このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


 ここは、ある都市のオフィス街の裏通り。ちょっと高級なレストランやファッションホテルが並ぶ、ほんのちょっと上品な、そしてこれから起こることを期待させる、そんな一角である。
「えーと、リブレット本館から噴水のほうへ曲がるんだよね。あ、あった、その反対側のこのビルかな」
 時折、談笑しながら行き交うカップルに混じり、一人で、いかにも仕事中ですよとばかりに大きなかばんを抱えてきょろきょろと周りを見回すケアサポーター。目的の建物を見つけ、少し入るのに躊躇して、改めてその建物を見上げる。
「ここでいいんだよね。コアシティ3階レイランドオフィス」
 シックな雰囲気で客を不快にさせない落ち着いたたたずまいの建物は、この街の雰囲気を壊さずに、静かに客を待っている。

 イソジマ電工義体ケアサポーター八木橋裕子、彼女自身も全身義体使用者であり、義体ユーザーとの義体使用経験を共有できる稀有な存在である。目的の義体ユーザーとは、普段はメールによるやり取りが多く、数回の顔合わせの場所は主に病院であったため、義体ユーザーの仕事場に直接向かうのははじめてであった。
 エレベータを降り、小さくステンレス板でレイランドオフィスと上げられているドアの前に立つ。自分の身だしなみが変でないかを確認して、心を静め、少しの間を取って、インターホンのボタンを押す。 ぽーん、という音と共に赤いランプか光り、しばらくして、返事が返ってくる。
「はい、ああ、八木橋さんね、少し待っててね」
 まもなく、カチッと電子ロックの外れる音がして、目的の義体ユーザーが顔を出す。
「ようこそ、待ってたわ。どうぞお入りください」
 ジーンズにTシャツというラフな格好の女性、九条明日香はヤギーを穏やかな微笑で迎え入れた。
 
「よく片付いているんですね」
 迎え入れられ、応接室というか待合室のような部屋に通される。ヤギーにいすを薦め、自分もテーブルに着く。そして微笑のままやわらかくヤギーに応える。
「おどろいた?、それともめずらしいかな?」
「いえ、そういうわけではないんですが、もっと、その」
 ヤギーの視線が部屋の奥のドアに吸い寄せられる。
「ここは、仕事場ですからね。お客さんの夢を壊さないようにシンプルにしてあるわ。あっちのほうはまあ、ご想像のとおりの部屋だけどね」
 いたずらっぽく目を向ける。
「まあ、八木橋さん、今日は私のお仕事の実態調査でしょ。お仕事まではまだ時間があるから、ゆっくり見て行っていいわよ」
「はい、ええと」
 あらかじめメモしてきた紙を取り出し、一通り目を通す。出来るだけ目を合わせないようにしながら、ビジネスライクにことを進めようと、質問項目を読み上げる。
「じゃ、ちょっと教えてください。えー、その、月に何回くらいあの機能を使われますか?」
 落ち着かないヤギーを見つめながら、明日香は落ち着いて答える。
「そうねえ、一晩で大体2組お客さんを迎えるから、一日に3〜4回よねえ。月に20日お仕事すると、60回から80回と言うところかしら。じゃあ、その間を取って70回ということにしておきましょう。」
「そんなに!」
 思わず書き込む手を止めて絶句する。おそらくはヤギーの今までの全ての使用回数を足しても、その回数には達しない。
「あのあのあの、耐久性とかは大丈夫なんですか?故障とかは」
「ああ、イソジマ電工じゃないけど、時々点検しているわよ。そういうことしてくれるところはあるから。ま、少しお金はかかっちゃうけどね」
「えーっ!!、それって正規品じゃないってことですか?」
「まあ、そういうこと。さすがに消耗は激しいからね。人工性器と人工皮膚は特別に点検修理をしてもらっているわ」
「そ、それっていったいどこが?」
「うふ、内緒、でも、修理は大丈夫みたい。見かけも性能も全く変わっていないし」
「イソジマ電工以外で?」
「うん」

 しばらく、会話が止まり、なんとも奇妙な時間が流れる。このことは一応報告しておかなければならないはず。なんと報告しようかメモを前に悩みまくる。笑みを浮かべたままヤギーの苦吟を見つめていた明日香は不意に立ち上がった。
「八木橋さん、ちょっと見せてあげようか、そのほうが報告しやすいでしょう?」
「はい?」
 何を言われたのかわからず、間の抜けた返事を返すヤギー、その意味が理解できても、どのように対処すべきかとっさには思いつかない。
「どうぞ、こちらへ」
 手を引かれ、思考停止のまま、奥の部屋に連れ込まれる。
「ようこそ、八木橋ケアサポーター、いつもはここに来ていただくときは有料なんだけど、今日は、特別に無料ね」
 明日香はヤギーのほうを向き、ボタンに手をかける。
 Tシャツを脱ぎ、ジーンズのボタンを外す。ボリュームのある胸がブラジャーごとぶるんと現れ、ショーツでは隠しきれない張り切った尻と下腹部が、その中身を主張する。
 ヤギーは目を見開いて、明日香の肢体を見つめた。本当に義体なの、と、つっこみを入れたくなるほどである。
 明日香は続いてジーンズを降ろし、そっと足を抜き取る。ほんのりと赤みを帯びた色白の肌があらわになり、グラマーなプロポーションと相まって、ひとつの美が構築されていく。
 明日香はヤギーに向かって、ちょっと恥ずかしそうに、にっ、と笑った。
「いつもはここからお客さんにしてもらうんだけどね」
 ちいさくパキッという音がして、ブラの谷間が外される。それと共に、大きな胸がゆさっとあふれた。
「うわあ、すご...」
 思わず自分の胸に手をやるヤギーである。同年代の女と比べて小さくは無いはずだが、明日香と比べれば迫力は違った。
「そして、こっちね」
 ショーツに手をやり、ゆっくりと降ろしていく。むっちりとした下腹部があらわになり、薄い茂みと共に局部があらわになっていった。
「よいしょ」
 すとんと豪華なベッドに腰掛け、薄い絹の布切れを足から外していく。脱ぎ終えたショーツを器用にくるくると巻いてベッド脇のテーブルに載せると、ベッドに片ひざを立てて、明日香はヤギーをじっと見つめた。
「さあ、来て、...じゃないわね。ええと、これが人工性器よ。良く見てね」
「よ、よくみてといわれても...」
 片ひざを立てているので、茂みの奥があらわになっている。そのさらに奥にある人工性器はむっくりと盛り上がった唇の間で小さく顔を出している。
「八木橋さん?」
「はい?」
「非正規品の人工性器の確認をするんでしょ?」
「そうでした、は、は」
 突然オールヌードを見せられ、自分のやるべきことを完全に忘れていたヤギーは、これはお仕事なんだと自分に言い聞かせ、あらためて明日香の人工性器を見た。薄いピンク色の肌と少し緑色が入った薄い茂み。その奥の鮮やかな赤い唇が自己主張して、その唇の間から人工性器が垣間見える。
「いいですか?」
「どうぞ」
 ヤギーは明日香の太ももに手を添え、少し股間を広げて顔を近づける。
 少なくとも、ヤギーが知っている限りの知識では人のものと寸分の違いもない。自分のものはどうだったかなと考えて、良く考えてみれば、自分のものをそれほど精巧に観察したことは無いことに気づく。
「少し中を見たいんですけど、触っていいですか?」
「いいわよ。やさしくお願いね」
 やさしく、と言う言葉に今も感じるんだということを意識して、恐る恐る唇に指を当ててみる。
「んっ」
 触ったとたんに、明日香の口から小さな吐息が漏れる。指先でそっと割れ目を広げると、そこだけ妙に明るいピンク色の柔らかいものでふさがれた丸いものが見えてくる。
 これが人工性器なんだ、と感心しながら、藤原との行為が脳裏によぎる。ここにあれが入っていくんだ、などと考えながら、人差し指をその柔らかいものの中に飲み込ませていく。
「あふ」
 明日香の声が漏れると共に、とろりとした液体がどっと分泌され、ヤギーの指に絡みついた。
「ああっ、ごめんなさい」
 ヤギーがあわてて指を引き抜く。
「はふ、あ、謝るほどじゃないけど、も、もうこれくらいでいいかしら、これ以上やったら感じちゃう」
「申し訳ありません。ごめんなさい」
「だから、謝らなくてもいいわよ、で、どう、大丈夫だった? 人工性器?」
「は、はい、とってもきれいでした」
「ほとんど区別つかないでしょ」
 正規品と区別がつくかどうかは正規品と比べてみなければわからない。ここまで良く出来ていると両方を並べて観察しなければヤギーの目では区別できないと思われる。
 緊張から開放され、ヤギーは周りを見渡した。今にして気づいたが、この部屋が客と体を共にするところであることに思い至る。広い部屋に豪華なベッドと大き目のクローゼットそして深いじゅうたん。
「ずいぶん豪華なんですね」
「ここは、少し高級なお店だから、お偉いさんもいるわよ」
「わたしも、こんなところでしたいかも」
「いま、してみる?」
 明日香がヤギーの前に回りこんで、目を見つめる。はい、といいそうになって、かなりあわてて、プルプルと顔を振る。
「ぷるぷるぷる、とんでもないです。というか勘弁してください」
「ああん、残念」
 まんざらでもなさそうに、明日香はヤギーを開放した。その引き込みの魔力に、改めて明日香のこの仕事における実力を垣間見る。
「あ、そうだ、九条さんに聞かなきゃいけないことがもうひとつありました。今日これだけは教えてください」
「何でしょう?」
「九条さんは、十分に魅力的です。でも、義体目的で来ているお客さんは居ないんですか?」
「ああ、そういう質問ね」
 明日香は柔らかく微笑んだ。
「いるわよ、むしろ、ほとんどのお客さんは義体目的ね。なれたお客さんなら、手を外して見せたり、外装を外して、体の中を見せることもあるわ。もちろん、変なことをしないお客さんにだけね」
「変なことをする...危ないお客さんとか居るんですか?」
「ここは高級なお店だから、本当に危ない人はほとんどこないわ。それに、もと締めの紹介のところで危ない人はお断りしているから」
「だから、変な人は来ないということですね」
「まあね、でもたまにはそういう人もいるわよ。ずっと普通のお客さんだったのに、突然豹変したりしてね」
「うわあ、そういう時はどうやって対応するんでしょうか」
「そんなときは、ぎりぎりのところまで言いなりになって、落ち着くのを待っているかな。癒してあげて、包んであげればほとんどの人は落ち着くものよ」
 明日香はまだ明るさの残る窓の外を見た。そろそろ、夜の時間、明日香のお仕事の時間である。
「それで、落ち着かない場合は?」
 「興奮したり、暴れまわったりするのも本人は結構大変なの。しばらく自由にさせてやることやったら自然に落ち着くわ。それにね」
 明日香は部屋の隅を指差した。
「あそこにカメラがあるのわかる?」
「あ、ほんとだ」
「一応、もと締めのところで時々は監視しているはずよ。入り口の応接室でも、見られるようになってます。えっと、あとは、枕元のこのボタンを押せば、人を呼べるようにはなっているわ」
「はあ、一応防犯対策はしているということですね」
「まあね、役に立ったことは無いけどね、あ、そうだ!」
 明日香はヤギーの両肩をつかんだ
「八木橋さん、私がしている間、お客さんの様子を見ていかない?」
「え、それはどういう...」
「私とお客さんがしているとき、このモニターで人工性器の運用状況を調べていてくれればいいの」
「ち、ちょっと待ってください。それって覗けということですか」
「うん、それなら万一、変なお客さんでも助けに来てくれるでしょ、よし決まり!」
「ででで、でもでも他人が居たらお客さんも不審に思うんじゃないでしょうか」
「応接室に居るだけなら、ただの受付よ、お客さんが来たらにこりと笑ってこちらの部屋へ案内するだけでいいわ、だれも不審に思う人はいないわよ。ね、お願い!」
「それでも、ちょっと、その、あんまりです」
 明日香は視線をわざとヤギーから外し、にやりと笑った。
「そう?、ふふふ、奥の手を出すわよ」
「え、なんですか、それって...」
「義体ユーザーからケアサポーターに対して要請します。お仕事における義体の使用状況を監視すること、以上、ちなみに、この申し出を断った場合、本社のサポートに八木橋さんのことを直接報告しますのでよろしく」
「そんなの、要請じゃありません却下ですーーーーーーー」

 と、いうわけで、2組の客のあの様子を監視させられたヤギーであった。そしてその報告書はイソジマ電工の男性社員に対して非常に重要な報告書であったそうである。

 PS 
 後日の藤原君のデートはとても刺激的であったそうな。藤原君は天国を味わったとか地獄を見たとかいう書き込みが某HPの掲示板にあったとかなかったとか...



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