このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


「ねえねえ。あの子、また居眠りしてるよ」
「しっ!講義中だって。あんた声でかいよ。あの子って・・・あー、お金大好きっ子のこと。バイトで忙しいらしいよ。さやかの話だと、毎日夜遅くまで引越し屋さんで働いてるんだって」
「学食に行っても何も食べない子ってあの子でしょ」
「そう。本人はダイエットしてるって言ってるけど、どうせ嘘でしょ。昼ごはんもケチってまでお金をためたいわけだ」
「あんなダサイかっこして、昼食を抜いてまでして一生懸命お金をためていったい何するつもりなんだろうね」
「それはアレだよ。お金をためることが目的ってやつ。預金通帳眺めてニヤニヤしたりするの」
「何それ。信じらんない。お金なんて使ってナンボだよね。美味しいもの食べたり、素敵な服を買ったりしてね」
「いやだねー。ああはなりたくないねー」



 みんな私のことを「お金大好きっ子」って言って影で笑ってる。
 そのとおりだよ。私はお金が大好き。それの何がいけないのさ。
 私は、手も足も身体も何もかも失くしてしまった。私に残ったのは心だけ。その心だって、毎月病院にたくさんお金を払っていないと、すぐにでも消えてなくなってしまいそうな、あやふやでちっぽけなもの。だから、預金通帳に記帳された無味乾燥な数字の羅列は、私が人間でいられるためのライフポイントみたいなものなんだ。多ければ多いほど嬉しいに決まってる。

 美味しいものなんか食べれなくたってかまわない。きれいな服なんか着れなくてもいい。そんなものよりお金がほしい。心を買うためのお金がほしい。もっと、たくさん。もっと。もっと・・・。

 

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