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  今日は藤原の二十一歳の誕生日。 この日のために私はジャスミンを拝み倒して星ヶ浦のはずれの海を臨む高台にあるジャスミン一家の別荘を一晩ただで貸してもらったんだ。 今日は、 ここで藤原のために、 昔私が大好きだったたこ焼を作ってあげることになってるんだよ。
  海に面した広いリビングルームは海側の壁一面がガラス張り。 大きな窓からは太平洋が夕陽を浴びて宝石でもばらまいたみたいにキラキラ輝いているのが見える。 寝室のダブルベッドはダブルどころか四人くらい軽く寝れちゃうくらい大きくて、 おまけに天蓋までついていて、 まるでおとぎの国の王様の寝るベッドみたい。 床は木張りのフローリングなんてケチくさい作りじゃなくて、 一面白亜の大理石。 洗面所の蛇口とか天井からぶら下がるシャンデリアは金ピカの真鍮製。 部屋の中のものは空気にまで値札がついているんじゃないかと思うくらい何から何まで高級品だ。 これみよがしの貴族趣味に辟易して、 これだから成金は趣味悪いよね、 なんて心の中で悪態をついてみても、 この別荘のもの全てが今日と明日だけは私と藤原のものなんだって思ったら悪い気はしない。 それどころか、 遠足を明日に控えた子供みたいにどきどきわくわく。 もちろん子供じゃできないこともするつもりだけどね。
  藤原は仕事が終わってすぐこっちに直行してくれることになってるから、 到着は夕方の5時過ぎになりそう。 それまで私はこの広い別荘に一人っきりなんだけど、 ふかふかのベッドに寝そべったりジャグジー付きの広いバスタブの蛇口を意味もなくひねってみたりして一人ではしゃぎまわっているうちに、 あっという間に時は過ぎていった。

  ピンポーン。
  約束どおり、 きっかり夕方5時に来客を知らせるチャイム。
  藤原だ。
「すぐ開けるからちょっとまってて」
  玄関ドアについてる覗き穴の向こうに藤原の姿を確認すると、 私はドア越しにそう言い残して、 いったんお風呂場の横の更衣室に走る。 そして、 藤原に喜んでもらうべく、 あらかじめ用意してきた「ある衣装」に着替えると、 もったいつけるようにわざとゆっくり玄関のドアを開けた。
「藤原、 お誕生日おめでとう!」

「え、 えーっと」
  藤原は私を一目見るなり絶対零度の冷凍光線を浴びたみたいにカチンコチンに固まってしまった。 私から目をそらして落ち着きなく床に視線を彷徨わせる藤原の顔が、 ゆでダコみたいにみるみる赤く染まっていく。
  予想通りの藤原の反応に私は嬉しくなって、
「ふふん、 藤原。 どうしたのさ」
  って、 ついつい意地悪く聞いてしまった。
  ホントは別にわざわざ聞かなくたって藤原が固まってしまった理由は分かってる。 今、 私が着ている「ある衣装」のせいなんだ。 それが、 衣装って言えればの話だけどね。
  今の私は、 アニーから借りた白いエプロン以外は何も身につけていない、 いわゆる裸エプロン姿。 エプロンがかろうじて胸から股下までの肝心な部分をかろうじて覆いかくしているだけで、 ほとんど裸もドーゼン。 下着は何も身につけてないから後ろを向けばお尻は丸見え。 これって見ようによってはただの裸よりもよっぽどエッチなカッコだよね。 いきなり彼女が玄関先にこんな姿で立ってたら、 びっくりするのも無理ないよ。
  でも、 私だって何も好き好んでこんなカッコをしているわけじゃない。 私がこんなカッコをしているのは藤原がこのカッコが大好きだって知ってしまったから。 藤原の彼女として、 彼氏を喜ばせてあげたかったからなんだ。

  話は、 ちょうど二週間前に遡ります。
  その晩、 私は藤原といつものように菖蒲端のワイ横のホテルに泊まっていたんだ。 その時の、 そのう・・・、 エッチの合間の中休みにさ、 ちょっといやらしい深夜番組を見たんだよね。 その番組っていうのが、 裸エプロン姿の女の子が料理を披露するっていう世にも下らないやつで、 女の私から見たら、 女の子の裸エプロン姿なんかより包丁を持つ危なっかしい手つきのほうにドキドキしっぱなしだったんだけど、 藤原はテレビに向ってしきりに突っ込みを入れる私を尻目にいつになく真剣にテレビに見入っていた。 それこそ、 視線でテレビに穴が開いちゃうんじゃないかって思うくらいにね。 あんまり熱心にテレビを見ているから私はちょっと悔しくなって、 ふざけ半分に藤原の頬っぺたをつっついたりしたのに、 ゼンゼン私のことをかまってくれない。
  すぐ横の手を伸ばせば届く距離に女の子が裸で寝そべってるっていうのに、 ブラウン管の中の女の子に釘付けだなんて、 ずいぶん失礼だよね。 それで私は、 むっとして膨れっ面で
「ふ−ん、 藤原ってこういう趣味だったんだ。 このド変態!」
  って精一杯嫌味を込めて言ってみた。 でも、 藤原ってば
「裸エプロンは男のロマンだ」
  なんて拳に力を込めて力説しちゃって・・・、 その嬉しそうな顔を見ていたら、 私、 それ以上何も言えなくなっちゃったんだよう。 もちろん番組が終わったあとで、 藤原はいつものように私を優しく抱いてくれたんだけど、 でも私、 テレビの裸エプロンの女の子に負けたみたいな気がしてちょっぴり悔しかった。 それと同時にちょっとエッチに工夫がなかったかもしれないって反省もした。
  思い返せば藤原は私が浴衣を着ていたとき、 えらく興奮していたみたいだし、 きっと裸なんかよりもちょっと変わった格好をしたほうが萌えてくれるタチなんだろう。 なのに私はカンタンに裸になるばっかり。 いつもいつも単調なエッチばかりじゃ、 そのうち飽きられてしまうかもしれない。
(よし、藤原の誕生日に、私もあんなカッコをして藤原を驚かせてやるんだ)
  コトが終わって私の横で気持ちよさそうにすーすー寝入っている藤原のほっぺたをつねりながら、私はこのときそんなことを考えていたんだ。 

  私にだって、 藤原の望む理想の女性になって、 藤原を喜ばせてあげたいっていう気持ちくらいある。 いやむしろ、 普通の人よりずっと強くそう思っているつもりだ。 どんなに自分は人間なんだって言い聞かせてみても、 この身体が人をかたどった機械にすぎないという事実を変えることはできないし、 ニセモノの身体を藤原に抱かせてしまっているという罪悪感を拭い去ることもできない。 そのことが無意識のうちに私の負い目になってしまって、 藤原を喜ばせたい余りに、 ハタから見たらやりすぎって思えるくらい、 とっぴな行動に出てしまうのかもしれないね。

  私のスジ書きでは藤原は私の「衣装」に最初こそ驚くけど、 すぐに子供みたいにはしゃいでくれるはずだった。 でも、 眼の前の藤原は、 俯いたっきり真っ赤な顔でもじもじもじもじ。 藤原がそんなふうだから、 私も軽口をたたくきっかけを失って、 玄関先で向き合う二人の間に気まずい沈黙が流れる。
(どうしたの? 裸エプロンは男のロマンじゃなかったの?)
  はじめのうちこそ、 「どうだ藤原、裸エプロンだぁ。萌えるでしょ」なんて誇らしげに思っていた私だけど、 藤原がいつまでたっても顔を上げてくれないから、 私は、 ひょっとしてハズしちゃったんじゃないかって徐々に不安になってきた。
  私が身につけてるエプロンは、 テレビの女の子が着ていたような、 胸にあてる部分がハート型になっていて、 オレンジ色のフリルがついているようなかわいいものじゃない。 むしろ給食とか弁当屋のおばちゃんが着けているほうが似合いそうな、 天ぷら油の染みの目立つエプロンなんだ。 これじゃ、 藤原も気分が出ないのかもしれない。
  それとも裸エプロンなんてテレビで見ている分にはファンタジーとして楽しめるのかもしれないけど、 実際に眼の前に自分の彼女が裸エプロン姿で立っていたら、 ドン引きしちゃうのかもしれない。
  どうしよう。 藤原、 私のこと、 なんて間抜けなカッコをしてるんだろうって思って、 内心あきれて果てているんだろうか? どうしよう。
「ふ、 藤原、 やっぱりちょっと引いちゃったかなあ?」
  私は恐る恐る上目遣いに藤原の表情を伺う。
  興奮して自分に酔っているうちは、 まだいい。 でも、 こうして自己陶酔の解けた冷静な頭で今自分のしている滑稽なカッコを思い浮かべると、 急に自分のしていることが恥ずかしくてたまらなくなってくる。
  ふと、 目線を下に落とすと二つの乳首がエプロンの薄い布地を押し上げてはっきりとそのありかを自己主張していた。 いくら彼氏の前とはいえ、 こんな小さな布切れ一枚しか身につけずに人前に立っているなんて!
(恥ずかしい!)
  羞恥心にかられた私は、 あわてて両腕をバツの字を作るように胸の上にあてがって、 乳首のありかを隠そうとした。 そしたら、 いくら小さい胸とはいえ、 こんなカッコをしているだけに、 いつもより目立っていた胸の谷間がよりいっそう強調される形になって、 かえって恥ずかしいカッコになっちゃうことに気がついた。
  それが良かったのか、 悪かったのか、 どうやら私のその仕草が藤原の欲情に火を付けちゃったみたい。 藤原は「ふるふる」という擬音が聞えてきそうなほど大きく首を横に振ったかと思うと、 私の小さな両肩に手を置いて、
「裕子さん。 ぜんぜん引いてなんかいないよ。 俺、 今、 モーレツに感動しています。 ちょっと驚いただけ。 イイよ。 裕子さん。 すごくイイ!」
  盛んに「イイ!」を繰り返す藤原の眼は、 私の羞恥ゲージが上がっていくのと反比例して、 いきいきと輝きはじめる。
「ははは・・・」
  藤原に肩をつかまれて思いっきり身体を揺さぶられたおかげでずり落ちてしまった眼鏡をかけなおしながら、 私は思わず苦笑い。 余りの藤原の豹変っぷりに、 今度は私がちょっと引き気味だ。
  藤原は、 そのまま欲望の赴くままといった風情で、 自分の靴を勢いよく脱ぎ捨てると、 私をまるで蝶々の標本みたいに壁に押し付ける。 私の耳に藤原のハァハァっていう荒い息がかかった。
「こ、 こら。 やめろよう。 やめなさいった——」
  抗議の声を上げようとした私の口が藤原の口付けでふさがれる。 私の口を閉ざしたことで調子に乗ったのか、 舌を交わす激しい口付けをしながら、 藤原はエプロンと身体の隙間に右手を差し入れて、 いつもより荒っぽく私の胸をつかみ、 もみしだく。 それから乳首の周りを円を描くようになでまわす。 藤原の手の中で私の乳首が固く尖っていくのが自分でも分かった。
「んんっ!」
  動いているのは手だけじゃない。 私の両足を割っている藤原の左足が、 絶妙な角度で私のアソコを刺激する。 それだけで脳が溶けてしまいそうな快感が身体中を走りぬけて、 私は口をふさがれたまま思わず喘ぎ声を漏らしてしまう。 私のあそこがじんじん熱くなって、 中から温かいものが溢れ出てくるのが自分でも分かった。
「駄目駄目駄目っ! 今ここでしちゃったら、 私、 なんのためにこんなカッコしたか分からないじゃないかよう」
  私は理性を総動員して藤原を両手で突き放して乱れたエプロンの裾を直す。
「わ、 私は料理を作るために、 エプロン姿になったの。 約束どおり、 何も食べてきてないよね。 私がこれから藤原の夕食を作ってあげるんだから。 だから、 今は駄目だから。 ね? ね?」
  まるで駄々っ子をあやすような口調で藤原をなだめる私。 だけど、 言葉とは裏腹に、 つんと尖ってしまった私の乳首が、 さっきよりもはっきりと、 淫らにエプロンを押し上げている。 これじゃ、 まるで説得力なんてありはしない。
「裕子さん、 そう言うけどさ。 眼の前でそんなカッコされたら、 俺、 我慢できないよ」
  藤原はエサを取り上げられた子犬みたいな恨めしげな目つきで私を見つめた。 藤原の股間に目をやると、 ジーパンの厚い生地越しでもはっきりと分かるほど藤原のモノがその存在を誇示していた。
  藤原がこんな様子じゃ、 せっかくとっておきの料理を作っても、 エッチのことばっかり考えられて上の空になってしまう。 そんなの悔しいよ。 それよりは、 ここで一度藤原にすっきりした気分になってしまったほうがいいのかもしれない。 そう思った私は、 人間よりも獣に近くなってしまった藤原に内心あきれつつも、
「分かったよ。 じゃ、 今本格的にはじめるのもアレだから、 口でしてあげる。 そうすれば落ち着くんでしょ」
  と言いながら藤原に抱きついてあげた。
  その言葉を聞いたときの藤原の嬉しそうな顔ったらないよ。 欲しがっていたおもちゃが手に入った子供みたいに無邪気にはしゃいじゃってさ、 全く男って単純だよね。 藤原は特に単純。 でも、 そんな子供みたいなところが私は大好きなんだ。

「私が脱がしてあげる」
  私は藤原の前で膝立ちの姿勢をとって、 藤原のジーパンのベルトを外すと、 ジーパンをトランクスごと一気に膝の位置まで引きずり下ろした。 私の目の前に、 お腹にくっついちゃうくらい誇らしげにそそり立ってる藤原の男のシンボルがぴょこんと姿を現した。 見ようによってはとってもグロテスクなものなのに、 好きな人のそれはどうしてこんなに愛おしく思えてしまうんだろう。
(かわいい!)
  私は思わず藤原のそれに、 そっと口付け。
「うっ」
  という藤原の呻き声が上から聞こえた。
(ふふっ。 藤原ったら、 感じてるんだ)
  そう思ったら、 私はまた愛おしい気持ちで胸が一杯になってしまう。
「いつも言ってるけど、 出ちゃいそうになったら言ってね」
  膝立ちの姿勢で上目遣いに藤原を見上げる私。 無言でうなずく藤原。 フェラをする時はゼッタイ口の中に出したら駄目。 それが二人の間の暗黙のルールだ。
  私の身体は義体だから、 口から栄養カプセル以外のもの摂取できる構造にはなっていないし、 水すら飲むことができない。 だから、 もし私の口の中で藤原がイっちゃったら、 ちょっとやっかい。 そのまま放っておいたら義体の不具合の原因になるから、 義体をバラして洗浄しなきゃいけないんだ。 そんなことになったら、 お金がかかるし、 何より私がどんなことをしていたのかお医者さんにバレバレになっちゃうから、 死ぬほど恥ずかしいし。 だから私は、 よくあるアダルトビデオみたいに精液をゴックン、 なんてことは、 ぜーったいできない。 ま、 聞いた話だと苦くてマズイらしいから別に飲み込みたいとも思わないけどね。
 
「じゃ、 いただきまーす」
  私はおどけたようにそう言うと、 藤原のものをぱくっと口に含んだ。 そして、 とくんとくんとわずかに脈打つ藤原自身の感触を確かめるように、 舌でゆっくり舐め回す。 私の舌は、 ただ飾りでついているだけで味覚はないから藤原のものがどんな味がするのか分からない。 嗅覚もないから男の匂いを鼻一杯に感じることもできない。 でも、 いいんだ。 私がこうすることで、 藤原が気持ちよくなってくれれば、 それで私は充分幸せなんだ。
「藤原、 気持ちいい?」
  私は、 口いっぱいに藤原の分身を頬張ったまま、 藤原に問いかけてみる。 私の声は、 喉の奥にあるスピーカーから流れる電子合成音。 だから、 声を出すのに口を開ける必要はないから、 こんなふうにフェラしながら話すこともできるんだよ。
  藤原は答えるかわりに私の髪を優しく撫でてくれた。 ただ髪を触れられる。 たったそれだけのことで、 髪の毛が性感帯にでもなったみたい。 さざなみみたいな柔らかい快感がそこから生まれて私の全身に広がった。
(駄目だ。 駄目だ。 このままだと私までおかしくなって料理どころじゃなくなちゃう)
  私はいっとき舌を動かすのをやめて、 ぎゅっと目を閉じて身体を快楽が身体を通りすぎるのを待つ。
「ゆ、 裕子さん?」
  急に動きが止まった私をいぶかしむ藤原の声。
(分かったよ。 フェラ、 続ければいいんでしょ。 続ければ)
  私は藤原のお尻に両腕をまわして、 ぴとっと藤原に身体を密着させた。 そして、
  ちゅぽ、 ちゅぽ。
  藤原自身を口に含みながら、 アイスキャンデーでも味わうみたいに私はゆっくりと顔を動かす。 いつの間にか、 私、 何もされていないのに自分のアソコを突かれているみたいな錯覚に陥っていた。 深く藤原を飲み込むたびに、 まるで藤原を受け入れているみたいにあそこが震えて、 目が眩むような快感が全身を突き抜ける。 私の動きにあわせて、 身に纏ったエプロンと、 すっかり硬く尖った乳首がこすれあって、 そこからもまた違う快楽が生まれて、 身体中に渦を巻いた。
  つーっと私のあそこから生まれた液体が股間を伝い落ちて大理石の白い床を濡らす。
  とりあえず藤原を満足させようとしてはじめたフェラだけど、 やっぱり駄目。 私、 もう我慢できそうにない。
(我慢するのは身体に悪いよね。 もー、 滅茶苦茶にいじっちゃえ)
  そう決心した私は藤原の腰に回していた右手そーっと股間にもっていった。 そして。
  つん。
  指で軽くクリをつつく。
「んんっ!」
  あそこから弾けるように全身に広がる鋭い快感に私は思わずくぐもった呻き声を上げてしまった。 もっと欲しいっておねだりするみたいにあそこがひくひくひくひく蠢めき、 愛液がよだれのようにぐちゅっと湧き出した。 私は、 快楽への期待感から両目をぎゅっとつむると、 親指ですっかり大きくなってしまったクリを押しつぶすようにこすりながら、 人差し指一本を恐る恐るあそこに潜らせた。 中は溢れ出たものですっかりどろどろになっていたから、 何の痛みもなく奥まで入れることができた。 それから、 フェラの動きにあわせるように、 指を深く浅く、 リズミカルに出し入れする。 ぴちゃぴちゃといやらしい音が響いたけど、 そんなの気にする余裕なんかとっくになくなってた。
「裕子さん、 ひょっとして自分でさわってる?」
  息を乱しながらも、 まだ冷静な藤原の突っ込みが上から聞こえる。
「う、 うるさいっ! 見るなよう。 藤原が悪いんだから。 ううっ。 ぜんぶ藤原のせいなんだからっ! んんっ!」
  藤原にこんな姿を見られてる。 恥ずかしい。 やめなきゃ。 頭では分かっていても、 あそこをいじりまわすのをやめられない。 それどころかかえって興奮して右手をよりいっそう激しく動かしてしまうんだ。 いつの間にか出し入れする指は一本から二本に増えていた。
  悔しいっ! 藤原が我慢できないっていうからフェラをはじめてあげたのに、 どうしていつの間にか私がオナってて、 しかも藤原より乱れないといけないのさ。 でも、 悔しいけど、 私、 もうダメだ。 気持ちよすぎて気が狂いそう。 頭が真っ白になって、 「藤原大好き」ってコト以外は何も考えられなくなって、 そのくせ手だけは快楽をつむぎ出すために別の生き物みたいに激しくあそこを這い回ってる。 こんな快楽、 本物じゃないのにっ! ただの電気信号なのにっ!
「ごめんね。 藤原まだだよね。 でも私、 もうダメだ。 いっちゃう。 いっちゃうよう」
  もう何がなんだか分からない。 私は雌の本能が命じるままに指を深く突き入れながら、 クリを強く押しつぶす。
「藤原、 好きだ。 好き! 好き! 好き! 大好き! 大好き! 大好き!」
  右手の人差し指と中指にずきんずきんと何かを刻みこむような律動を感じながら私は昇天した。 膝立ちの姿勢で全身をわななかせて、 何かに取り憑かれたように激しく藤原自身を吸い続ける。
「ゆうこさん。 きれいだ! ゆうこさん。 僕も大好きだよ!」
  どこか遠くのほうで藤原の叫び声を聞いた。 それで、 余りの快感の深さに失いかけていた意識が現実に引き戻される。 と思う間も無く私の口から藤原自身が引き抜かた。 藤原のそれは、 私の目の前でびくびく脈打ちながら、 白い体液を勢いよく吐き出して、 私の顔を穢していく。 でも、 それは決して悪い気分じゃない。


「ははは・・・。 藤原も、 いっちゃった、 ね」
  私はぺたんとお尻をついたかと思うと、 あおむけに床に崩れ落ちた。 大理石の床の固い感触を背中に感じる。 眼鏡にかかった藤原の体液のせいで、 高い天井が白く濁って見える。 さっきの絶頂感の余韻が身体に心地いい。 私は、 自分の愛液でぐちょぐちょに濡れた右手で顔にかかってしまった藤原の精液をこすり、 まるで化粧をするみたいに頬っぺたに薄くのばし、 広げる。 藤原の身体から出たものだと思うと、 こんなものですら愛おしくてたまらない。
「藤原。 私、 ものすごくよかったよ」
  私は顔をゆっくりと伝い落ちる藤原の体液を頬に感じながら、 物憂げに口を動かした。
「裕子さん。 俺、 これ一回やってみたかったんだ。 ありがとう」
  藤原はぼーっと快感の余韻に浸る私を見下ろしながら、 照れ隠しに頭をかきかき。 下半身脱ぎっぱなしで、 欲望を吐き出して萎えてしまったモノを股間にブラブラさせたままの藤原の間抜けな姿についクスリと笑ってしまう私。
  あー、 これから料理を作らなきゃいけないっていうのに、 私ってば一体何をやってるんだろう。

  ジャスミンの別荘ご自慢の、 友達を大勢呼んでホームパーティくらい軽くできちゃいそうな広いダイニングルーム。 その真ん中にデンと鎮座しているのは映画の中のお屋敷でしかお目にかかったことがないような横長の長方形の大きなテーブル。 今日は私達の貸切ってこともあって、 テーブルには真っ白なテーブルクロスが敷いてあるだけなんだけど、 普段はきっと人数分のフォークやナイフやきちんと折りたたまれたナプキンがテーブルマナーの教科書どおりに並べられているんだろう。 それから、 テーブルの上には銀製のアンティークの燭台とかバスケットに山盛りに入った色とりどりのフルーツが置いてあるに違いない。 メインディッシュは、 まるまる太った七面鳥の丸焼きってトコかな? ゲストは当然、 きちんとドレスアップした紳士淑女の皆様方だよね。
  実際に眼にしていないのにこんなふうに華やかな晩餐会の光景がカンタンに想像できちゃう、 二人で使うには余りにも大きすぎるテーブルの片隅にちょこんと腰掛けた私達。 藤原は、 仕事帰りでパーカーにジーンズ姿っていういつものラフないでたちだし、 私は裸エプロンなんてゼッタイ他の人には見せられないカッコでタコ焼きを焼いている。 もし、 この部屋に意志があるなら、 余りにも場違いな私達に苦笑すること間違いなしだね。

「さあ、 藤原、 できたよ」
  私はタコ焼き用の鉄板の上でホカホカ湯気を上げている焼きたてのタコ焼きを小皿に取り分ける。 そして、 テーブルの上に四つんばいになって思いっきり背伸びをして、 私のちょうど真向かいの椅子に座っている藤原に、 タコ焼きの載ったお皿を突き出した。 私はこんな身体になってしまってタコ焼きを焼くことはおろか料理自体まるでしなくなっちゃったから上手く作れるか不安だったけど、 出来上がったタコ焼きは少なくとも外見はきれいなまんまるで、 七年のブランクを感じさせないデキだと自分では思う。 でも味はどうだろう? 昔、 お母さんが作ってくれたタコ焼みたいにうまくできているだろうか? 外の薄皮はカリカリに焼きあがって、 でも中はトロトロにとろけていて、 焼きたてホッカホカのやつに、 ソースとマヨネーズと青海苔をたっぷりつけて、 口をはふはふさせながら食べていた、 あの頃の味になっているだろうか?
  味覚を失った私には自分で味見なんて真似はできないから、 ぶっつけ本番の大勝負。 藤原は喜んでくれるだろうか。 私はタコ焼き鉄板の丸いくぼみに、 もう一度生地を流し込みつつも、 心持ち緊張しながらチラリと上目遣いに藤原の反応をうかがう。
  でも、 藤原はいつまでたっても、 目の前に置かれたたこ焼に箸をつけてくれない。 そうこうしているうちに、 鉄板の上のタコ焼きは食べられるあてもないのに、 次々に焼きあがってしまう。
(このままじゃ、 焦げちゃうじゃないか)
  私はため息をつきながらタコ焼き鉄板のスイッチを切って、 焼きあがったタコ焼きを皿に移していく。
「ほら、 藤原。 早く食べないと冷めちゃうよう。 熱いうちがイチバン美味しいんだからね」
  なんだか口うるさいどこかのお母さんみたいな口調で藤原をせかす私だけど、 藤原はお箸を手にしたまま困ったようにタコ焼と私を交互に見比べるばかり。
  藤原がお腹が空いているのは分かってる。 前もって、 何も食べないで来てねって言っておいたし、 そもそも職場から真っ直ぐこっちに向かってきているはずの藤原に食事をとる時間があったとは思えない。 そのうえ、 私達は、 さっき、 その、 アレしたばかりだしさ、 もし昔の私なら、 食べて下さいって勧められる前にお皿の中が空になっちゃってるはずだよ。 ハラペコで、 食べたくて食べたくてしょうがないくせに我慢するなんて、 これじゃ、 いつものデートとおんなじじゃないか。

  そう、 藤原は、 いつも私とのデートの時にモノを食べてくれない。
  その理由は聞いたことがないけど聞かなくても分かってる。 藤原は私に遠慮してるんだ。 人間らしい食べ物なんか何一つ口にすることも味わうこともできない私の前で食事するのは私に悪いって思っているんだ。
  私は全身義体障害者だから、 脳みそ以外に生身の部分なんて何一つ残されていない。 エプロンだけ身に纏った私のこの身体、 見かけは普通の女の子そっくりに見えるかもしれないけど、 所詮は女の子の形を装った作り物の機械。 そんな身体だから、 私は食べ物なんて食べる必要はもうない。 今の私が口にできるのは、 脳を維持するための小指の先ほど大きさの小さな栄養カプセルだけ。 義体には食事をとる機能なんかついていないし、 舌だって一応ついてはいるけど外見だけ普通の人間と同じように見せるための飾りみたいなもので、 味なんか分かりはしない。 でも、 脳みそだけは元のままだから、 甘いとか辛いとか苦いとか、 実感を伴わない昔の記憶の残骸だけはいつまでも頭にこびりついて離れないんだ。 だからみんながおいしそうにご飯を食べているのを見ると、 いつもみんなの暖かい生身の身体が羨ましいって思うし、 時には嫉んだり僻んだりもしてしまう。
  藤原は、 そんな私の気持ちを気遣って、 デートの時は自分がどんなにお腹が空いてても、 私の前では決してものを食べないように我慢してくれている。 今だってきっとそう。 でもね、 いつまでもこのままじゃいけないんだ。 だって、 もしも、 もしもだよ、 将来藤原と一緒に暮らすなんてことになったとしたら、 藤原はどうしたって私の前で物を食べないわけにはいかないし、 私だっていちいち藤原が食事をするたびに落ち込むわけにはいかないもの。 私達は二人とも、 目の前で食事をすること、 されることに慣れていかなきゃいけないんだよ。
  そう思って、 私は、 藤原の誕生日に私の大好きだったタコ焼きを焼くことにしたんだ。 外食はムリでも、 私の作った手料理ならひょっとしたら食べてくれるかもしれないって思ったからさ。
  でも、やっぱりダメなのかなあ。
(なんで我慢するのかな? やっぱり私に遠慮してるのかな?)
  私はがっくり肩を落として、 目の前の行く当てのないタコ焼きの山をみつめた。

「ねえ、 藤原。 聞いて」
  私は椅子に腰掛けると、 真剣なまなざしで、 まっすぐ藤原をみつめた。
「そのカッコで料理する裕子さん、 やっぱりいいなあ。 そのカッコが見れただけで俺は、 お腹いっぱいです。 ごちそうさま」
  ふざけた調子でペコリと私に向かって頭を下げる藤原。
「ちゃかさない!」
  私は、 ぴしゃりとそう言ったあとで藤原を睨みつけた。
  藤原は私の様子を察したのか、 ごくりと唾をのみこむと心持ち姿勢を正す。 なんだかお見合いの席で初めて会話を交わすかのような緊張感が二人の間に漂った。 もっとも、 私はこんなカッコだし、 私達の間にあるのは山盛りのタコ焼きだし、 ハタから見たら吹き出しちゃうような滑稽な光景かもしれないけどね。
「藤原がタコ焼きを食べてくれないのはさ、 私の前で何か物を食べるのは、 機械の身体で食事ができない私に申し訳ないって思って同情してるからでしょ」
  私は視線を藤原の手元に置かれたタコ焼きに落としながら、 そう切り出した。
「そっ、 そんなことないよ。 俺だって、 食べたいときには食べるさ。 でも、 今日はまだ腹減ってないから」
  あわててかぶりをふる藤原。
  でも、
  ぐぅー
  言葉とは裏腹に絶妙のタイミングで藤原のお腹の虫が鳴った。 ほらみろ。 腹ペコじゃないか。 まったくもう、 素直じゃないんだから。
「あ・・・、 いや、 これは、 その」
  真っ赤な顔して蚊の泣くような声で弁解しようとする藤原。 もじもじ肩をすぼめる様子が相変わらず可愛らしい。 藤原の仕草にいつも私の母性本能はくすぐられっぱなしだ。 一生懸命まじめぶった表情を作っていた私だけど、 藤原の腹の虫の不意打ちに思わず唇のはしっこが緩んでしまう。
「ふふっ。 お腹がすいてないなんて嘘ばっかり。 ふん。 いいんだ。 どうしても食べないっていうなら私にだって考えがあるんだからね」
  私はほっぺたを膨らませて、 わざとらしく拗ねてみせたあとで、 すっくと立ち上がると、 藤原の隣に腰掛ける。 そして、 藤原が所在なげに握っていたお箸を奪い取って、 藤原の前に置いた小皿の中からタコ焼きを一つだけ、 薄皮を破らないように慎重につまみ上げた。
(えーい)
  私は苦い薬を飲まされる子供みたいに、 目をぎゅっとつぶって恐る恐るたこ焼きを口の中に半分だけ入れた。 舌の先に、 何か丸いものが触れる感触。 でも、 悲しいかな、 分かるのはそれだけ。 焼きたての小麦粉の香ばしい香りが口の中いっぱいに広がることもないし、 熱くて我慢できなくて、 口をはふはふさせることもない。

「裕子さん! そ、 そんなことしたらダメだっ!」
  私がタコ焼きを口に入れた瞬間、 藤原は、 ビルの屋上から飛び降り自殺を図ろうとしている人でも見つけてしまったかのように、 さーっと顔色を変えて叫んだ。 どきどき脈打つ藤原の心臓の音が私の耳にまで聞こえてきそうなうろたえっぶり。
  藤原は、 私がそのままタコ焼きを食べてしまうと思ったんだろう。 食事を取る機能のない私が無理やり何か食べても、 ただ義体を壊しちゃうだけだってことくらい、 私と付き合っているんだから、 藤原も知っている。
  でも、 大丈夫。 私がタコ焼きを口に含んだのは何も私が食べるためじゃないよ。
「あーんして」
  私は、 タコ焼きを口に入れたまま、 はっきりとそう言った。 発声するのに喉も唇も舌も使わなくてすむ電子合成音の声はこんな時には便利だよね。 ははは。




「え?」
  藤原が、 蒼ざめた顔のまま聞き返す。
「あーんしてって言ってるんだよう。 聞こえなかったの?」
  もう一度ゆっくり繰り返す私。 私は藤原の両肩に手を置いて、 向かいあってキスするみたいなポーズをとった。
「あ・・・ああ」
  藤原は、 ようやく私のしようとしていることに気がついたのか、 ちょっと照れたように私から眼をそらしてうつむきながらも口を半開きにした。 私は、 藤原の頭を掴んで無理やり私のほうを向かせると、 タコ焼きをくわえたままゆっくり顔を近ずけていって、
(えい)
  タコ焼きを口移しに藤原に食べさせる。
  よっぽどお腹がすいていたんだろうか。 藤原は、 二、 三回噛んだと思ったらあっという間に飲み込んでしまった。 私は、 もう一度、 今度はタコ焼きを箸でつまんで藤原の目の前に持っていく。 そしてエサを待つヒナ鳥みたいに大口を開けた藤原の口にタコ焼きを放り込んだ。
「どう、 美味しい?」
  藤原がタコ焼きを飲み込むのを待って、 私は藤原に聞いた。
「裕子さん。 このタコ焼き、 すごく美味しいよ。 こんな美味しいタコ焼き、 俺、 食べたことないよ」
  驚きで大きく見開かれた眼、 口の中の粘膜にへばりついた残りかすまで舐めとろうと動く舌。 藤原は好物のハンバーグをペロリと平らげた小学生に負けないくらい感情豊かに、 顔いっぱいで美味しさを表現してくれた。 ただのお世辞じゃないってことは、 その顔を見ればよく分かる。
  でも、 藤原は、 そう言ったあとですぐバツが悪そうな苦笑いを浮かべて
「ごめん・・・」
  って一言付け加えて黙り込んでしまったんだ。

  みんなが美味しそうに食事しているのを指を咥えて眺めていなくちゃいけないのは虚しいよ。 みんなが美味しいケーキを食べに行くのをいつも作り笑いで見送るのは悲しいよ。 でも、 好きな人が、 美味しいものを食べて、 満ち足りた幸せそうな顔をしているのを見ていれば、 私は、 それだけでとても幸せな気分になれる。 例え、 自分自身は食べることができなくてもね。 それが、 私の作った料理ならなおさらだよ。
  なのに・・・なのに、 どうして私、 藤原に謝られなきゃいけないのさ。 藤原は美味しいと思ったから素直に美味しいって言っただけじゃないか。 そのことで、 どうして藤原が私に罪悪感を抱かなきゃいけないのさ。 そんなのってヘンだよ。
  友達に食事をされるのは嫌だけど彼氏ならいい。 そんなの単なる私の我儘だ。 分かってる。 そんなこと分かってるよ。 でも、 私の身体が普通の人と違うから遠慮する、 なんてことは藤原にはしてほしくない。 好きな人には私の身体が機械だってことを意識してほしくない。 そうされることで、 私はかえって自分の身体が冷たい機械の固まりなんだって思い知らされちゃうじゃないか。
  藤原の態度にむっとした私は、 山盛りのタコ焼きにソースとマヨネーズと青のりをたっぷりかけたあと、 内心のイライラを隠そうともせず、 態度の悪いウェイトレスみたいにつっけんどんに山盛りのタコ焼きが載ったお皿を藤原の前に突き出した。 そして、 呆気にとられて私を見つめる藤原を睨みつけながら叫んだ。
「私たち、 つきあってるんだよね? 彼氏と彼女だよね? だったら・・・、 だったら私に遠慮なんかするな! えっちしたい時には藤原はすぐしちゃうくせに。 それと同じように、 お腹が空いたんならコンビニ弁当でもなんでも買って食べろ! なんなら一緒にレストランに入ったっていいんだ! 食べたいものがあったら私に言ってくれれば今みたいに料理だってしてあげる! 大丈夫。 私なら平気だよ。 私はお腹が空いてるのに我慢してる藤原の作り笑顔を見てるより、 おいしいものを食べて嬉しそうな藤原を見ていたい。 私はこんなふうに食事なんかできない身体だけど、 藤原が私の分まで美味しいと思ってくれることが、 今の私にとって一番嬉しいことなんだ! 私は、 それで充分幸せなんだよ」
  私は、 そこまで一息にまくしたてると拳をぎゅっと握り締めて俯いた。 昔だったら溢れる感情を抑えることができなくて途中で泣き出していたんだろうけど、 今の作りものの義眼は、 こんなときでも涙に曇ることなく鮮明な画像を脳に送りこんでくれる。 私は普通の身体のように涙を流せない顔を見られるのが恥ずかしくなって、藤原に抱きついて、その胸に顔をうずめた。
  藤原は、 何も言わずに私の髪を優しくなでて、 それから背中に手をまわして私を抱きよせる。
「藤原、 お願いだよう。 私を、 幸せでお腹いっぱいにしてよう」
  私は藤原に抱かれながら胸の中で甘えた声を出す。 それに応えて、 藤原はぎゅうっと私をいっそう強く抱きしめてくれた。 剥き出しの背中にあたる藤原の手の平の柔らかな感触。 それを感じるだけで、 機械に閉じ込められて歪んでしまった私の小さな心が癒されていくみたいだった。

「裕子さん」
  藤原は、 小皿に山盛りに盛られたタコ焼きを、 一度に三個づつ口の中に入れるという、 頬袋にどんぐりをいっぱいためこむ欲張りリスもびっくりの芸当で、 あっという間に平らげると、 頬杖をついて藤原が食べる様子を面白そうに眺めていた私の両肩をつかんだ。
「な、 なにさ」
  タコ焼きにだけでは飽き足らず私まで取って食わんばかりの勢いにうろたえる私。 わ、 私なんか食べたって、 中身はネジや電線ばかりで、 ちっとも美味しくないんだからね。
  思わず身を引こうとする私を無理やり抱き寄せる藤原。 藤原の顔が私に迫る。 私にキスしようっていうんだね。 だけど、 だけどさ・・・。
「ぷぷっ、 くくくくくっ」
  可哀想だから我慢してキスに応えてあげようと思ったんだけど、 やっぱりダメ。 私はテーブルにうつぶせになって身をよじらせて大笑い。
「何がおかしいんだよ」
  私の笑い声にやる気をそがれた藤原は、 唇をとんがらせて不満顔。
「だってさ。 藤原。 ほっぺたに食べかすがついたままなんだもの。 おまけに歯は青海苔だらけ。 それで、 まじめな顔してキスしようとするから、 なんかおかしくってさ。 ごめん、 ごめん。 いくらおなかが空いているからって、 何もそんなに急いで食べなくたっていいのに。 はははは」
  答えるために顔をあげたら、 もう一度藤原のまぬけな顔が眼に入ってまたテーブルを拳でドンドン叩きながら大笑いする私。
「え、 あ・・・あの」
  食べかすを指で落としながら、 藤原は顔を真っ赤にして固まっている。
  それだけ私の作ったタコ焼きが美味しかったってことだよね。 ありがとう、 藤原。 そこまで喜んでくれて、 私、 とっても幸せだよ!

  月明かりに照らされた私達のながーい影が、 寝室の壁に影絵みたいにくっきり映し出されるくらい明るい満月の夜。 でも、 空気がとても澄んでいるせいだろうか、 夜空に満天の星々が月に負けじと煌々と輝いているのがはっきり見える。 星が輝いているのは、 夜空だけじゃない。 沖合いにも、 人の作り出した美しい星々、 停泊しているたくさんの船から漏れる白や黄色の船明かりが、 夜の太平洋を星空みたいに彩っている。
  私達は、 寝室の、 まるで映画館のスクリーンみたいな大きな窓の前に立って目の前に広がる天然のプラネタリウムに見とれていた。
  藤原が後ろから私の細い腰に手を回して私を抱きしめる。 私は夜空を見つめたまま腰に回された藤原の手をそっと握り締めた。 高台に建てられているのと家のつくりがしっかりしているせいで、 波の音もここまではとどかない。 黙っていれば星がまたたく音まで聞こえてきそうなくらい、 声を出しただけでこの世界が全て壊れてしまうんじゃないかって思うくらい、 とても静かな夜。 私は、 藤原に包まれる幸せに酔いしいれながら、 黙って美しい夜空を見上げていた。
  やがて、 藤原の右手が遠慮がちに、 ゆっくりと私のおなかを這い上がって、 私の着ているエプロンと肌の隙間に潜り込んだ。 そして、 手のひらで包み込むように私の乳房を愛撫する。
「ううん」
  控えめな乳房からもたらされるゆるやかな快感に、 私は思わず甘い溜息をつく。 私の反応に応えるように、 藤原の右手は私の乳首を摘んで器用にこね回す。 さっきよりも強い快感に私は身体一瞬身体をぴくんと振るわせて、 それから腰にあてがわれたままの藤原の左手をぎゅっとにぎりしめた。
  なんだか、 今日の私、 とても感じやすくなっているみたい。 いつものワイ横のラブホでの、 ただ身体を繋ぐだけの単調で性急なセックスとは身体の感じ方がゼンゼン違う。
  私の身体は機械なんだ。 だから、 いくら場所やシチュエーションを変えようが、 同じところを同じようにさわられれば、 脳に伝わる刺激は理屈の上ではいつも一定のはず。 それでも、 今の私がこんなに感じやすいのは、 刺激を受け取る私の心が、 普段とは違うムード満点の素敵な別荘にいることで興奮しているからなんだ。 私が生きているからなんだ。
  これからはじまる行為への期待感に胸を膨らませながら、 私は藤原の次の行動を待った。
 
  私の期待に応えるように、 藤原は右手で私の乳房を愛撫し続けながら、 左手をじりじりじらすような動きで私の足の付け根の茂みに近づけていく。
  私はやがて全身を襲うに違いない強烈な刺激に耐えるために自分の身体をぎゅっと抱きしめた。 藤原の指を待ちきれずに、 私のあそこから恥ずかしい液体がどっと溢れ出す。
  藤原の指が私のあそこに辿りつき、 じらされて、 すっかり固くなってしまった敏感な部分に軽く触れた。 その瞬間、 待ってましたと言わんばかりに、 電気信号に姿を変えた淫魔が私を快楽のとりこにすべく、 全身に張り巡らされた電線を走りぬけた。
「んっ、 んんっ!」
  私は身体を折り曲げて、 口を押さえて、 出口を求めて身体中を暴れまわる快楽の津波を無理やり身体の内側に押し込めようとする。 でも、 それは、 決して感じまいとするためじゃない。 ただ、 次に身体に襲いかかる波をよりいっそう高くするための準備運動みたいなものなんだ。 ひとりエッチでも、 あっけなくすぐイっちゃうよりは、 イクのを我慢して我慢して、 最後に思いっきり果てるほうがずーっとキモチがいい。 二人でするエッチだってそれとおんなじ。
「い、 嫌っ。 こんな大きな窓の前でそんなことしたら、 誰かに見られちゃうよう」
  身体を暴れまわっている波が引いて、 ちょっと落ち着きを取り戻した私は、 今度は藤原のほうを振り返って膨れっ面で睨みつける。
  でも、 それは私の本心じゃない。 いくら大きな窓の目の前でこんなことしてるからって、 こんな高台に建っている家なら、 船の上から望遠鏡を使って覗き見するような物好きでもない限り、 私達の姿を見ることなんかできない。 でも、 そう口にすることで、 誰かに見られるかもって思うことで、 私は余計に興奮しようとしてるんだ。 そう、 私はいやらしいよ。 きっと、 藤原が思っているよりずーっとエッチだよ。
  はやく、 したい。 はやく藤原のものが欲しい。
「ふ、 じ、 わ、 ら。 早く、 ベットに行こうよう。 エプロン脱がしてよう」
  私は、 すがりつくように藤原に体を預けると、 とっておきの甘い声色を使って藤原を誘惑した。
「私、 いつまでこんなカッコしてればいいの? まさか、 藤原、 私にコレ着たまましようって言うつもり。 ホラホラ、 早く早く」
  今度はエプロンの裾を胸の高さまでつまみ上げて、 暴れ牛を挑発する闘牛士みたいに身体にまとわりつく薄い布切れをひらひらさせる。
  でも、 いつもの藤原なら私が言うより早くブラのホックに手をかけているくせに、 今日に限って私の着ているエプロンに手をかけてくれない。
「えーっ? 裕子さん、 それ、 脱いじゃうの?」
  藤原は、 私の裸エプロン姿を上から下まで舐めるように眺め回したあと、 肩を落として心底がっかりしたようにつぶやいた。
  私からすれば、 する前には着ているモノを脱ぐのはトーゼン。 お互いに全てをさらけ出して、 肌と肌をぴたっと触れ合わせれば、 それだけで私は幸せな気分になれるんだ。 たとえ私の身体では藤原の暖かい体温を感じることができなくてもね。
  でも藤原は違うらしい。 腕組みをしてながら私の身体をしばらくみつめたあとで
「俺、 やっぱり、 そのままがいいな」
  そう言って、 私を抱き寄せた。
(藤原は、ここまでヘンタイだったか・・・)
  藤原に抱かれながら、 私は藤原の胸の中であきれたようにため息。 藤原の目は私の機械の目と違って生身のごく普通の「めんたま」なんだ。 月明かりくらいじゃ、 どうせ私の姿なんかはっきり見えないだろうに、 それでも裸なんかよりエプロン姿のほうが良いって言うんだね。
「ま、 いいや。 今日は藤原の誕生日だしね。 藤原の言うとおりにするよ。 そのかわり・・・ふふふ」
  私は、 顔を上げると、 藤原に向けていたずらっぽい笑顔を見せる。
「そのかわり?」
  鸚鵡返しに私に聞き返す藤原を無視して、 ベッドの横まで引っ張る。 そして、
「えいっ!」
  ベッドに向かって、 藤原を思いっきり突き飛ばす。 ふかふかのベッドがスプリングを軋ませながら藤原の身体をすっぽり受け止めた。 何が起こったのか分からず、 クッションのきいたふかふかのベッドに半分身体を沈めながらきょとんとする藤原。
  私はベッドに飛び移ると、 まるで子供がけんかでもするみたいに藤原の上に馬乗りになった。 二人分の重みを受けて、 ベッドはいっそう深く沈みこむ。 そして、 そのままの姿勢で、私は藤原の上着に手をかけて、 剥ぎ取った。
「裕子さん、 重いよっ!」
  身体の上で動き回る私の重みに耐えかねて、 たまらず悲鳴を上げる藤原。
「ごめん」
  私は、 身体を起こして藤原に体重をかけないように気をつけながら四つんばいになると、 藤原の顔をつかんだ。
「そのかわり、 今日は私が上になるよ。 私が藤原を犯してあげるんだ。 ふふふ、 私、 そう決めた」
  私は勢いよく、 勝ち誇ったようにそう宣言すると、 そのまま藤原の唇を吸った。
 
  私の体重はきゃしゃな外見からは想像できないかもしれないけど、 実は120kgもある。 ちょっとしたお相撲さん並みだね。 いくら義体の軽量化が進んで昔よりは多少軽くなっているっていっても、 所詮は金属の固まりだから、 まだまだ生身の身体よりずーっと重い。
  だから、 今まで、 騎上位っていうんだっけか、 私が上になって藤原を攻めた経験はない。 もちろん、 たまにはそういうことをしたいって気分の時もあったけど、 私が上になるってことは、 どうしても藤原の身体に体を預けちゃうってことで、 そうすることで、 私の身体が生身の身体とは異質の重さだってことを藤原に意識させちゃうからね。 そうでなくても、 こんな体重で上にのしかかられたら誰だって苦しいだろうし・・・。 だから、 たまにちょっと刺激が欲しくて、 上になりたいって思った時でも、 私、 いっつも我慢してたんだ。
  でも、 私、 決めた。 藤原が、 そうやって、 調子に乗って私の魅力的なヌードよりも、 こんな下らないカッコをしているほうがかわいいなんて我儘を言うなら、 私だって我慢しないで自分のやりたいようにする。 だって、 二人の間に遠慮なんかないんでしょ。
「ごめんね。 重いかもしれないけど、 我慢してっ! 今日は、 私が藤原を襲いたい気分なんだよね。だから、 藤原このまま寝ていてね。 ふふふっ」
  私は顔をあげて、 そう意地悪っぽく笑ったあとで、 もう一度キス。 そして、 そのまま手探りに藤原のジーパンのボタンを探り当てて、 なんとか右手一本でボタンを外すことに成功する。
  すっかり興奮してしまった私は、 身体を藤原に密着させたまま、 ずるずる藤原の足の付け根まで移動して、 身体を起こした。 そして、 藤原を襲うヨロコビに酔いしいれながら、 私はズボンとトランクスを膝のところまで引き摺り下ろした。 ぴょこんと外に飛び出す藤原のシンボル。
「あーっ。 もうこんなに大きくしてるっ!」
  私が大げさに騒ぐと、 藤原が恥ずかしがってあわてて隠そうとする。 その手を無理やり払いのけて、 大きく怒張した愛しい藤原のそれに顔を近づけて、 まじまじと観察。 よーく見ると、 藤原の先端から、 ちょこっとせーえきとは違う透明な液体滲み出ているのが分かった。
「可哀想に、 こんなに我慢しちゃって。 今、 お姉さんが、 中に入れてあげるから待っててね」
  私は、 ペットの小動物でも可愛がるみたいに、 藤原の分身をそっと撫でる。 藤原のそれは、 私の手の平の中で身もだえするようにぴくぴく震えた。
「裕子さん! 俺、 もう我慢できないよ!」
  突然、 藤原はそう叫びながら、 弾けたように上半身を起こすと、 脱げ掛かっているズボンを投げ捨てた。 私は、 あわてて、 もう一度藤原に抱きつき、 押し倒して、 藤原が起き上がれないように両手に力を込めた。
「このまま寝ててって言ったでしょ。 今日は私が藤原を襲うんだからっ!」
  叱りつけるようにぴしゃりとそういったあと、 私は下のほうに手を伸ばして、 藤原のモノをつかんだ。
「入れるよ」
  興奮のあまり上ずった声で私は藤原に聞いた。
  藤原は、 ごくりと唾を飲み込んで、 無言でうなずく。
  私は藤原をまたぐようにしゃがみこむと、 藤原のものを私の中に導きながらゆっくりと腰を落としていく。 藤原を犯すんだって思ったら興奮して、 もう、 私の中は、 とっくに溢れたものでぐしょぐしょだったから、 何の痛みも抵抗感もなくすんなり大きくなった藤原を受け入れることができた。 眼線を下に落とすと、 じゅぶじゅぶいやらしい音を立てながら、 私のあそこが藤原を飲み込んでいくのが見えた。
  藤原が入ったところで、 私は身体をきもち持ち上げて背筋をぴんと伸ばす。 その拍子にさらに深く藤原が私の中に入り、 鋭い快感が身体を突き抜ける。
「くふっ!」
  私は、 たまらず、 藤原の上で背中をのけぞらせて喘いだ。
「ふ、 藤原っ! 動くよ」
  私は身体を動かしやすいように両手を藤原のおなかの上に置いた。 藤原は答える代わりに、 私の腰を掴む。
  一瞬、 藤原の顔に苦痛の色が浮かんだ。 私の重たい機械仕掛けの身体を上に乗せて、 藤原が苦しくないはずない。 やっぱり、 私にはこの姿勢は無理なんだろうか? そう思った私はこの期に及んで藤原の上で身体を動かすことを躊躇して、 唇をかみしめてがっくり肩を落とした。
「どうしたの? 裕子さん、 動いていいんだよ。 俺なら大丈夫だから気にしないで」
  藤原は、 私のお尻や腰をゆっくり撫でながら、 そんな私に優しい声をかけてくれる。
「ありがとう・・・藤原・・・」
  私は藤原の言葉に勇気付けられて、 ゆっくりと、 身体を動かし始める。 身体の刻むゆったりとしたリズムにあわせて、 ベッドのクッションが揺れ、 そのたびに白いシーツに新しい皺が刻まれた。
  今、 藤原は私の120kgの体重を全身で受け止めてくれている。 きっと、 ものすごく重たいだろう。苦しいだろう。 やっぱり、 私の身体が生身じゃないんだって心のどこかで実感していることだろう。 ものを食べることは我慢してほしくなくても、 こういうふうに私が上にのっかるのは我慢してほしいって思うなんて、 私はハタから見れば自己中のレッテルを貼られること請け合いの我儘女なんだ。 きっと、 藤原も内心あきれているに違いない。
  でも、 ありがとう。 藤原、 本当にありがとうね。 私、 こんな身体で、 心以外に人間らしいところなんてこれっぽっちもなくって、 しかもいつも失った身体のことでぐちぐち悩んでばかりいる情けない女です。 いくら23歳ですって言っても外見は高校生のままだから、 藤原のことロリコンなんて、 他の人に変な誤解もさせてしまっています。 そんな私にあきれても、 決して見放さないで、 いつも優しく見つめてくれてありがとう。 普通の女の子として接してくれてありがとう。 私、 相手が藤原だから、 自分のことなんでもさらけ出せるんだよ。 こんなふうに上になることだって、 できるんだよ。 いつも先輩面して生意気言ったりしてるけど、 アンタにはホント、 感謝してるんだ。
「あっ、 あっ、 あっ、 あっ」
  身体を持ち上げて、 沈める。 ただそれだけの繰り返しなのに、 なんでこんなに気持ちがいいんだろう。 藤原を身体の中に深く受け入れるたびに、 例えようもない気持ちよさが身体中にわあっと広がる。 藤原のことを気遣う余裕なんてすぐになくなって、 私は、 より深い快楽を貪るために身体を藤原に強く打ちつける。
「いいよう! いいよう!」
  私は我を忘れて髪を振り乱して叫んだ。
  私が、 藤原を犯しているはずなのに、 ホントは私が襲うはずだったのに、 結局ハシタなく乱れるのはいっつも私だ。 これじゃ上になってるか下になってるかが違うだけで、 普段と何も変わりはしないじゃないか!
  ずるいずるいずるい。
  同じことしてるのに、 私ばっかりこんなふうに身体を滅茶苦茶にされて、 藤原は、 私が、 普段の私だったら絶対しないような、 快楽に歪んだしまりのない情けない顔をしているところを冷静に見てる。 そんなのってずるいっ!
  でも、 いい。 ものすごく気持ちがいい。
  いいんだ。 私がこうやって、 淫らに乱れまくっているところ、 藤原にだけは見せてあげる。 藤原には私の全てをさらけ出してあげる。 藤原の望むことをしてあげる。 だって、 私は藤原のことが愛してるから。 大好きだからっ!
  次第に藤原を貪る私の腰の動きが速くなる。 ぎしぎしベッドがきしむ音、 ぴちゃぴちゃ私が藤原を受け入れる音、 ぱつんぱつん私の身体が藤原にぶつかる音、 しゅっしゅっエプロンと私の肌がこすれ合う音、 それから私のよがり声。 藤原のタクトの指揮で奏でられる卑猥な音のオーケストラが静かな寝室に響く。 私の身体が刻むリズムは、やがて来るクライマックスに向けてどんどん速くなっていく。
  もう、 背中を伸ばしてなんていられない。 私は藤原に身体を預けて、 両手で快楽に耐えるようにシーツをぎゅっと握り締める。 でも腰から下は私の意志とは関係なく別の生き物みたいに蠢いて、 より強い快楽を求めて敏感な固い芽を藤原の身体にこすりつけ、 あそこは受け入れている藤原自身を咀嚼するように時折きゅっと強く締め付けるような動きをする。
  藤原。 もっと、 藤原のこと、 私の中に感じさせてよ。 もっと、 もっと、 もっと。
「藤原、 ぼーっとしてないで。 お願い! 私のこと触って!」
  もう 私は自分が感じることしか考えていないただの一匹のいやらしいメス。 その本能の命ずるままに、 私は藤原に強く懇願した。
  藤原の両手が、 私を支えるようにエプロン越しに身体の動きにあわせて激しく揺れる私の乳房にを掴み、 乳首を中心に円を描くように優しく愛撫する。
  でも、 そんなんじゃ駄目。 そんなんじゃ私は満足しない。
「もっと強く! 痛いくらいでいいからっ!」
  私は、 激しく身体を動かし続けながら、 右手で藤原の手の平のごと、 自分自身の乳房をちぎりとってしまうくらい強く鷲掴みする。 そして、 身体をのけぞらせながら呻きとも喘ぎともつかない悦びの声を上げた。
「ふじわら。 私、 もう駄目だっ! もう、 いっちゃうよう、 いっちゃうよう」
「裕子さん、 俺も、 もういくよ」
  藤原が初めて上げる切なそうな声。 藤原も感じてくれている。 そう思ったら、 もう、 ダメ。
「あーっ、 あーっ、 あーっ」
  無我夢中で二度、 三度、 藤原自身をより深く、 強く身体に受け入れる。
  その瞬間、 今まで身体の中を渦を巻いて暴れまわっていた快感が一つにまとまって、 怒涛のように私の頭に押し寄せた。
  びくん、 びくん、 びくん、 びくん。
  私のあそこが、 藤原自身を強く締め付け、 震える。 そのたびに、 気が狂いそうになるくらいの快感信号があそこから生み出され、 私の脳みそを溶かしていく。
「裕子さん。 俺、 もうダメだー」
  私の身体の奥深くに藤原が欲望を吐き出すのを感じながら、 私はどうっと藤原の身体の上に崩れ落ちた。
 
  ピンポーン、 ピンポーン、 ピンポーン。
  何度も繰り返し鳴らされる、 ちょっとしつこめの呼び鈴で私は目を覚ました。
(なんだよ、 もう。 朝っぱらから)
  ふかふかのベッドでの快適な睡眠を妨げられたことにちょっとイラつきながら、 ばらばらに乱れた髪をかき上げると、 枕元に置いた腕時計を手に取る。
  もうとっくに、 お昼を過ぎていた。 窓の外に広がる太平洋の大海原は、 昼間の強い日差しを反射してギラついている。
(やっばーい。 昨日はさすがに頑張りすぎたか・・・)
  昨日の自分の痴態を思い出して、 思わず苦笑い。 私はいったい何度藤原にいかされたんだろう。 藤原は何度私の中で果てただろう。 私達、 東の空がうっすら白みはじめるまで、 飽きもせず繰り返し身体を求め合っていたんだ。 こんな時間まで眠り続けても、 なんの不思議もないよね。
「裕子さーん、 おはよー」
  傍らに寝ていた藤原が目をこすりながら起き上がる。 寝癖だらけの藤原の頭を見てくすりと笑いながら、 「おはよう」って挨拶を返す私。
  ピンポーン、 ピンポーン。
  また、 呼び鈴が鳴った。
(こんな町外れの別荘に来る人って、 いったい誰だろう。 ひょっとして何か宗教の勧誘じゃないだろうね)
  私断るの苦手なんだけどなあ、 と、 苦々しく思いつつ、 昨日から身につけたエプロン姿のままのろのろ立ち上がると寝室のインターホンをとった。
『お届け物でーす。 藤原修治さん宛てになっていますが、 こちらでよろしいですか?』
  インターホン越しに、 さわやかそうな青年の声が響く。
「ふじわら? はい。 います・・・けど・・・」
  私は、 言葉を詰まらせる。 なんで藤原宛の届け物がジャスミンの別荘に届くんだろう。 不思議に思った私は、
「なんか、藤原あてに届け物だってさ」
  受話器をふさいで藤原にそのことを伝える。
「え、 ホント?」
  それを聞いた藤原の寝ぼけ顔が、 ぱあっと嬉しそうに輝く。 そして、 消防士も顔負けのスピードですばやく服を身につけると
「ちょっと行ってくるね」
  そう言い残してスタートダッシュが命の100mランナーみたいなものすごい勢いで玄関に向かって走っていった。
 
  リビングのテーブルで頬杖をつきながら藤原の帰りを待つ。 と、 藤原は、 ニヤニヤ笑いを浮かべながらお土産用のお菓子箱くらいの大きさの箱を抱えて戻ってきて、 その小箱をテーブルの上に置いた。
「何? それ」
  藤原は、 私の問いかけなんか耳に入っていないみたい。 誕生日プレゼントをもらった小さな子供みたいに、 箱の包装紙を無造作にビリビリ引き剥がすことに没頭中。
「裕子さん、 ハイ」
  やがて、 藤原は箱の中から丁寧に折りたたまれた黒い衣装のようなものを取り出すと、 私に手渡した。
「何? これ」
  私は両手で、渡された衣装をつまんで、 広げた。
  はじめはワンピースタイプの水着かなあって思ったんだけど、 ちょっと違うみたい。 生地は水着よりちょっと厚手だし、 黒一色の地味なデザインの割にはずいぶん大胆なハイレグカットだし、 何より胸より上の部分がない。 こんなの着たら胸の谷間が丸見えになっちゃうじゃないか。
「ちょ、 ちょっと、 藤原。 何なの? これ」
  私は、 レオタードらしきヘンな衣装をテーブルに放り投げると、 指先でテーブルをつんつんつつきながら詰問。
「えーっと、 これが網タイツ。 それから、 これが蝶ネクタイか。 それからこれが尻尾」
  藤原は、 わざと聞こえないふりをして、 箱の中のビニール袋を破いては中身を私の手に押し付けていく。 あっけにとられて固まったままの私の両手に何かの衣装一式が積み重ねられていく。
「それから、 最後にこれ」
  うさぎの耳をかたどったヘアバンドを手渡されて私は絶句。
「藤原・・・ひょっとして、 これってまさか・・・」
「裕子さん。 俺、 今までいろいろ遠慮しちゃってさ。 そのせいで、 裕子さんを傷つけちゃって、 本当に申し訳ないと思ってるんだ。 だから、 裕子さんが俺に遠慮しないように、 俺も、 もう裕子さんに遠慮しないことにしたよ。 そのバニーガールの衣装、 昨日の夜、 裕子さんに内緒でこっそり通販に頼んだんだ。 裕子さん、 お願い、 それ着てください。そ れでいらっしゃいませー、 とか言ってください。 お願いします」
  藤原は、 椅子から降りると、 床にぺたんと跪いて、 時代劇でお代官さまに訴え出る農民みたいに私に向かって土下座。
「・・・」
  もうあきれ果てて、 私、 何も言えません。
  裸エプロンじゃあきたらず、 私にこんなカッコまでしろってか? 確かに私は遠慮しないでって言ったけど、 藤原の着せ替え人形になるなんて言ったつもりはないんだけどな。
「裕子さん、 いいでしょ?」
  藤原は、 困惑する私を見上げてパチリとウインク。
(調子にのりやがってーーーーーっっっ!)
「バカバカっ! 藤原のバカっ! このスケベっ! ド変態! 死んでしまえっ!」
 
 
 
  で・・・でも、 まあ、 そのう・・・結局着てあげたんだけどね・・・。 とほほほ。




 
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