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京阪中之島線の秘めたる大志

━━4.中之島線に籠められた京阪の真の大志━━





■京阪中之島線の現状

 以上まで記してきたとおり、遠大なる構想を蔵している京阪中之島線ではあるが、現状の利用状況は低迷しているといわれている。詳細な数字が報じられていないため、軽々に判断するのは危険だとしても、筆者自身が何度か乗車した経験からいえば「空いている」という感覚は拭えない。

 もっとも、京阪がこの状況を予測できなかったとは思えない。計画発起時点はバブルがすっかりはじけた大不況期にあたる。堅実な予測が加えられたと考えるのが妥当だろう。

 そもそも中之島線は、ネットワーク性や相乗効果といった言葉から最も遠い路線である。なにわ橋・中之島は他線からまったく独立した駅である。四ツ橋線肥後橋と地下連絡通路でつながっていたはずの渡辺橋は、ビル建替工事に伴い約 4年の長きに渡り地下連絡通路を閉ざされている。

渡辺橋
渡辺橋駅−肥後橋駅間連絡通路閉鎖の案内


 このような状況では、今まで存在した太い流れを持ってくるという芸当は難しい。京阪中之島線とは、構造的にクローズしている鉄道路線であり、あくまでも沿線地域内相互の利用者を育てていく以外の選択肢を見出しにくいのではないか。

 参考文献(07)には「中之島西部地区には多くの施設が集積しており、また再開発に伴う地区内外における流動の活発化が期待される地区であるにもかかわらず、既存の各最寄鉄道駅からも、徒歩により相当の時間を要するアクセス不便地区となっている」と記されているが、中之島線の現状はこの目的意識にかなうものにはなっていない。たとえ中之島線の新駅ができようとも、肝心の京阪のネットワーク性が不便であれば、状況が改善するとはいえないのである。

 具体的にいえば、JR新快速沿線から大阪国際会議場にアクセスしようという利用者は、梅田(御堂筋線)淀屋橋(徒歩)大江橋(中之島線)中之島という経路を選択するだろうか。おそらく、大部分の利用者はそんなかったるいことはせず、大阪駅頭からタクシーに乗るに違いない。

 問題は、このような状況を京阪が是としているかどうかである。筆者は、是としている、と見る。そのように考えないと、平成10年代に中之島線プロジェクトが動き出した理由を見出しにくいというものだ。





■如何にも関西的な行動原理

 中之島線開業初電に筆者と同道したTAKA様は、参考文献(08)で中之島線が成功するために「京橋から『大阪環状線で大阪駅orJR東西線で北新地駅』へ出ていた客が中之島線へ転移すること」が必要と分析されている。残念ながら、この分析は当を得ていないと筆者は判断している。

 勿論、そのように言い切るからには、相応の材料をつかんだつもりでいる。以下にその断片を示そう。

大江橋
夕刻の大江橋付近における退勤者の動き
(←淀屋橋 梅田→)


 この光景に最初に接した時、筆者はほとんど絶句していた。そして「なんと常識はずれな」と感じざるをえなかった。あろうことか、この退勤途上の方々は梅田を目指しているのである。大阪の中心部、土佐堀川南岸から 1km以上も歩いて!

大江橋
夕刻の大江橋付近における退勤者の動き
(←淀屋橋 梅田→)


 一般論として、徒歩による鉄道へのアクセス距離は平均で700〜800m程度、最大で 1km強程度といわれている。大阪中心部に通勤される方々の少なからぬ部分は、この一般論を軽々と超えているではないか。おそらく、筆者が目撃した方々は、大阪駅からJRに乗り自宅に帰ろうとしているはずである。JR新快速は鬼神のような駿足ぶりであって、自宅が姫路にあろうとも滋賀県下にあろうともべらぼうに遠いわけではない。そして、地下鉄に乗る金を吝しんで歩くという姿は、まったく関西的な行動原理といえようか。

渡辺橋
夕刻の渡辺橋付近における退勤者の動き
(↑肥後橋 梅田↓)


 同じような行動原理が関西在住の方々の一般論であるならば、TAKA様が指摘するような動きはあまりないと考えてよかろう。京阪沿線在住かつ梅田地区に通勤する方々のうち、京橋でJRに乗り換えることなく淀屋橋から歩いている層は少なからぬ数を占めている、と考えるのが妥当である。

 中之島線開業後は、最寄駅が大江橋になって、歩く距離が少し短くなったという変化が起こった程度にすぎない。当然ながら、利用者のなかには歩く距離の最小化を優先事項とする方々も存在するはずで、かような「徒歩回避層」とも呼べる利用者が中之島線に転移してくるとは考えにくい。この「徒歩回避層」を中之島線に取りこもうとしても、効率が悪いのは明らかだから、彼らが主なターゲットに据えられているわけではないだろう。

概略図
京阪中之島線概略図




■中之島線に籠められた京阪の真の大志

 以上まで通してみれば、京阪が中之島線に籠めた真の大志が見えてくる。詰まるところ、京阪は土佐堀川南岸−梅田間を通る通勤者(≒JR沿線の居住者)の流れを堰き止めたいのだ。徒歩で往来する方々はあくまでも表層にすぎない。地下の御堂筋線にはもっと巨大な水流があるではないか。その流れのいくばくかでも引き寄せることができれば……、と発想するのは決して不自然ではない。

大江橋
夕刻の大江橋付近における退勤者の動き
(↑淀屋橋 梅田↓)


 いうまでもなく、これは簡単なことではない。京阪沿線に居住し大阪中心部に通う方々が増えない限り、中之島線はもとより京阪本線の利用者の伸張にはつながらない。しかし、京阪の真意はここにあるのではないか。JR新快速による郊外居住の流れを押しとどめ、再開発による中之島地区そのもののポテンシャル向上に、中之島線開業による利便性向上を加え、京阪本線沿線の居住地としての魅力を上げようという試みではないか。

 だから、「中之島線は不振」と報じられても、京阪としては想定の範囲内、泰然自若というところだろう。これだけ長期的な展望がひそんでいるならば、短期的な不利益は苦になるまい。たとえ中之島線が不振でも京阪本線から内部補助もできるのだ。さらにいえば、中之島線プロジェクトは総事業費 1,503億円から 1,300億円余まで圧縮されており(参考文献(09))、当面の資金繰りは楽になっているはずである。

中之島
中之島を出発する直前の出町柳行快速急行
(日曜朝 8時台とはいえ車内はガラガラに空いている)


 ただし、筆者のこの見立てが的中していたとしても、既に記しているとおり、京阪にはネットワーク性が乏しいという問題点が残ったままとなる。箱庭的発展を求めるのは是か非か。中之島線がいずれ「成功」したとしても、それは大阪の交通ネットワークにとっての「成功」と同義なのか。短期的な視点ばかりでなく、中長期的にもおおいに着目したい点である。





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