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悼む人


【著者】 天童 荒太    【装丁】 文春文庫 (上)359頁 (下)311頁
【価格】 (上)571円+税 (下)552円+税    【発行】 2011年5月

2008年11月、文藝春秋から単行本で刊行され、翌年、第140回直木賞を受賞した作品である。
坂築静人は、友人の死をきっかけに、全国の事件や事故の現場を訪ね、見ず知らずの死者を悼む旅を続けている。彼にとって悼むとは、亡くなった人を記憶にとどめるということらしい。彼はどんな人でも肯定的にとらえる。そのための要件は、「誰を愛し、誰に愛され、どんなことで感謝されたか」の3点に集約される。こうした質問を、遺族や親しかった人にすると、時として誤解を受けることの方が多い。新興宗教に間違われたり、警察を呼ばれたりすることも珍しくない。
本書では、主人公・静人に3人の脇役が配される。
母親の巡子は、末期がんに侵されながら、息子の帰りを待っている。静人の数少ない理解者である。恋人に捨てられた娘の美汐が出産するまで生きたいと願っている。
記者の蒔野は、静人の行動に懐疑的ながら、なぜか静人の世界に引き込まれてしまう。
夫を殺した罪で刑に服し、出所したばかりの倖世は行き場がなく、静人の旅に同行する。
生きることと死ぬことと・・・。ごく日常的で身近なことなのだが、私たちが等閑にしていることの意味を改めて、丁寧に言葉を積み重ねることにより考えさせてくれる。




2011.6.29

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