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14.7.28 武尊山 - 群馬県には名山数々あれど、中でも武尊山(2,158m)は上州人の心の拠り所ともいえる信仰の山として知られる。読み方は「ほたかさん」。多くの名山が他県との境界に位置しているのに対して、武尊山は上州の北東県域内に座を据えている。
- 国土地理院をはじめ、大概の地図を見ると、主峰のみが武尊山のように感ずるが、連峰あるいは山塊として捉えるのが妥当であろう。流域面積が大きく、この山塊に降った豊富な雨は、群馬県内においてすべて利根川に流れ込み、灌漑・飲み水・漁業・電力等々、数々の恵みを与える一端を担っている。
- 関越自動車道の赤城高原サービスエリア下り線からは、この雄姿を仰ぎ見ることができる(下の写真は霞のために空と山との境界がはっきりしなかったのでレタッチ処理した)。
武尊山
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- 妻と僕はいつものように、早立ちの行動をとった。家を出たのが3時15分。めざすは武尊山の南東に位置するスキー場、スノーパルオグナほたか。ここから前武尊に取り付き、武尊山をめざすルートである。
- まだ日が長いとはいえ、この時間は真っ暗である。車のライトを点けて出発した。すでに高速道路には首都圏のナンバーが走っている。辺りは漆黒の闇。沼田インターチェンジを下りて、R120を尾瀬・日光方面に向かう。
- 椎坂峠を超えて少し樹木の存在が視認できるようになった。しかし山肌までは分からない。それが確認できるようになったのは、老神温泉を過ぎてからである。そして天候の具合も観測可能な状態になった。今日は曇り。沢筋には霧も立ち込めている。願わくは雲海であってくれればいいのだが・・・。
- スキー場の入口に無料の駐車場がある。歩行開始5時15分、牧柵をくぐって砂利道の車道を登っていく。スキー場が夏の間は牧場になっている。黒い牛が10頭ばかり草をはんでいた。和牛だろうか。登る程に休業中のレストランがあちこちに点在し、やがて最上部に至ると、リフトと共に車道も途絶えた。
- ここで朝食、天候はまずまずだ。ザックを背負って出発、丸太の階段がしばらく続く。笹や草の朝露で、腰から下はたちまちびしょ濡れになってしまった。しかし冷気が清々しい。川場村旭小屋からの道と合流した。この辺りオオシラビソの樹林帯で下草は笹。冬は山スキーの適地と見た。
ダケカンバとオオシラビソ
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- やがてダケカンバが増えて、じょじょに植生が変わっていく。突然前方でザワザワと笹が揺れて、先を歩いていた妻がびっくりして後ろに退いた。ここで僕が首に下げていたサバイバルホイッスルを口に加えて妻と代わった。熊かカモシカか。いざとなったら笛をけたたましく吹けば、向こうが逃げるだろう。しかし音は止んで、するするとダケカンバを登っていくものがある。何と今まで見たことのない大きな猿だった。そしてそれよりも遠くの木々から仲間たちがじっとこっちを観察しているのである。
- 猿とのご対面を終えてすぐに前武尊(2,039.7m)に着いた。どうという山ではないが、樹林の中に東屋風の建物があって、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の像が安置されていた。そういえば、途中に小さな祠や道祖神のようなものが2,3箇所あって新しい幣束や賽銭が供えてあった。考えてみると、山名の由来が日本武尊である。武尊山は信仰の山として今も崇められているのだろうかと一瞬、厳かな気分になってしまった。
日本武尊の像
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- ここからアップダウンが幾つか続く。最初の岩山がすぐに見えた。剣ケ峰である。木の間越しにちょっと格好いい山が見えた。笹原を右に巻いて歩くのだが、笹の切り口に躓いて歩きづらい。このトラバースが結構なアルバイトであった。ここでも別の猿軍団に逢った。
剣ケ峰
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- 次のピークは「家の串山(2,103m)」である。妙な山名であるが由来は不明。植生はシラビソに加えて、コメツガと這い松が多くなってきた。
黒紫色の球果をつけたシラビソ
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- ここを過ぎると痩せ尾根の岩稜が続く。足を取られて転落しないように気をつけながらも、岩根の花に思わず笑みを誘われる。
行く手の尾根と左に武尊山
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ヒメシャジン
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ハクサンオミナエシ
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イワオトギリ
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ミヤマオグルマ?
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- そうかと思うと、なにげなく見るとトンボがハエを捕らえている場面もあった。
ハエを捕えたトンボ
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- 間もなく武尊牧場からの道に合流、程なく水場に着いた。その名は「菩薩界の水ー群馬修験」とある。この水は文句なくうまかった。空のペットボトルに補給した。喉が渇いたときの水分摂取は冷たい無味無臭の水に勝るものはない。水場は中ノ岳(2,144m)の直下にある。昭文社の「山と高原地図」では笹清水と表記されている。頂上に近い場所で、しかも登山道の脇にあるとは実に貴重ではないか。
菩薩界の水
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- この水場からすぐ先に空池があり、引き続いて細長い窪地の中に三つの池が点在していた。実に不思議な地形で地殻変動の裂け目か、あるいは噴気口の裂け目ではないかと察せられた。この窪地のすぐ左側は山の斜面が谷底に落ち込んでいるのである。
- 池の周りの植物を見ると、大雨の時にも冠水した様子が見られない。おそらく段々低い方の空池の方まで流れてから、伏流して水位が上がらないのではないかと思われた。
窪地の三ツ池
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- この池の周辺に咲く花をご紹介しよう。キヌガサソウは花が終わって実が付いたところだ。いずれも草地に生える代表的な花である。
キヌガサソウ
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カラマツソウ
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コバイケイソウ
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ハリブキ
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- 10時05分、武尊山に着いた。沖武尊の別名がある。5,6人の先客がいた。写真の向こうには谷川連峰が見える筈であった。しかし雲海の層が高くて視界は遮られていた。
武尊山
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雲海で展望不能
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- 「武尊山展望案内盤」が設置されている。晴れていれば、まさに360度の大パノラマが満喫できる。しかし展望の面では今日は外れてしまった。雨に降られなかっただけ良かったではないかと気持ちを切り換える。
方位盤
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- 正置の三角点標識の傍に仮設の対空標識があった。「H14.7月末日まで壊さないで下さい。」とある。今日は28日だから、たぶん航空測量は終わっているだろう。標識は置台に丁度いいらしくカメラが置かれていた。
三角点標識
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対空標識
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- 東側からガスが張ってきた。これ以上いても晴れる見込みは薄いとみて、30分ほど滞在したあと僕達は山を下った。途中、武尊牧場の方から登って来た小学生の一団に逢った。山で逢うのは同じ中高年ばかりだったので内心ほっとした。夏休みのせいだろう。
- 元来た道を戻り、前武尊を背に急坂を下っているときに、修験者のグループと出くわした。10人ほどで女性もいた。白装束、白鉢巻の姿である。一升瓶を持っている。道祖神にお神酒を奉げて祝詞をあげていたのである。その後早足に上を目指して消えていった。雲の湧く峰を越えて武尊山に向かうのであろう。
修験者
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道祖神
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<備考>僕達は前武尊を経由したかったので本コースを選択したが、健脚コースである上に牧場の中を通るのであまりお勧めできない。すぐ西側に「川場野営場」からのコースがあるので、前武尊を経由したいなら、そちらをお勧めする。
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