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桶屋さん
- 村には鍛冶屋さんと共に桶屋さんが繁盛していた。というのは、その頃は殆どの容器が桶だったのである。風呂桶・手桶・飯櫃(めしびつ)・漬物樽・味噌樽・醤油樽・盥(たらい)・下肥桶・柄杓・・・と挙げたら限りが無い。僕の家は小売店を営んでいたので、店には黒砂糖と赤砂糖(ザラメ)を入れた外側が漆塗りの桶も置かれていた。
- ところで桶と樽の違いであるが、蓋の無いものを桶、蓋の有るものを樽と言う。桶はしょっちゅう出し入れをする容器で、樽は長期間貯蔵するために蓋があると考えれば分かりやすい。ここでは一言で桶と呼ばせて貰う。いずれにしても、昔はそこ等中が桶だらけといった感じで、桶の多さが裕福度を表していたと言っても過言ではない。
- 僕は作業場を覗くのが好きでよく行った。杉や椹(さわら)の匂いがぷーんと匂って心地よい。作業場は整然と、しかし足の踏み場も無いほどにいろんな物が置かれていた。鉋(かんな)のかからない桶材、箍(たが)材の割竹、工具類である。
- まん中におじさんが座っていて、盛んに仕事をしている。一つの桶を造るのに結構時間がかかるから日を替えて見学すると色んな工程を知ることができた。
- 桶は何枚かの板を組み合わせることによって円筒形の胴を作る。断面の継ぎ目をぴったり合わせるのが職人の腕の見せ所だ。胴にタガを嵌め、底板を上から叩き込んで完成する。
カンナ掛け
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タガを締める
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- タガには、お櫃(ひつ)のように真鍮などの金属製のものもあるが、竹製のものが多かった。「木元竹末(きもとたけうら)」の諺どおり、先のほうから器用に裂いていく。それを編んでタガを造るのだ。
- 桶屋さんは新しい桶を造るだけでなく、修理も行なっていた。特に竹のタガは桶の胴体よりも寿命が短い。タガが古くなると「タガが緩む」ので、これを新しいのに取り替える。まさに「タガを締める」のである。これが転じて人生訓の言葉として今でもよく使われる。
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