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蚕観察日記(幼虫編)  (目次に戻る)

06/12蚕種到着
  6月10日に群馬県蚕業試験場に申し込んでいたカイコの卵が、12日に到着しました。郵便物を開封すると、プラスチックのシャーレが入っていました。蓋を開けると、二つ折りのパラフィン紙の中に、台紙に卵が貼り付いていました。これを蚕種(さんしゅ)といいます。
 卵は直径が約1mm、黒色でケシ粒のような感じです。


封筒から出したシャーレ

蚕種
けし粒のような蚕種

 ふつう、小学生が飼育観察する場合は、群馬県では日本絹の里で求めます。ある程度大きくなった幼虫20頭を、人工飼料をつけて夏休み前に配布します。僕は卵からスタートし、親になって再び卵を産むまでの一生涯を観察したかったのです。その希望に添ってくれるのが、冒頭の試験場です。
 品種名は育てやすい
「ぐんま200」です。数量は1蛾(が)500粒で、料金は500円でした。500粒というのには意味があって、一匹の蛾が産む卵の数が500から700粒なのだそうです。
 写真を見てお分かりのとおり、とても500粒あるようには見えません。そこで僕は数えることにしました。しかし肉眼ではとても数えられません。しばし考えた末、次のようなアイデアが浮かびました。

  1. デジカメの画質と、光学ズームを最高にします。
  2. 液晶モニターいっぱいに撮影します。このとき、ストロボを使った場合と、使わない場合の両方を撮って、いい方を採用します。
  3. パソコンでトリミングと画像補正を掛けて見やすくします。
  4. A4で印刷します。結果的に4倍以上に拡大しました。
  5. ここからが味噌。修正ペンでタッチすると、白い点がつくので数えやすくなります。(一例:PILOT 0.7修正プチ)

 この方法で数えた結果、僕の蚕種は530粒でした。

 送られてきた蚕種には、注意書きがついていました。25℃の環境下の場合、試験場の冷蔵庫から出庫して約13日目に孵化するそうです。出庫日は6月10日となっています。
 シャーレの蓋を取り、包装紙も広げて卵が見えるようにしました。卵といえども呼吸が出来なければいけないとも思ったのです。この状態で出庫から5日目になって、まてよ?折りしも梅雨の中休みで連日の晴天ではないか。今日は真夏日、湿度計も38%だ。卵が乾燥して死んでしまうのではないかと、素朴な疑問にぶつかったのです。
 さっそく試験場に問い合わせたところ、郵送したときの状態で孵化を待つようにとの回答でした。蚕種を包んでいる紙に、乾燥防止の処置をしてあるというのです。そんな訳で、のっけから失敗しましたが、孵化することを祈って、その日を待つことにしました。
<その後すこし分かったことであるが、どうも卵自体に乾燥に耐えられる能力があるらしい。体内で合成したトレハロースという成分によって細胞を包み保湿状態になっているようだ。この状態で孵化に適した季節を迎えると、活動を開始するらしい。>

 さて、これからの飼育の展開は、次の三つのサイトをお手本にします。

<参照>
群馬県【蚕糸】カイコを飼ってみよう
「かいこ」のひみつ

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06/19 孵化(ふか)1日目
  06/12に、卵の色が黒色だといいましたね。これが休眠卵の特徴です。
 自然界では、冬を迎えるに当たって、昆虫の多くは、蛹か卵の状態で冬眠状態に入ります。
 僕が手に入れた蚕種は、冷蔵庫に保管されていました。つまり冬眠状態を人工的に作って春を待つのです。この卵を休眠卵といいます。別の言い方をすると、休眠卵とは、翌年にならないと孵化しない卵をいいます。
 春になると冬眠から覚めて、活動を開始します。再び冬を迎えるまで、2〜3回産卵しますが、これは冬眠をしないで、約2週間後に孵化します。これを非休眠卵といいます。別の言い方をすると、非休眠卵とは、産卵した卵がその年のうちに孵化する卵をいいます。
 冷蔵庫から出して25℃の部屋に置くと、13日目くらいで孵化することになっています。孵化の2〜3日前になると、卵の中に青黒い点が見えるようになり、孵化の前日には、全体が灰青色になるはずです。この二つの色の変化を、孵化するまでの間、観察しなければなりません。
 ところが僕は、青黒い点になるのを見落としてしまいました。気が付いたときには、その過程を通り越して、全体が灰青色(僕には灰白色に見えた)になっていたのです。まるでエゴマそっくりです。こうなると孵化は明日ということになります。
 なぜ青黒い点になるのを見落としたのでしょうか。蚕種を冷蔵かから出したのが6月10日でした。これに13日を加えると、孵化の予定日は23日になります。ですから、まだそっとしておいてやろうと、シャーレの中を覗くのは控えていました。18日になって、まだ余裕ががあるけれど覗いてみました。そして驚きました。もう灰白色になっているではありませんか。予定日までは、まだ5日もあるのです。

 中には茶色に変色した卵もありました。数えてみたら36個です。たぶん死滅したのだろうと思います。


卵の色が灰白色に変わった

 けっきょく翌日には、かなりの数が孵化していました。僕は孵化までの日数が”約13日目”というのを、過信してしまったようです。日数がかなり狂ったようですが、考えられるのは気温ぐらいしかありません。暑い日が何日も続いたから、早まったのでしょうか。
 とにかく孵化が始まったのですから、めでたしメデタシです。孵化したカイコは3mmぐらいの体長で、黒い色をしていてモゾモゾと動くから分かります。これを蟻蚕(ぎさん)といいます。

 これから蚕は桑の葉をもりもり食べて、大きくなります。成長過程の呼び方で、覚えておきたい用語は、(れい)と(みん)です。孵化した蟻蚕は1齢です。
 桑の葉を食べて大きくなると、今までの着物がきつくなります。そこで脱ぎかえるために葉をたべるのをやめて、ジっと静かに頭をもたげてその準備に入ります。いかにも眠っているように見えるので、これを眠というわけです。最初の眠が1眠です。
 新しいサイズの大きい着物が出来ると、古い着物を脱ぎ捨てます。これを脱皮(だっぴ)といいます。脱皮が終わると葉を食べる行動が再開されます。この齢と眠を4回くり返して5齢目になったあと、繭を作る過程に移ります。

蟻蚕
うごめく蟻蚕

 あらかじめ用意しておいた、菓子箱に新聞紙を敷き、その上にティッシュペーパーを敷きました。さらに蚕の糞(ふん)を掃除しやすくするために、園芸用のネットを敷きました。
 近くを流れる農業用水の川べりに、桑の若木が生えているので楽でした。朝方、枝先の柔らかい部分を一日分採って来ます。葉をもぎ取り、ポリ袋に入れて霧吹きで吹いて冷蔵庫に入れておくと鮮度が保持できます。
 桑の葉を鋏で1cm角ぐらいに切って、ネットの上に置きます。その上に、柔らかい水彩用の絵筆を使って、うごめいている蟻蚕を静かに葉の上に落とすのです。30分くらいかかって、とりあえず孵化した分を掃き立てしました。
 掃き立てというのは、昔から蟻蚕を傷めないように、鳥の羽で掃くようにしたことからそう呼ばれているのです。今では、初めて桑の葉をたべさせる意味にも使われます。

掃き立て
掃き立て


桑を食べる蟻蚕

 今回の観察でわかったことは、桑の葉を刻んで与える必要はないということです。というのは、蟻酸が葉を食べるのは端っこからではなく、葉の真ん中を食べるということが分かりました。虫眼鏡で見ると、針先でつついたような穴が無数に開いているのです。眼のいい人なら肉眼でも分かります。
 むしろ刻まないほうが良さそうです。というのは、刻むと乾燥して丸まってしまうのです。新しい葉に取り替えて、古い葉を捨てるときに、蟻蚕が中にいないかどうかを確認するのが大変です。
 途中で気が付いたことですが、食品包装用ラップフィルムをかけると乾燥の速度を押さえられます。
 蚕種の台紙を見ると、孵化した卵は、白く透明になっていました。全体の30%ぐらいです。まだ灰白色の卵が、70%ほど残っています。孵化は、明日に持ち越しかも知れません。茶色のは、最初から死んでいるものと思います。

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06/20 孵化(ふか)2回目
  今朝、シャーレを見ました。孵化した蟻蚕が、包装紙から這い出て、シャーレの内部をうごめいていました。
 今後の生育差を観察するために、昨日の菓子箱とは別の箱に掃き立てます。もう絵筆を使うなど悠長(ゆうちょう)なことはやめました。蚕種の台紙とパラフィン紙を、直接桑の葉に乗せます。見る間に蟻蚕は桑の葉に移動を始めました。
 台紙と葉との間には隙間(すきま)があります。彼等は台紙から自分が吐き出した糸にぶら下がって葉の上に降ります。ちょうど、ヘリコプターから、人間がロープで地上に降りるようにです。それでも、まだ残りがいますから、それは絵筆で掃きました。


刻まない葉を与えた


白い抜け殻

 蚕種の台紙を見ると、灰白色の卵はもうないようです。死滅した茶色の卵を別にして、全部の卵が白い抜け殻になっていました。念のため翌日確認したところ、2頭だけ孵化していました。もうこれで終わりだと思います。
 先に述べたように、葉を刻まなくて与えた場合に、どの位の硬さまでなら食べてくれるのかも分かってきました。濃い緑色で葉の表面がすべすべしているのは好みません。薄緑色でざらっぽいのが好きなようです。時間がたつにつれて、しおれるくらいのが柔らかくていいみたいです。葉は裏返しに置きます。裏側はギザギザになっているので、かじり易いのです。

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06/22 1眠
  現在、飼育箱は二つあります。19日と20日の二回に亘って孵化した蟻蚕を、別々にしたのです。
 蟻蚕の糞は、カーボンの粒子を思わせます。一粒の形状は虫眼鏡で見ても分かりません。桑の葉を載せたネットの網目を簡単にすり抜けて、箱の底に選別されます。
 今朝見ると、一番目の箱は、1頭だけを除いて示し合わせたように1眠に入っていました。写真では分かりませんが、頭をもたげて身動きしません。身体の色も白くなってきました。

蟻蚕の糞
蟻蚕の糞


1眠に入った

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06/24 2齢
  今朝見ると、蚕はもぞもぞ動いていました。1眠が終わって2齢目に進んだわけです。新しい葉を与えると元気よく食べ始めました。孵化が一日遅れのグループに比べて体長でも勝っています。
 一日遅れのグループは、別の箱で眠の二日目を迎えました。明日には動き出すでしょう。
 ところで、脱皮したあとの抜け殻のことが気になりましたが、見当たりません。虫眼鏡で見ても、分からないのです。もっと大きくならないと見えないのでしょうか(これに対して、観察日記の読者から、「1令が脱皮したときの抜け殻は、視認できます。」というご丁寧なご指摘をいただきました。僕の観察不足で反省しております。)
 桑の葉にはだいぶ大きな穴が開くようになりました。大きくなった証拠です。体長も8mm位ありそうです。


食べっぷり良し

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06/26 2眠
  2眠の標準日は27日のはずですが、1日早い26日には、ほとんどの蚕が眠に入りました。
06/27 3齢
  26日眠に入った蚕が、もぞもぞと動きだしました。3齢目に入ったのです。中にはまだ眠の蚕もいます。どうやら個体差が出ているようです。動いていない蚕にできるだけ刺激を与えないように、静かに葉を載せました。
06/28 一日遅れグループの2眠
  ところで一日遅れで孵化したグループは、飼育箱を分けていますが、今朝一斉に2眠に入っていました。午後、脱皮の様子も観察できました。
06/29 3眠
  最初に孵化したグループは個体差が出ていましたが、午後になってから、ほぼ揃って3眠に入りました。

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06/30 4齢
  今朝みると、きのう眠に入っていた最初に孵化したグループが、早くも動き出していました。抜け殻が桑の葉に貼り付いています。4齢目に入ったようです。ペースが速いのは、気温が高いせいでしょうか。


茶色のが抜け殻

 蚕も大きくなったので、飼育箱を大きいのに替えました。今までは菓子箱だったのですが、今度のは園芸用のポット苗トレーです。新聞紙1ページ分をトレーに敷き詰めると、うまい具合に収まります。
 その上に園芸用防風ネット4mmメッシュを敷くと、掃除のときに糞を分離できて楽です。このネットはホームセンターで求めることができます。2m幅を長さ1m購入すると4トレー分取れます。105円ですから安いものです。トレーは花の苗をいくつか買えばただで貰えます。
 この頃になると、朝の静かな時間には、桑をかじる音がザワザワと聞えます。


飼育箱を大きくした

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07/02 一日遅れグループの3眠
  どうもはっきりしないのですが、一日遅れで孵化したグループが昨日の夕刻から3眠に入っていたようです。そして今日の午後に脱皮して4齢目に入り、桑を食べ始めました。
 蚕が大きくなると、桑の給餌が大変です。幸い家のすぐ近くに農業用水路があって、その土手に沢山生えているので助かります。

桑
用水路に桑がある

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07/04 4眠
  3日の朝から頭をもたげて、いよいよ最後の4眠に入ったようです。まだ動いている蚕もいるので、一応まばらに桑の葉を置きました。

蚕の眠
頭をもたげて4眠

 4日は、ほとんどの蚕が眠につきました。5日の朝まばらに脱皮を確認しましたが、大半は動きません。なにやら身体が黄色っぽくなっています。夕刻になって盛んに脱皮を始めて、その様子も目にしました。脱皮をした後は疲れきった感じです。かなりエネルギーを消費するんでしょうね。

蚕の脱皮
脱皮は疲れる〜

 今夜は持ち越しで、全部が脱皮するのは明日6日でしょう。 

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07/06 5齢
 

 今朝寝坊して起きたのが5時15分頃です。二階の蚕室を見て驚きました。カーペットの上に蚕が這い出ていたのです。飼育箱の桑の葉が食べ尽くされていたからです。案の定、脱皮は完全に終わっていました。
 急いで桑を採って来て、与えました。幸い昨夜久しぶりに雨が降って、桑は適度に湿っています。
 言い忘れましたが、飼育箱は3齢期に入って2箱から4箱に増やし、さらに5箱にしました。身体が大きくなって過密状態になったからです。当然、餌の消費量も増えます。僕もおちおち出かけられなくなりました。その分、蚕にはすっかり愛情が深まりました。
 声を出す哺乳動物や鳥の場合は、体調や心の内が分かりますが、昆虫類はそうはいきません。蚕も同じです。振動には敏感で、飼育箱にぶつかったりするとビクッと反応します。
 採ってきた桑には、他の昆虫やクモが付いています。見つけた場合は取り除きますが、見逃しもあります。蚕が眠についているときに、それらの虫が蚕に触ると、びっくりして頭を振るのです。

07/07 一日遅れグループの4眠
  一日遅れで孵化したグループが、昨日から4眠に入りました。今日は、ほとんどが眠状態で桑を食べません。その分、桑の消費量が半減したので助かります。僕も一休みです。このところ熱帯夜が続き、お蚕様もお疲れのようです。 

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07/08 一日遅れグループの5齢
  一日遅れで孵化したグループが、今朝5齢に入り、桑の消費量が倍増しました。用水路から大人の背丈ほどの桑を切ってきます。それを短く切断し、霧吹で吹いてポリ袋に入れ、冷蔵庫で鮮度を保ちます。
 今日から夜間も桑を与えることにしました。今までは僕が就寝する9時頃に給餌した後、翌朝までは桑の補給をしませんでした。蚕も夜は寝てくれるだろうと、勝手に思い込んでいたからです。
 しかし朝になって見ると、桑が食べ尽くされているので、昨夜真っ暗闇の中で観察しました。するとミシミシと音がするではありませんか。時間を置いて三回確かめたのですが、やはり音がします。そこで新しい桑を与えてみると、ザワザワと音が大きくなりました。
 人工密度ではありませんが、過密状態になったからかも知れません。ゆったりした飼育箱なら、一晩中食べても餌は朝まで持つでしょう。しかし僕の蚕室はそんなに広くはありません。そこで深夜に眠い目をこすって、餌を与える方を選んだというわけです。


住まいは過密状態

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07/10 糞(ふん)物語り
  この辺で、糞について考えて見ましょう。蚕の糞は真っ黒け、粒々で中々の造形美です。臭いもないし、手で掴んでも付着しないので、汚いという気が全くしません。現に毎日1回は飼育箱の清掃を行なっていますが、下敷きの新聞紙は汚れていないのです。
 1日分の糞がどれだけの量なのか、確認することにしました。例によって僕らしいアイデアをご紹介しましょう。
  1. 飼育箱には4mmメッシュのネットを敷いてあります。
  2. 食べ残しの桑を蚕ごと別の飼育箱に移動します。
  3. 糞が細かい葉屑と混ざり合った状態で残ります。
  4. 4mmメッシュ位の篩(ふるい)、篩がなければ先ほどの4mmメッシュのネットを使って、糞と大きな葉屑を選別します。すると、葉屑は小さいものだけが残ります。
  5. バケツを庭に据えます。横に扇風機を置いて適度な強さで風を送ります。その上から小箱に入れた葉屑混ざりの糞を落下させます。
  6. すると軽い葉屑はバケツの外に弾き飛ばされて、糞だけがバケツの中に溜まると言うわけです。少しコツが要りますが、糞まで飛ばされても回収できるように、新聞紙をバケツの風下側に置くのも手です。僕は百発百中でした。この原理は、子供のときに穀物を選別する方法をいくつか体験していた賜物です。

 この方法で計った結果、糞の重量は240g、容積は515mlでした。頭数は推定で約480頭、5齢5日目の蚕です。

蚕の糞


計量中

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