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21.9.11〜12砺波平野の散居村/白川郷・五箇山の合掌造り集落/金沢 <砺波平野の散居村> - すぐる年、地域の図書館でリサイクルブックフェアがあった。その折、A4版の写真を主体とした本が目にとまった。<いのちの ふるさと・水田稲作 水田は国土と文化を守る/㈱ジャパンレス・フォト/1991.12.15>であった。この表紙を飾っていた写真が「富山砺波平野散居村風景」である。その美しさに見とれてしまい、貰ってきた。しかし本の中身には、散居村に関する記事がない。そこでインターネットで検索したところ、かなりの情報が得られた。そして、たちまちその魅力にとらわれたのである。
- その思いは募るばかりで、ついに訪問を決意した。その時期は田園が黄金色に色づくころとした。幸いライブカメラでその様子が分かるので、タイミングは計りやすい。空気はまだ霞んでいる時期であるが決行した。
- 群馬県を未明に出発し、北陸自動車道の連続26トンネルを通過すると、日本海に面した工場群と市街地がある一方、山岳を控えた扇状地には田園風景が広がる。富山県の穀倉地帯がしだいに広がってくる。田園が黄金色に染まってきており、屋敷林の散村風景が豊かだ。
- 当初、砺波ICで降りようと思っていたら、意外にもカーナビは富山西ICを指示した。すなおに応じ、降りたのは8時ごろである。いくつかの丘陵を越えて、しだいに高度を上げて取りあえずは夢の平スキー場をめざす。次にスキー場を見過ごして林道を進めば、U字形に迂回している尾根の先端に出る。
- ここに、砺波平野の散居村を眺められる展望台がある。高雲のもと遠方まで空気はほぼクリア、まさに大パノラマだ。この扇状地をつくり出した庄川(しょうがわ)が眼下に伸びている。遥かかなたの北側は、肉眼では捉えることが不可能だ。
散居村の展望台 |
碁石をばら撒いたような散居村 |
- 展望台の登り口に解説板が設置されている。砺波平野の散居村は、中世末から近世初頭にかけて、庄川に広がる扇状地を開発することによって形成されたという。散居民家の数はおよそ7,000戸を数える。
- その庄川であるが、遡上すると岐阜県高山市南西部の旧荘川村で一色川と合流する。その一色川が幹川で、水源は烏帽子岳(1,625m)である。
- 砺波平野は庄川と、隣接して西側を流れる小矢部川とによる複合扇状地である。往古より庄川は氾濫を繰り返し、庄川扇状地の西から東を何度もその流れを変えてきた。
- 散居村とは、広大な田園地帯に農家が点在する集落のことで、正式には"散村"という。碁石を撒き散らしたような景観だ。農家は東向きに建ち、カイニョと呼ばれる屋敷林に囲まれて、周りの田んぼを耕作している。点在する家々の距離はおよそ100〜150m離れている。屋敷林は風雪から守るために、西南側に厚く、杉・けやき・竹・柿・栗などいろいろだ。落葉や枯れ枝は燃料源、竹は竹製品の資材になる。
散居村の道祖神 |
カイニョに囲まれた農家1 |
カイニョに囲まれた農家2 |
カイニョに囲まれた農家3 |
カイニョに囲まれた農家4 |
カイニョに囲まれた農家5 |
- 散居村の風景は、黒部川・常願寺川・神通川の扇状地にも存在する。高速道路を走っていても、その風景は見飽きることがない。
- 散居村は扇状地に形成された風景であるが、山際では農村の原風景ともいうべき棚田もよく見られる。
棚田の風景 |
- 次の見学地、合掌造り集落の五箇山へは、砺波市から南砺市を経由し、旧城端町の国道304号を通る。途中の展望台からも散居村の景観が望める。大きな石碑に、フラワーラインと彫られている。平成2年 建設大臣綿貫民輔との記名がある。
散居村の展望台 |
フラワーラインの碑 |
<五箇山・相倉集落> - 国道304号の長いトンネルを抜けると、庄川を見下ろす台地の相倉集落に着く。五箇山(ごかやま)とは、富山県の南西端にある南砺市の旧平村・旧上平村・旧利賀村を合わせた地域である。平家の落人が住み付いたと伝えられている。庄川の谷が深く刻まれて、人は容易に近づけなかった。そのために独自の生活と文化が形成された。その象徴が合掌造りの集落であろう。昔はそこらじゅうに合掌造りが見られたそうだが、激減してしまったという。
- 合掌造りとは、急傾斜の切妻造り・茅葺きの民家をいう。1階は大工の手で造られるが、屋根を構成する合掌部分は、今でも村人が共同で造っているという。広い屋根裏では養蚕が行われていた。
- 相倉集落は、庄川からやや離れた段丘上にある。この集落にある32戸のうち20戸が合掌造りだ。集落とその背後にある雪持林が、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
- 平成12年に訪問したことがあるが、その時に比べると高速道路が開通し、一般道も整備されてアクセスが容易になった。
相倉集落 |
世界遺産の碑 |
<五箇山・菅沼集落> - 庄川を上流に遡ると、菅沼集落につく。岐阜県との県境に近い旧上平村。庄川の谷にせり出した河岸段丘の平坦地にある。集落には現在12棟の家屋があり、そのうち9棟が合掌造りである。ここも重要伝統的建造物群保存地区で、集落と背後の雪持林や茅場などの山林を含めた地域が史跡に指定されている。集落を一望できる、菅沼展望広場が駐車場を兼ねており、エレベーターも設けられている。
- 五箇山は江戸時代、和紙や養蚕、鉄砲の火薬の原料である塩硝が主な生産品であった。塩硝の生産は、明治になって加賀藩の庇護がなくなったことや安価な輸入品のために衰退してしまった。集落内の”塩硝の館”で見学できる。
菅沼集落1 |
菅沼集落2 |
<白川郷・荻町集落> - 庄川をさらに遡ると、岐阜県の白川村に入る。白川郷・荻町集落は、庄川の右岸の三日月形をした段丘で、前述の2集落より上流であるが、一番広く集落の規模も大きい。152戸のうち、掌造り家屋が59棟ある。重要伝統的建造物群保存地区として保存されている。
- ここは何と言っても荻町城跡が自然の展望台となっており、ほぼ集落の全体像がうかがえることだ。山間にしては珍しく多くの田園がある。
荻町集落の全貌 |
荻町集落1 |
荻町集落2 |
- 白山スーパー林道を利用して、岐阜県から石川県に移動する。有料道路で、普通車3,150円はいささか高いが、一度は通ってみたかったし、「温泉に泊まって通行料片道無料キャンペーン」もあるので、あえて利用した。それにしても全長33.3kmとは、ずいぶん長い。紅葉時期は見ごたえがありそうだ。白山(2,702m)の雄姿は、稜線が雲に隠れて見えなかった。
- 石川県側の林道は急峻で、谷は深く道路の大きな折り返しと、トンネル13箇所によって標高差を緩和している。道路のメンテナンスは、しっかり行なわれているようだ。林道を走っていて感じたのは、名前のとおり白い山ということだ。地質は飛騨変成岩類だとか濃飛流紋岩類などと難しくて解らないが、とにかくそこら辺の岩がやたら白いのである。
ふくべの大滝 |
かもしか滝 |
蛇谷大橋 |
- 長い山岳道路を終えて着いたのが一里野温泉。ここに”ろあん”と名付けられたホテル がある。天然温泉と古民家を移築した民芸のお食事処で、いろりを囲んでの炭火焼き料理が売りである。”ろあん”の曰くは、「炉で安んずる」とのこと。ここで白山スーパー林道の料金分がキャッシュバックできるメニューをインターネットで予約しておいた。
- 夜半から降りしきる雨。締め切った窓を透して、森林をたたく雨音が耳を打つ。5時を過ぎても外は明るくならず、露天風呂に浸かっているうちに、漸く白んできた。他の客はまだフトンの中とみえる。貸切風呂の気分で程よい湯温で朝湯をくつろいだ。
<金沢> - 2日目は、金沢市に移動。にし茶屋街と野町・寺町寺院群を散策する。犀川の南側に位置し、近くの室生犀星の生家跡に記念館がたっている。”にし茶屋街”の近くに駐車場があって、茶屋街と”金沢市西茶屋街資料館”を見学できる。
- 金沢市には、かつて花街が3か所あった。ひがし茶屋街・主計町(かずえまち)茶屋街・そしてここ”にし茶屋街”である。ひがし茶屋街は武士階級が利用し、にし茶屋街は町民が利用した。もっとも観光地化されているのは、ひがし茶屋街である。
にし茶屋街 |
- 野町・寺町には70にも及ぶ寺社があるという。加賀藩の三代藩主-前田利常が、今でいう都市計画を行なった際、ここ寺町と卯辰山山麓の2箇所に集めたという。大きな寺、小さい寺と様々だ。石垣・土塀に挟まれた小径や風情あふれる坂が多い。
寺町通り |
静寂な寺院 |
- 妙立寺は複雑な建築構造と、外敵を欺く仕掛けがあることから忍者寺と呼ばれ、観光の目玉となっている。
妙立寺の賑わい |
大きな寺院 |
- ひがし茶屋街は、卯辰山(うたつやま)の山麓を流れる浅野川の右岸側にある。近くの浅野川左岸には主計町(かずえまち)茶屋街がある。どちらも木虫籠(きむすこ)と呼ばれる出格子のある古い街並みで、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
ひがし茶屋街 |
主計町茶屋街 |
- ちなみに主計町は、住居表示の実施のおり、一度は「尾張町二丁目」と町名変更されたが、歴史を重んずる住民の強い意志を酌み、昔の町名に復活したという。
- 卯辰山山麓寺院群は、卯辰山山麓におよそ50にものぼる寺院が見られる。藩政時代に真宗と他宗に分けて寺が配されたなごりがあるという。
- 卯辰山は山全体が公園となっていて、山頂には日本海まで見渡せる展望台がある。この日は雨雲に遮られて市街地そのものが紗におおわれている感じであった。
- 高速道路に乗り、帰路に着く。最初のサービスエリアで昼食を取って、群馬県へとひた走る。土曜日だというのに交通量は少なく、上信越自動車道の軽井沢ICから漸く車が増えた。
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