<学習指導案抜粋> 「どんぐりと戦争」と題するこの単元は、昭和17年9月全国森林組合連合会が配布した『小國民諸君』(小国民と原文ではなっている。本当は少国民か)という1枚のチラシを素材としたものである。
当時、全国森林組合連合会は戦争物資の調達機関として国から要請を受け、全国の尋常小学校(後に国民学校)にどんぐり拾いを呼びかけたのである。
昭和13年には国家総動員法が発令され、さらに、綿糸、石炭、ガソリンなどが配給制になっている。
こうした時代背景の中で、このどんぐり拾いが始まったのは、昭和15年のことである。
神奈川県森林組合連合会の協力で昭和17年のどんぐりの全国総量や売却先などの事実が判明した。また、神田村国民学校卒業生からも、どんぐりを集めた証言を得ることができた。
戦後半世紀を迎えようとしていた1993年、戦時下の庶民の体験を語りつぐ人は少なく、徐々に風化していく傾向にあった。直接体験している人ですら当時の生活の様子を詳細に語れる人は意外に少なかった。
そこで、複数の人物の記憶をつなぎあわせながら教材化の作業に取り組んだ。
神田村国民学校の子どもたちが、昭和17年の秋に拾い集めたどんぐり(樫の実・米俵1俵分)は、同年12月22日、日本通運平塚支店から、当時横浜にあった神奈川県森林組合連合会に送られている。さらに、各県の森林組合から全国森林組合連合会に集められた。
この年のどんぐりの全国総量は9,183石(22,957・5俵)にものぼり、総額6,617円で売却された。
(売却先=日本甘藷馬鈴薯(株)・飼料配給(株)・農林工業会(株)・化学興業所)
これらのどんぐりは無論、工業原料として活用され、売却益は軍事献金として国に納められた。
正確な比較ではないが、昭和17年の生産者米価は、1俵16円90銭である。平成5年の生産者米価は16,392円、ということから試算すると、現在の金額でおよそ641万8千円ということになる。
昭和17年の直接軍備費は188億4千万円である。この金額から考えると、どんぐりの売却益は極めてわずかな部分しか担っていない。「国家総動員」という精神の発露として、あたかも踏絵のように国民は様々なことを要求されたのだろう。
当時の人々にとっては当然のことのように受けとめられたこれらの奉仕作業が、実際の金額を示すことで、現代の子どもたちにどのように映るのか、興味深いところであった。 |