このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


「ねえ、ヤギーのは大丈夫だった?」
「え、何のこと?」
 ジャスミン、いつも唐突だなあ……。
「知らないの? バッテリーのリコール騒ぎ」
「うー、知らないよう」
「ヤギー、テレビは恋愛ドラマしか見ないもんね。たまにはニュースくらい見ないと世の中の動きについていけなくなっちゃうよ?」
「で、でも、ほら、このところバイト続きで忙しかったから」
「もう。しょうがないなあ……。家が燃えてなくなっちゃってからじゃ、遅いでしょう?」
「ええっ! 何それ!?」
「4〜5年前に作られた古いバッテリーが突然燃えちゃうの。ほら、ヤギー、古いノートパソコン使ってたじゃない? 私、心配になっちゃって」
 義体メンテ用におじいちゃんが買ってくれたPCだ! あれがなくなっちゃったら、私は……。
「パソコンの他にもロボットなんかも危ないんだって。メイドロボットが口から火を吐いたって大騒ぎしてるのよ」
 ロボットのバッテリーも危ないのか。義体の部品はロボットのとほとんど同じだって、リハビリの時にタマちゃんが言ってたっけ。
「でも、メーカーも大変よね。あと3日で全部回収なんてできるのかしら?」
「え? 何が3日なのさ?」
「燃え出す可能性がとっても高くなるんだって」
……!!!!
「あ、あの、ジャスミン。話の途中で悪いんだけど、私、大事な用があったんだ。ごめんね。また後でね!」
 ジャスミンの返事も待たず駆け出す私。早く松原さんに電話しなきゃ!

「もしもし、松原さん? あのね!」
「八木橋さん? どうかしましたか? 定期検査は2週間も先ですよ」
「あ、あの、バッテリーがリコールで、3日後にはメイドロボみたいに口から火を吐いて…」
 ああ、私、何言ってるんだろう。
「あの、八木橋さん?」
「は、はいっ?」
 あ、あれ? 松原さん、怒ってる?
「イソジマ電工から送られてくるお知らせメール、ちゃんと読んでますか?」
 う、読んでないよう。
「あ、えと、読んで、ます」
 小声で答える私。
「では、1ヶ月前、バッテリーは他社製品を使用しているので問題はないとの通知をしたのも読んでますね?」
 だから、読んでないよう。
「え、えーと、あ、そうだ。そうでした。はは。忘れていたわけじゃないんだよう。ただちょっとびっくりしちゃって…」
「八木橋さん!」
 げっ! 松原さん、完全に怒ってる。な、なんで……。
「通知を送ったのは2週間前です。それに他社製品なんて物、ありません」
……松原さん、それずるい……。
「先に言っておきますが、あなたの身体に使われているバッテリーは、3年目の定期検査の時に改良製品と交換されているので何ら問題はありません。リコール対象には該当しません」
 そ、そうなんだ。よかった……。
「しかしっ!」
 は、はいいいっ。
「いいですか、八木橋さん。そもそも義体ユーザーに送るお知らせメールはこのようなユーザー本人の生命にかかわる可能性が極めて高い重大な問題が生じた際にそのリスクを最小限に抑えるとともに本人の義体に対する危機管理意識を適正な状態に維持する目的で実施しているイソジマ電工特有の施策でありそのためには我々ケアサポーターのみならず開発スタッフも含めた全社的な体制で臨んでいるところ肝心の本人の意識がこのように低いレベルにあるということは担当ケアサポーターとして大変遺憾に思う次第で……」

…この後、小一時間、松原さんから義体ユーザーとしての心得の初歩をみっちりと聞かされた……orz
 私が悪かったとはいえ、散々な目に会っちゃったなあ。今日はもう帰ろう。

「ああ、ヤギー。探してたんだ」
「佐倉井、何か用?」
 佐倉井も唐突なんだよね。まさか……。
「ヤギー、旧式のノートPC使っていたと思うんだが? 世辞に疎いヤギーは知らないだろうが、あれはバッテリーのリコール対象に……」
 ああ、佐倉井まで。その話は、もう勘弁してよう!



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