このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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余命
【著者】 谷村 志穂 【装丁】 新潮文庫 280頁
【価格】 438円+税 【発行】 平成20年12月
百田滴は総合病院の外科医である。夫の良介とは医大の同級生として知り合った。24歳で国家試験に合格し、研修医として勤め始めたが乳がんになり、右乳房を失った。それでも良介はためらうことなく滴と結婚した。
良介は医師国家試験に失敗したこともあり、趣味を生かしてカメラマンになることを目指す。しかし、仕事らしい仕事があるわけもなく、料理・洗濯など家事をこなす主夫生活が続く。それでも二人の間がうまくいっているのは、基本的にお互いが好きなのだ。
結婚して14年目、子どもに恵まれなかった滴が妊娠した。ところがあろうことか、乳がんが再発してしまったのだ。滴は子どもを失いたくない。それだけに、がんの再発を夫に言うことができない。ストレスから夫に対する言葉が苛立ったものになり、人のよい夫を困らせる。夫婦の関係はちぐはぐなものになっていった。
本書の扉には「ある夫婦の物語である」と紹介されている。
本書では、病を得たときの孤独な思い、子どもを授かったときの喜びなど、誰にでも訪れる可能性のある日常が、女性の視点から描かれている。滴が独りで生きているわけではない、と気づくまでの道のりは必ずしも平坦ではない。
それだけに、生きることの意味を問いかけられ、共感をもって応えることのできる傑作であるといえよう。
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