このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
♪笹の葉さらさら 軒端にゆれる
えー、私は今、佐倉井に誘われて、佐倉井の家の近所にある小さな神社の七夕祭りにやってきています。
わざわざ七夕祭りって言うだけのことはあってさ、入り口から鳥居まで続く小さな参道の両側に植えられた笹は、クリスマスツリーに負けないくらいきれいに飾りたてられているんだ。
「バチン」
でも、入り口のところで、好きな色の短冊をもらって、願い事を書いたら笹の葉にぶら下げる。そのカンタンなことが、なかなかできない。笹の周りはどこもかしこも、カップルでいっぱいで、私が入り込む隙間なんかない。
私に言わせれば、あんたたちの願い事はもう適ってる。本当に短冊をぶら下げて織姫様に願い事をしなきゃいけないのは私だっていうのにさ・・・全くもう!早く、そこをどけ!
「バチン、バチン」
しかたないから人並みを避けて、私たちは境内の裏手に行った。
神社の裏手に広がる鎮守の森の中に一箇所だけ、まるで森に穴を開けたみたいにぽっかり空が見える場所がある。
私は、空き地の真ん中にたって空を見上げた。
「バチン、バチン、バチン、くっそー、くっそー」
森の木々に額縁みたいに四角く縁取られた、空のキャンパス。そして、そこに描かれた天の川。そして天の川から溢れて落っこちて、地球がびしょぬれになっちゃうんじゃないかって不安になるくらい一面に広がる星々。
きっと、この天気なら織姫様は、今頃彦星様との一年ぶりの再開を楽しんでいるはず。
そして、私も・・・。
私は、手の中の桃色の短冊を、そっと胸に抱いた。
え?どんな願いごとしたかって?そんなの決まってるじゃないか?
かっこいい恋人が欲しいとか、かっこいい恋人が欲しいとか、かっこいい恋人が欲しいとか、たくさん書きました!
ここの神社の願い事、よく適うからね。私だって、短冊を下げさえすれば、きっと・・・。
それにしても、星、きれいだな。もう少しここにいたいな「もう帰ろう!」
物思いにふける私に突然割り込む佐倉井の鋭くとがった声。
びくっとして振り向くと、佐倉井、浴衣を右腕をまくりあげて、ぼりぼり腕を掻いていた。
「ヤギー、よくこんな蚊が多いところでヒタっていられるよね。あんたの血って、よっぽど不味いんだね。どうして私ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないの?もー」
不貞腐れて私をにらみつける佐倉井の頬っぺたに、いくつも、蚊にさされた跡が。
佐倉井に不満をぶちまけられて、はじめて周りを見回す私。よくよく見れば、血を吸って丸々太った大きな蚊が私たちの周りを我が物顔で飛び回ってる。でも、刺されるのは佐倉井ばっかり。
そりゃ、そうだ。どんなにタチの悪い蚊だって、電気やオイルなんて、欲しいわけない。
「ああ嫌だ嫌だ。くそー。死ね、死ね」
バチン、バチン、バチン。
周りを飛び回る蚊を潰そうとやっきになって、佐倉井は、まるで不恰好なダンスでも踊るみたいに、その場をくるくる回った。
しかしながら、リアクションの激しさの割には蚊の飛行部隊の一斉攻撃に全く有効な打撃を与えられない。フラストレーションが頂点に達した佐倉井は全身を狂ったように掻き毟ったあとで
「もうつきあってられないっ!ヤギー、私帰るからね」
そう私に言い捨てるてて、くるりと背を向けて足早に立ち去ちゃった・・・。
「あ・・・ちょっと、待ってよう。私まだ短冊を下げてないんだよう。ちょっと、佐倉井、待ってったら!」
♪お星様きらきら 金銀砂子
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