このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


子供の頃
 終戦前後の生活 ●

目次に戻る

修理屋さん

  1. 僕の親父は、菓子を作りながら雑貨屋を営んでいた。当時はマイカーがないから、村人は遠く離れた町場に買い物に出ることはなく、親父の店は結構客が多かった。店の前はちょっとしたコミュニティー広場になっていてガキ供もよく集まり、メンコやビー玉、釘さしなどをして遊んだものだ。
  2. この広場に、傷んだ家庭用品を直す修理屋さんが来るのを、僕らは楽しみにしていた。鋳掛け屋・唐傘の修理屋・ゴム長靴の修理屋・ブリキ屋などである。替わり番こに来るので、おじさん達の仕事を飽きもせず眺めることができて、言わば態のいい工場見学というところだ。
  3. 昔は何でも大事に使っていた。リサイクルという言葉はなかったが、直せるものは出来るだけ直し、いよいよ駄目になると、他の用途に転用する工夫をしていた。自分で直せない物については、こうした修理屋さんのお出ましというわけだ。そんなわけで、村には定期的に修理屋さんが廻って来たのである。空き地に道具一式を置いて店を広げると、言うとも無く伝令が飛んで、待ちかねたようにいろんな物を持ち寄った。
  4. <鋳掛け屋さん>
    鋳掛け屋さんは、穴の開いた鍋や釜を修繕する商売。穴を粘土で囲って湯口を設け、そこに溶けたハンダを柄杓で流し込むのである(もしかしたら記憶違いかもしれない。鋳鉄かな?)。
  5. 記憶違いを心配しないで言うならば、もう一つある。鋳掛け屋さんが来るまで、穴の開いた鍋釜を使わない訳にはいかない。そこでどうしたかと言うと、その穴に真綿を詰めたような気がする。水に濡れていれば真綿は燃えはしない。
  6. ハンダを溶かすには、コークスを燃料としていた。コークスとは、石炭を蒸し焼きにしたものである。黒灰色で金属光沢のある多孔性の燃料で、喧嘩友達の坊主頭をこれでこすったら敵はトタンに涙を流してしまう。ニックキ奴を確実にやっつけられると言うすっごい武器なのだ。鞴(ふいご)で風を送り、コークスを赤々と熾(おこ)す操作が実に面白い。よくふいごのピストンを動かすことをやらせて貰ったものだ。

    釜鍋
    釜と鍋

    鞴(ふいご)
    鞴(ふいご)

  1. <傘の修理屋さん>
    僕が子供の頃は蝙蝠傘はまだなかった。単に傘というと唐傘のことである。番傘とも言った。商家などで番号をつけて客に貸したことに由来した名称だそうだ。少し上等なのが蛇の目傘で、開いたときの傘の紙に描いた同心円の模様が蛇の目に見えるのが名前の由来である。
  2. 蝙蝠傘の登場によって、これと区別するために、唐傘と蛇の目傘を和傘、蝙蝠傘を洋傘と呼ぶようになった。
  3. 和傘は柿渋をひいた油紙を竹の骨組みに張ったもの。骨の蝶番側と雫の垂れる側には、蝋糸が使われていた。修理屋さんは、主として紙の破れと糸切れを補修するわけである。骨の折れたのは廃品となった傘の骨を使うという具合で、資源に全く無駄がなかった。

    唐傘
    唐傘

  1. 僕は雨が降ったとき傘を挿して外に出るのが楽しかった。高下駄を履いてカラコロと玄関から外に出る。バリバリと音を立てながら傘を開く。雨に当たるとパラパラと傘に弾く音が心地良い。思わず柄を肩に当ててクルクルと回す。遠心力で雫が周囲に飛び散る。子供ながらに実に風流な気分を味わったのである。
  2. <長靴の修理屋さん>
    長靴の修理屋さんは、使えなくなった別の長靴の断片を使って貼り合わせる。このとき、缶詰の空き缶に釘で沢山の穴をあけたもので、ヤスリのように貼り合わせ面をこすると、良く接着できるのである。この技術は自転車のパンクを自分で修理するのに大いに役立った。

    長靴の修理
    長靴の修理
    自転車チューブの修理
    自転車チューブの修理
  1. 当時いろいろの物が配給制であったが、長靴は1クラスで2足ぐらいが限度であった。くじ引きにすれば公平なんだろうけれど、山奥から通学する児童が優先権を持っていた。これでは中々手に入らないので、修理屋さんが商売繁盛したという訳である。
  2. 藁沓もかなり造られていた。むしろこの方が冬には適していた。凍(し)みる粉雪の場合には沓が濡れる心配がないので、ゴム靴よりもはるかに温かい。ゴム靴は冬は冷たいので、中に藁を敷いて寒さを凌いだ。

    藁沓わらぐつ
    藁沓
  1. ゴム靴と藁沓の違いは他にもある。道路が圧雪状態の場合は、底の擦り減ったゴム靴はツルツル滑るのである。そこでどうしたかというと、藁縄を靴の底から甲の部分に2〜3回グルリと回して縛り、滑り止めを施すのである。そこへいくと、藁沓の場合は全く滑らないので転ぶことがなかった。
  2. <ブリキ屋さん>
    ブリキ屋さんは、ブリキ製品を修理する商売。ジョーロ・ごみ取り・バケツなどを直すのである。接ぎ目のはがれたところに焼き鏝を当てハンダで溶着する。

    ブリキ
    ブリキ製品
  1. このときハンダが良くくっ付くように、塩酸の入った容器にブリキ片を入れてフラックスを作っていたように思う。ブリキ片を入れた時に白い煙が出たような気がするが、記憶がはっきりしない。もし当たっていたら、僕の観察眼も捨てたものじゃないと思うのだが!?。
  2. このフラックスを接合部に塗ってからハンダ付けを行うと、酸化物や汚れを取り除きハンダが良く乗るのである。
  3. ついでのことに“ブリキ”というのは,薄い鉄板にスズをメッキしたものである。興味のある人には、ブリキ板とトタン板との違い、それにまつわるイオン化傾向の話をすると面白いのだが、面倒だからやめておく(本当は説明に自信がナイのだ)。

目次に戻る

 

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください