、亜紀子は防災に力を入れている同郷の自民党代議士・堂島の秘書を務め、松浦は防衛大学校を卒業しながらも災害救助を志す。いずれも震災での経験が自らの生き方につながっている。
彼らが震災で受けた被害の大きさはさりげなく紹介されているが、そのさりげなさがかえって震災の悲惨さを訴える。肉親を失ったのに加え、亜紀子の場合は右足をも失った。
そして、陰の主役が、かつて神戸大学教授であり、地震学会で名を馳せた遠山である。彼は震災で妻と次女、長男を亡くし、研究室の学生も失った。専門家としての自負が大きかっただけに無力感にさいなまれ、心を打ち砕かれて学会を去った。
伊豆の大瀬崎地震研究センターへ定期的に足を運ぶ瀬戸口と遠山が出会うのは、あるいは必然の流れと言えるかもしれない。静岡で群発地震が起きているさなか、瀬戸口と遠山は首都直下型地震を予測する。そして予測どおり地震は起こった。
発災2日目、漆原都知事が官邸を訪ね、総理、閣僚に言う。「国を治める者の資質として、本来何が大事で何を切り捨てるべきか。それを見極める目、というより精神(こころ)こそもっとも重要なものだと信じている。そういう点から考えると、あんたらの精神はないに等しかった。そして、私も同じだった」。
けだし、いまの政治家にシッカリと噛みしめてもらいたいと思うのは、私だけではないであろう。



2011.5.24

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