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碓氷線の廃墟に眠る鉄道碑22.7.28記、24.11.4加筆訂正

 廃線となった国内の鉄道で、最も多くの遺産が今に残るのは、旧信越本線、横川駅ー軽井沢駅間の諸施設であろう。群馬県と長野県との県境に立ちはだかる山塊を横断する鉄道で建設当初は「碓氷線」と言った。人里である両駅間の径間11.2kmに対して標高差は553m、最大勾配は66.7‰であった。
 碓氷線は国家プロジェクトとして、ドイツから導入したアプト式鉄道として、明治26年(189341日開業した。険しい山中に、26の隧道と18の橋梁のほとんどがレンガ造りで構築された。
 この碓氷線の中間駅に「旧熊ノ平駅」がある。当初は給水給炭所として設置されたものであるが、明治39年(1906)に駅に昇格した。昭和12年(1937)に電化され、やがてアプト式も廃止となった。
 昭和25年(1950)に駅構内で土砂崩れが発生し、復旧作業に当たる関係者に多数の死傷者を発生させた。昭和41年(1966)信号場に降格。昭和62年(1987JR東日本に継承。平成9年(1997)長野新幹線とともに信越本線横川ー軽井沢間は廃線となった。
 在来線の諸施設は安中市によって管理されている。国道18-旧碓氷峠を通ると、「めがね橋」と呼ばれるレンガ橋を見ることができ、思わず車からおりて見とれる人が多い。
 これらの施設はやがては廃墟の憂き目を見る運命にあった。安中市は廃線施設への立ち入り禁止の措置をとり、横川駅に隣接して「碓氷峠鉄道文化むら」を開設。ここで廃線となった歴史資料の展示を始めた。その後めがね橋までの一般公開にこぎつけ、さらに20123月に「旧熊ノ平駅」までの一般公開距離を延長した。このことによって廃墟の憂き目を免れ、いまや廃墟と呼ぶよりは、遺産と呼ぶのが相応しい存在となった。

碓日嶺鉄道碑

 碓氷線は、国の威信をかけて建設された。日夜を分かたず突貫工事が強行されて、500人余りの犠牲者を出した。労働者は地元の人たちから敬遠されて、多くは兵庫県からの出稼ぎ者が多かったという。建設完了後、各種の記念碑が建てられたが、その中に解読困難な石碑がある。「碓日嶺鉄道碑(うすひのみねてつどうのひ)」という。碓日嶺は古語であり、現在の碓氷峠のことである。碓氷線の開業を讃えて建てられたものだ。

 この碑は元々は軽井沢駅付近に設置されていた。しかし関東大震災のときに倒壊し、損傷が激しいため放置されていた。その後、関係者が旧熊ノ平駅に移設し、分裂された石を鋼材やセメントで補強して復元した。一方、軽井沢駅のほうには、レプリカの碑が建てられた。


碓日嶺鉄道碑


 写真でも分かるとおり、石碑は傷痕が生々しい。数奇な運命を辿った碑文は漢文で刻まれており、今では使われなくなった字体が多く、風化も進んでいるため解読は極めて困難である。各種文献には解読文が掲載されており感銘を受けたが、なんとか自分なりに解読して納得したいと思った。

 そこで漢文の独習を始めた。書店で本の帯に「苦手な人も 得意な人も・・・」とのキャッチコピーにつられて一冊の受験本を求めた。72の手習いである。始めてみるとけっこう面白い。日本語に漢字を導入したルーツや、群雄割拠の中国の歴史に興味が湧いてきて、珍しく本のページに手垢を残したのである。

 先ずは碑文を正確に読み取る必要がある。しかし前述のような理由で読み取りは困難である。そこで文献に紹介されている碑文を参考にさせて貰うことにした。とりあえずは白文が用意できた。次に訓読文であるが、文献を参考にしながら、自分なりに訓読を何通りも試みた。そしてできるだけ韻律の響きを心がけて書き下し文が完成した。最後に現代語訳であるが、これは注釈と解説をつける方法に代えることにした。作業の過程でどうにも解釈できない場合は、文字の誤謬もあり得るので、プリントした白文を現地の碑文と照合した。

 その結果、漸く公開に漕ぎつけたのであるが、もちろん正しく解読できたとは思っていない。にわか勉強で解読とは小癪なと言われればそれまでだが、爺の手慰みとしてお許しいただき、願わくは間違いをご指摘くだされば有難い。

<閲覧者からのご指摘>
 2011.5.22上記「碓日嶺鉄道碑PDF」の碑文について、読者のMHさんから書丹者の間違いをご指摘いただき、精査したところ確かに間違っていたので訂正しました。訂正箇所は、碑文の最後にある「從五位長書」であるが、これを「從五位長書」に訂正しました。MHさん有難うございました。

<参考>
1.
碓氷線物語-八木富男著/発行所-あさを社/発行-平成元年327
2.
動輪の消えるとき-朝雲久児臣著/発行所-上毛新聞社/発行-昭和62525
3.
碓氷アプト鉄道-中村勝実著/発行所-(株)櫟/発行-昭和63920
4.
アプト式鉄道資料-平田一夫編・発行/1991

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