07/25 | 羽化 |
| 今朝、初めての羽化を確認しました。7月13日に飼育箱に繭を作ったグループの一匹です。繭を作り始めてから、12日目の羽化ですから予想どおりです。夏の場合、標準日数は12日〜16日と言われているからです。赤茶色のオシッコもしていました。これを、蛾尿(がにょう)といいます。
翅(はね)のシワと、オシッコの濡れ具合から、夜が白んで来たころに羽化したものと思われます。
羽化
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繭から出てきた穴も見えますね。ちゃっかり、ひとの繭をオシッコで汚していますが、これは場所が過密だからです。自然界では廻りに誰もいない状態が普通ですから、こんなことはありません。
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07/26 |
羽化の模様 |
| 観察用に生かしておいた繭は21個ですが、25日に続いて26日には蛾が10匹に増えました。羽化は朝方集中的に行なわれますから、観察はその状況を見逃すこともなく楽でした。
左ー蛾 右ー脱け殻
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蛾が出てきた
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左ー蛹の脱け殻 右ー蚕の脱け殻
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羽化の模様は次のとおりです。 - 繭が左右に揺れます。蛹から脱皮して、羽化した蛾が動いているのです。
- そのうちに、繭の長手方向の一端が水で濡れたようになります。蛾が口から液を出して、繭からの出口を柔らかくするのです。
- 濡れていた部分が、次第に膨らんできます。繭の膜を渾身の力をこめて、頭で押しているのでしょう。黒い目玉と触角が、膜を透して見えてきます。
- やがて穴が開き、頭が現れます。少し休んだ後、本格的に穴から抜け出てきます。
- 狭い穴を通ったのですから、翅はシワクチャですが、30〜40分で開きます。
- 並行して、蛾尿をします。25日は赤茶色だったのですが、それはむしろ例外で、それ以後の蛾はベージュ色です。
- 繭の中は、蚕と蛹の脱け殻二つだけが残ります。
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07/28 |
交尾 |
| 今朝、3匹が羽化しました。お尻がドデンとして、たくましい蛾が出てきました。すると、先に羽化していた14匹の蛾が、翅をばたつかせて騒ぎ出しました。そして、いま繭から出てきたばかりの新入り目指して寄ってきたのです。
そのうちの1匹が、素早く尻を新入りの尻に寄せました。新入りはまだ、翅が開き切れないのに、相手の成すがままです。そのうちに尻と尻はしっかりと結ばれました。交尾です。
羽化
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左ーオス 右−メス
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昨日までに羽化した14匹が、微動だもせずに繭にしがみついていた理由が、これで分かりました。すべてオスだったのです。メスがいないから、おとなしかったと言うわけです。
僕は先に羽化した14匹の中には、オス・メスがほぼ半数ずついるだろうと思っていたのです。とんだ先入観を持ってしまいました。オス・メスの違いについて予備知識はもっていたつもりですが、実際には判別ができていなかったのです。
観察と洞察という二つの言葉がありますが、蚕の飼育には、先ず観察眼を求められます。十分に観察をした後に、新たな謎の解明に向けて、洞察を必要とするのだと自戒しました。
今朝、羽化した3匹はいずれもメスでした。身体が長く伸びたときに、体節(たいせつ)の間から黄色の卵が見えます。交尾によって有精卵になるのです。
今日の観察で分かった、いくつかの現象を述べます。 - 一蛾の排卵からスタートして、その子供が羽化するのは、オスが先行するようです。
- メスは羽化すると、早くもオスをおびき出すフェロモンを出している節があります。繭から出てきた様子が、見えない場所にいる蛾も寄ってくるからです。
- オスは蛾尿をしますが、メスはしません。もしかしたら直ぐに交尾されるので、その閑がないのでしょうか(これに対して、観察日記の読者から、「蛾尿については、雌雄とも必ず排泄します。」というご丁寧なご指摘をいただきました。僕の観察不足で反省しております。)。
- オスもメスも、翅が開き切れないのがいます。繭から出てきた後、しがみついた繭が転がって、翅を展開させる空間が取れない場合に、そのまま固まってしまうようです。
- オスの求愛行動である羽ばたきは、音を伴います。羽ばたいている向うの景色が透けて見えますから、1秒間あたりの羽ばたき回数はかなりのものです。そのくせ、カイコ蛾は空中を舞えません。胴体が重いからだそうです。
交尾は10時間を経て、漸く一つがいが離れました。他の二つがいはまだ続いていて限が無いので、観察を中止します。
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07/29 |
産卵 |
| 昨日、交尾を終えたメスを産卵箱に移して置いたところ、今朝になって、産卵が確認できました。箱の底に無造作に産卵しています。卵は貼り付いていて、逆さにしても落ちません。
産卵
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きれいな黄色で、例えるならキビですね。と言っても今時キビを知っている人は少ないのですが、僕には他に例えようがありません。ついでに言っときますが、地方の産直店に行けば置いている所があります。お米に混ぜて焚くと美味しいです。
これで産卵に携わった両親は、子孫を残す仕事を追えて死を待つばかりです。言うのを忘れましたが、羽化してからの成虫は物を口にしません。卵だけを残して、子の顔を見ずにあの世へ旅立ちます。そして子は、親の顔も知らずに孵化しますが、本能の導くままに成長していくわけです。
もう一つ、観察のポイントとして、メスが産卵前にオシッコをするのかどうかに注目したのですが、その形跡はありませんでした。ということはメスはオスと違って、蛾尿をしないのではないかということです。今朝一匹羽化したメスも、蛾尿をしないまま交尾に入りました。それにしても前半はオスばかり羽化し、その後羽化するのはメスだけとは、一体どういうことなのでしょうか(これに対して、観察日記の読者から、「蛾尿については、雌雄とも必ず排泄します。」というご丁寧なご指摘をいただきました。僕の観察不足で反省しております。)。
もしかしたら、交尾のタイミングは刹那的なものかも知れません。メスが羽化したその直後しか受精のチャンスが無いかもしれないと言うことです。その機会を逃がさないように、オスが先に羽化してスタンバイしていると考えることはできないでしょうか。
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07/30 |
産卵2日目 |
| 産卵したばかりの卵は黄色ですが、昨日産卵した卵は色が変わっていました。さしずめ、ソフトクリームの巨峰色というところでしょうか。どうも僕の例えは、食べ物になってしまいます。
今朝産卵した卵の色
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昨日産卵した卵の色
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06/19に解説しましたが、僕が飼育を始めた卵は休眠卵(きゅうみんらん)でした。冷蔵庫で冬眠状態にしていたのを出庫して、あたかも春が来たかのように蚕をだました卵でした。 今回産卵した卵は、非休眠卵です。産卵した卵が、そのまま生育を続けて孵化するのです。
この違いが、卵の色にも当てはまります。休眠卵は黒い色をしていましたが、産卵したばかりの非休眠卵は黄色という違いです。この後、孵化するまで卵の色がどのように変化するか注目したいと思います。
ところで、昨日の産卵で務めを終えた蛾は、今朝死んでいるのを確認しました。生涯を閉じたのです。成虫になって、3日間足らずの命でした。
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08/01 |
蛾の死 |
| 成虫になった蛾の生存期間は、オスの場合8日前後、メスの場合は3日前後でした。交尾を成功させるために、メスの孵化がオスの生存期間中に行なわれる自然の摂理には感心します。
親はいなくなりましたが、卵は順調に育っています。卵の色は、ブルームの付いた巨峰の色でしょうか。 |
08/08 |
二世誕生 |
| 産卵後11日目に孵化しました。二世の蟻蚕が誕生したわけです。しかし飼育をスタートしたときに比べて10頭以下と僅かです。翌日以後も観察を続けますが、もしかしたら殆どが死滅しているかも知れません。だとしたら暑さのせいだと思います。
もう一つ重要なことは、この実験の目的は、蚕の生涯の1サイクルを観察することに重きを置いたことです。良質の繭を作ろうとする実験ではありません。普通ではありえないことを述べますと、もともと親同士が兄弟ですから、オスメスの交尾は近親結婚であり、生まれてきた子供にまともな成長を期待することは無理なことです。そういう意味では、実験そのものがむちゃなことかもしれません。
二世の蟻蚕
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取りあえず、これで蚕の飼育観察は、生涯の1サイクルを完了したことになります。
次表に蚕の生涯を掲げます。一生涯は51日間です。一代目の卵は群馬県蚕業試験場から出庫したものを受け入れたので、自分自身の観察が不十分です。それで生涯の1サイクルは、bの孵化からmの卵の期間までの51日間ということになります。結果的には、卵の期間は、一代目が9日、二代目が10日ですから、ほぼイコールでした。
なお、蛾については産卵と二代目孵化までの1サイクルを観察するために、メス蛾に重点をおきました。オス蛾の成虫期間は、メス蛾の羽化を中心に5日間前後ですから、一生涯の日数は2日ほど長くなります。
もう一つ、オスメスに関係なく、全体の個体差から沢山飼育した場合には、最終的に、一生涯は60日位になるかも知れません。
蚕の生涯 | 代 次 | 記号 | 過 程 | 月日 | 日数 | | 一代目 | a | 休眠卵の出庫 | 6/10 | | b | 孵化 | 6/19 | | c | 卵の期間 | | 9 | d | 吐糸開始 | 7/13 | | e | 幼虫の期間 | | 24 | f | メス蛾の羽化 | 7/28 | | g | 繭の期間 | | 15 | h | メス蛾の死 | 7/30 | | I | メス蛾の成虫期間 | | 2 | j | 出庫から死亡まで | | 50 | 二代目 | k | 産卵 | 7/29 | | l | 二代目孵化 | 8/08 | | m | 卵の期間 | | 10 | 生 涯 | n | =e+g+I+m | | 51 |
まとめ 観察全体を振り返って、気が付いたことや蚕への想いなどを以下に述べます。 - ちなみに2歳6ヵ月の子に飼育の過程を見せました。蚕の動きを喜んで興味しんしんでした。しかし繭になったときと、蛾になったときには正に眼が点になりました。繭を見て「カイコいない?」、蛾を指さして「ムシ、そとからくるの?」といった具合です。蚕がどこかへ行ってしまい、繭と蛾は新たな別物だとしか理解できません。
- では、3歳6ヵ月の子はどうでしょうか。1歳の違いですが、よく説明してやると理解できました。形が変わっていく不思議さは分かるのです。これが完全変態の面白いところですね。
- 幕末の開港によって生糸の輸出が始まりました。養蚕は外貨獲得の最重要産業になったのです。品質と生産性を向上させるために、蚕の生態は徹底的に研究されてきました。
- そのために、蚕の飼育マニュアルも多く、小学生から大人まで楽しく飼うことが出来ます。しかも、蛾になっても飛べないので逃げませんし、何より糞が清潔です。
- 養蚕はすっかり衰退し、道具類は歴史資料館に行かないと見られなくなりました。近い将来、養蚕の技能者がいなくなって、伝承の糸が切れることを愁います。
いささかの感傷をもって、このページを閉じます。長らくご覧いただき有難うございました。
Tさん・Mさん・AYちゃん・ASちゃんの作品
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