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パイロットフィッシュ


【著者】 大崎 善生     【装丁】 角川文庫 247頁
【価格】 476円+税     【発行】 平成16年3月

「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否(いや)が応にも記憶とともに現在生きているからである」
冒頭の一節が、楽曲の主題のように全編を貫いている。
19年ぶりに大学時代の恋人、由希子から電話がかかってきた。そんな経験は、大学生という時代を持ったことのある人の特権かも知れない。確かに、学生時代と現在との間には、まったく空白を感じることはない。
山崎は、アダルト雑誌の編集部に勤めている。ここで仕事をすることになったきっかけも、実は由希子にある。編集関係の仕事をしたいといった山崎に、由希子が電話帳から拾った会社へ飛び込みで就職した。それでも転職もせず、長年そこに勤めてきた。
電話の声を聞いただけで、学生時代の二人の生活が鮮明によみがえる。
もちろん二人の道は分かれ、今では決して交わることはできないのだが・・・。
本書は、作者初の小説作品であり、2002年、吉川英治文学新人賞を受賞した。
現在と過去を交錯させながら、出会いと別れの切なさを透明感あふれる文体でうたいあげた青春小説である。



2011.5.26

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