このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

子供の頃
 終戦前後の生活 ●

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菜洗い

  1. 今では全国的にすっかり有名になってしまった野沢菜の漬物。長野・新潟の土産品にとどまらず、今ではスーパーマーケットなどの定番食品になってしまった。

    <参考>
    野沢菜
  1. 僕達の村でも野沢菜とともに赤蕪の漬物は、昔から今に至るまで食卓に登場する横綱である。
  2. 野沢菜のルーツは、「天王寺蕪」だという。宝暦6年(1756)、信州野沢の健命寺の和尚が京都に遊学して持ち帰ったのが天王寺蕪の種子。葉柄、茎丈ともに大きい「蕪菜」に成長した。野沢温泉の気候や風土にあっていたのだろう。「野沢菜」として信濃川沿いに広まった。たちまち庶民の日常食料として定着した。その証拠に、「お葉漬け」「お菜」と呼ばれて愛されてきたことで分かる。
  3. 野沢菜と同様に有名になってしまった「お焼き」にも、野沢菜の餡が使われて好評である。僕も子供の時に野沢菜の余り物を刻んで、粉と掻き混ぜてフライパンで焼いていた。お袋が農作業や行商から帰ったら食べられる、この程度の料理はしたのだ。
  4. 野沢菜は、11月初旬の霜の降りるころに収穫する。集落の各区ごとに共同の水場があって、ここで女衆が菜洗いをする。この季節の楽しく賑やかな年中行事である。蕪を切り落とし、根元の茎部分に軸方向に包丁の刃を入れて浸かりやすくする。
  5. 干して水切りをしてから漬けこむ。大桶の中に菜を並べ、塩をふりかけ、同じ手順を繰り返して段を重ねていく。味付けには、唐辛子・ニンニク・昆布・煮干しなどを入れるが、これが作り手の個性が出るところだ。重石を載せてこの日の作業は終り。翌日には塩の力で水が上がるので、重石を軽くする。
  6. お葉漬けは、12月中旬頃から食べられる。1月頃には「べっこう色」に変わって美味しさが増す。ただし、桶から出してすぐに食べることが肝心だ。空気に触れると酸化を始め、時間と共に味が落ちるからである。一番美味しく食べる方法はお茶請けだ。特に薄氷が張った桶から出したお葉漬けがシャキシャキして美味しい。
  7. 野沢菜の蕪は別に漬物にしたり、煮物にもできる。菜洗いのときに僕達が生でかじった蕪は赤紫色だったが、今は白っぽい蕪が多いようだ。品種改良されたのだろうか。
  8. 寒さの厳しい山村の冬。お年よりの茶飲み友達がコタツを囲んで、家伝の味を自慢したり相手の漬け方を誉めたりする。山村の農閑期は、こんな憩いの時を繰り返して春を迎える。

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