このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

第1章 熊本市電超低床電車の意義

 

 熊本市電には「日本初」が三つもある。

 第一は冷房路面電車(昭和53(1978)年)、第二はVVVF制御電車(昭和57(1982)年)、第三が超低床電車(平成 9(1997)年)である。

 熊本市電は昭和50年代初頭(1970年代後半)までは衰退傾向にあり、一時は全廃される予定だったという。こうしてみると、少なくとも二つの「日本初」は、熊本市の先進性を意味するものとはいいにくい。

 自家用車・バスでは冷房が既に標準装備であったから、冷房路面電車の導入は不可避の施策といえた。VVVF制御電車は、鉄道では行いにくい実験を軌道で行うという試作的要素が強く、専らメーカー主導であった。その後発展したVVVF制御の始祖になったわけだから、技術史的な意義は大きいものの、VVVFであろうが抵抗制御であろうが、利用者にとってはどちらでもよい事柄にすぎない。

 ここで超低床電車は、前二者と比べ、明確な思想性を持っている点が決定的に異なる。路面電車が今後も存続するという展望のもとで、利便性と福祉を重視した車両を投入した点は、高い評価が与えられるべきである。また、新車導入の新しい制度をも整備した意義は極めて大きい。

 

   

写真−2 熊本駅前にて         写真−3 辛島町にて

日本初の冷房路面電車、及び日本初のVVVF制御電車は、熊本市電であった。

 

 超低床電車は、とにかく乗降しやすい。電停から段差を経ることなく車内に乗りこめるとは、それまでの常識を覆すもので、まさに画期的である。車内の通路幅がやや狭いものの、全般に利用者にとって使いやすい車両であることは間違いない。

 超低床電車の単価は2億円強。最初の1編成は交通局が購入し、在来新製車との差額を熊本市の福祉予算から補填した(※)。

 平成11(1999)年度に増備された2編成はリース方式が採られた。車両はリース会社が保有、リース料は交通局が支払うが、その全額が補助金として熊本市から支給される、という枠組である。この枠組において、交通局の実質的な負担はゼロである。超低床電車の所有権がリース会社に属し、交通局は減価償却する必要がないことから、さらに荷が軽くなったといえる。なお、平成12(2000)年度増備予定の1編成に対しても、同様のリース方式が採られるという。

 福祉予算が投入されたことといい、リース方式を採り超低床電車の所有権を交通局から切り離したことといい、どちらも画期的な事柄である。

 超低床電車の導入が熊本市の重要政策と位置づけられていなければ、これほどのことはできなかっただろう。熊本市の政策面での熱意が続く限り、熊本市電の展望は明るい。

 ※:熊本市電は熊本市交通局が運営しているため、かような予算配分は当然ではない
  かと受け止められかねないので、念のため記しておく。
   交通局は熊本市の一部局であると同時に、単独の公営企業体であり、原則として
  独立採算を確保する必要がある。従って、他部局からの補助金を合理的な根拠なく
  交通局に投じることはできない。
   また、(これは熊本市に限らないが)交通局に回る予算はある程度固定化されて
  おり、大幅な増加を図るのは通常難しい。
   上記を鑑みると、「超低床電車導入」=「福祉の向上」との合理的な論理を構成
  し、他部局から交通局に補助金がつく枠組を構築したことは、たいへんスマートな
  手法であるといえる。また、その結果が交通局の収支改善につながることは確実で
  ある。この両面を重ねみると、たいへん意義が深い。

 

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