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鍛冶屋さん
村には鍛冶屋さんがいた。この仕事場を覗くのが好きだった。コークスが燃えていて、その中に金物を入れ、ふいご(鞴)から空気を吹き込む。するとコークスは火の粉を散らして燃え上がる。ふいごは木製の箱型である。おじさんは左手でふいごのピストンを前後に動かし、右手に金バサミを握って金物をひっくり返したりする。
- 真夏の仕事は汗が目に入る。おじさんは手ぬぐいを仕事かぶりにして、一心不乱である。仕事かぶりというのは、手ぬぐいを額から頭を包むように後ろに廻して縛るだけのことである。村の男衆はみんなこのスタイルである。僕ら子供集もこの真似をした。
- 鍛冶屋さんが造るものは、鍬・鎌などの農機具、ヨキ・鉈(ナタ)・鎌などの山林機具が多い。鍬はほとんどが三本鍬である。村の畠は石ころが多い。平鍬では突きささらないのである。その三本鍬もたちまちにして減ってしまう。そうするとまた鍛冶屋さんに持ち込み、先を継ぎ足してもらうのである。
鍛冶師には刀鍛冶がよく知られている。これに対して村の鍛冶屋さんは野鍛冶という。前者が伝統の美を追求しているのに対して、後者は生活の利便性を追求している。お得意さんの意見を尊重し、オーダーメイドの必需品を提供しているというわけだ。
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