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国税査察官


【著者】 立石 勝規    【装丁】 講談社文庫 398頁
【価格】 667円+税    【発行】 2008年7月

毎日新聞記者だった著者が、その経験をもとに著した(と思われる)一冊である。
キャリアの上司と対立して糸魚川税務署に異動させられた篠崎隆之が、東京国税局査察部へもどってくるところから物語が始まる。
事件の端緒は、青山で画廊を開いている熊沖制子からルノアールの名画『日傘のリーズ』が出回っているとの情報だ。『日傘のリーズ』は篠崎が糸魚川へ飛ばされる直前、政界有力者への献金代わりに贈られたという噂のあったいわくつきの絵である。実際は、銀行合併に絡み、長谷川伸が頭取の椅子を手に入れるために、フィクサー・柳沢圭文を通じて現在首相になっている陣場雅武に贈ったものだ。長谷川は絵画の売買を通じて裏金をつくり、柳沢へ礼金として渡している。
裏金づくりによる脱税行為と贈収賄が事件の全体像だ。
物語はこの名画をめぐり、さまざまな人を巻き込んで展開していく。登場人物の多くは実在の政治家がモデルになっている(ような)ので、本人探しも面白い。
普段窺い知ることのできない国税局の内部事情は興味深い。この日本では、庶民の目の届かないところに想像できない世界がある。
篠崎の亡き妻の兄・舟田亨が暴力団員で重要な役割を果たすなど、因縁話めいたところもあるが、篠崎や舟田、長谷川が青森深浦生まれという設定は、著者が青森弘前出身ということによるこだわりだろう。





2011.6.18

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