このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

子供の頃
 終戦前後の生活 ●

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シタンナレヨ

  1. 夏の夕方トンボのような昆虫が、群れをなして北から南に大移動するのだった。手の届く高さからかなり上空に亘って、ひらひらと頼りない飛び方をする。中には疲れたように、その辺に羽を休めるものもいた。これなら簡単に掴まえられる。
  2. 僕達はこれを掴まえる競争をしたものだ。弱々しい飛び方だから、昆虫網を使う必要はなかった。「下んな〜れよッ! 下んな〜れよッ!・・・」と叫びながら竹箒を振り回せば、面白いように落とせるのである。「下んな〜れよ」とは、下へ降りて来いという意味である。このパフォーマンスは誰となく考えられたものだが、実に当を得たものだと子供ながら感心したことを覚えている。

  1. この昆虫の名前を、僕達はなんの躊躇もなく「シタンナレヨ」と呼んでいた。きれいな川の指標生物で「カワゲラ」と知ったのは、ずっと後のことである。ましてカワゲラの何たるやを知ったのは、インターネットで検索できるようになった最近の話だ。

    <参照>
    カワゲラ

  2. カワゲラは《川に棲むケラ(螻)》の意であろうか。何種類かいて、どれも幼虫のうちは1〜3年程度を水中で過ごす。主に他の小さな水生昆虫を食し、春から夏にかけて脱皮して成虫になる。
  3. 成虫は食物摂取の術をほとんど持たず、生殖活動の役目を全うする。このような生態は昆虫の世界では珍しいことではないが、あまり知られている話でもないそうだ。
  4. 幼虫は流されないように岩にしがみついているが、増水によって流されてしまう場合がある。羽化した成虫は産卵のため、できるだけ上流をめざして飛翔する。生態の不思議というほかはない。なるほど言われてみれば、シタンナレヨがこぞって北から南を目指していたことが納得できた。信濃川の源流である奈良井川は、南の中央アルプスを源としているのである。
  5. 余談であるが、僕達が成虫のシタンナレヨを掴まえたのに対して、天竜川上流の上伊那辺りでは幼虫を捕って食用にする。近辺の観光地で販売している「ザザムシ」がそれだ。「ザーザーと水の流れる瀬に棲んでいる虫」を総称した名前だそうだ。主に佃煮にするが、この辺り俗にいうゲテモノが多い。イナゴは言うに及ばず、蜂の子と共にザザムシもサービスエリアで求めることが出来る。

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