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 重々しい回転ドアを抜け、神々しい雰囲気漂う白亜の大広間に足を踏み入れた瞬間、なんだか、私たちを包む空気までもが変わったような気がした。いや、私は普通の人みたいにすーはーすーはー呼吸をしているわけじゃないし、お前空気の匂いなんか分かるのかって突っ込まれたら、スミマセンわからないですって認めるしかないんだけどさ、でもそう言いたくなるような私の気持は分かってほしい。
 えと、何をかくそう今、私と藤原は、あの超一流ホテル、栄国ホテルに来ています。なんで、絵に描いたようなビンボー人の私たちが、そんなところに来ているかって言うとさ、それにはもちろんわけがある。実は明日、栄国ホテルの向かいにある展示場で、1フロアをまるまる使って、イソジマ電工の全社規模の大きな会議が開催されるんだよね。もちろん会議自体には下っ端の私の出る幕はないんだけどさ、その事前準備を府南病院のケアサポーターチームが手伝うことになったんだ。で、集合時間がこれまた早くて、展示場に朝の8時までに来いだって。
 もちろん、いつもの私であれば我慢して早起きして、イソジマの寮から電車に乗って展示場に向かうところなんだけど、今回のヘルプの件が私に伝わったのは、
なんと間の悪いことに、ちょうどその前日にあたる日に藤原と夜デートの約束を入れた直後。せっかく藤原が次の日非番だから、あわよくば私も有給なぞいただき、超久しぶりに、何もかも忘れて、二人の夜をゆっくり楽しもうと思ったのに、とてもじゃないけど有給なんて取れそうな雰囲気ではないし、次の日早起きしなければいけないとなれば、それが気になって、全てを忘れて楽しむなんてこともできないよね。
 それで、いつもなら、そこまでムリして会ってもなあってことで、藤原との約束は諦めるところなんだけど、あああ私はバカなのだ。
 私と藤原は、お互い勤め人で、しかもお互い不規則な勤務時間ということで、この機会を逃すと次にいつ会えるか分からないんですね。だからつい思い余って展示場の向かいにある栄国ホテルを予約してしまった。展示場の向かいという立地のホテルに泊まってしまえば、朝の早起きを意識せず、夜更かししていろいろ楽しめるからね。もちろん、かなり値がはるし、普段ならそんなホテル絶対泊まれるわけないんだけど、どうしても藤原と会いたくて仕方ない病の私、ちょっと「あること」をしてお金を作ってしまいました。それで、その「あること」については藤原に伏せつつ、デート用に栄国ホテルを予約したってことだけ電話で伝えたら、やつは電話越しに絶句してた。ああ、また例によってえっちしか頭にないと思われたか。ええい笑うがいいさ。あんたと違って私には人間らしい感覚なんてほとんどないんだよう。あんたと違って食事もできないし、あったかいも寒いも分からないんだ。そんな私にとって、あんなことしたりこんなことしたりするのは、自分は確かにニンゲンなんだって感じられる貴重な機会なんだからね。
 でも、それは、自分の中で思うだけで、口に出しては言えないし、言うことでもないよね。
 ハイ、前置きが長くなりましたが、そういうことで今日がデート当日なわけです。
 栄国ホテルの吹き抜けの大広間。天井から下がる装飾過剰気味の豪勢なシャンデリア。わずかなデコボコもなさそうな大理石の床。どこを切り取っても私の一ヶ月分の給料より、高そうなモノばかり。
 私もナメラレないように、せいぜい一番立派な黒いスーツで決めてきたつもりなんだけど、それでも周囲の紳士淑女のミナサマと比べたら、なんだか貧乏くさいオメシモノのような気がして気後れしてしまう。
「裕子さん、こんなとこ来て、本当に大丈夫なの?」
 うー藤原あんた男じゃないか。そんな怯えた小動物みたいな目で私を見るな。
「だだだ大丈夫。わわわ私に全てまかせなさい」
 すうっと大きく息を吸い込んで覚悟を決めた私は、一心不乱にフロントに突き進む。顔がこわばり、たぶん、メガネをかけない近視のヒトみたく、すっごい険しい目つきになっちゃってるハズだけど、そんなことを気にする余裕はないのだ。


 超一流ホテルだからと言って、私たちのようなビンボー人をとって食う訳ではなく、ましてや生き血をすするわけでもない(あ、私には血はほとんど流れてなかったね。流れているのは潤滑油とか冷却水のたぐいだね。はは)。フロントのお姉さんは、緊張のあまりあたふたして要領を得ない私を落ち着かせる、穏やかなモノゴシかつ必要最小限のやりとりで、私の口から的確に必要な情報を聞き出した。そして、流されるままにおもちゃの兵隊みたいなかっこのボーイさんに案内され、気がついたら自分たちの部屋の前についていた。この間一切のストレスなし。さすがは超一流ホテルだと感心する私なのだ。
 部屋の前まで来たところで、安心したのか、油断したのか、ずーんと腰の奥あたりから、むずむずするような快感が生まれはじめた。ヤバイ。なんかへんなスイッチ入った。この前の定期検査で誰か私の義体にヘンな調整をしたでしょうって疑ってしまうくらい。でもそんなわけないよね。これは機械に操られているわけでもなんでもない、私自身が藤原を求めているから起きた自然な身体反応であって、私が人間だという証なんだ。
「何か、ご用件がありましたら、なんなりとお申し付けください」
 一通り部屋のことを説明してくれたボーイさんが、最後にうやうやしく頭を下げてくれたけど、盛りのついたメスネコ状態な私はそんなのまるでウワの空。キミの仕事は、一刻も早く私たちの前から消えることだよなんて、超失礼なコトを考えてしまうのであった。
 いかにも防音充分ってカンジの厚いドアが重々しい音を立てて閉じられるとすぐ、私は藤原に抱きつき、藤原をドアに押し付け、むしゃぶりつくようにキスした。ただのキスじゃなくて、お互いの舌をからめる、とびきり濃厚なやつ。味なんか分からない、ただの飾りでしかないはずの私の舌でも、なぜだか藤原の味は分かるのだ。それは絶対錯覚じゃない。その証拠に、ただ舌と舌を触れ合わせるだけで、腰の奥のほうから、あからさまな快感が次から次へと生まれ、背中から脳天まで突き抜け、そのたびに腰が砕けそうになる。思わず情欲の赴くままに、自分からあそこを藤原の太ももにさすりつけそうになったけど、それだけは、ものすごーい理性を総動員して自重した。なぜって、たぶんこの状態でそれしちゃうとイクまで止められない。分厚いドアで外界と遮られているとはいえ、部屋に入って早々入口のところで絶頂に達してしまうのは、さすがに恥ずかしすぎる。
 なので、なるたけ直接的な刺激による快楽は避けつつ、そのかわり、しばらく夢中になって藤原の舌の感触を味わっていた。それだけでも頭がくらくらして、充分すぎるほど気持ちよくって、あーもーこの時が永遠に続いてください、くらいに思っていたところ、唐突に藤原のほうから顔を外されてしまった。せっかく、こっちが良い気分にヒタっているトコロに、なんて興ざめなことをするのかって一瞬不満に思ったのだけど、「ぶはっ」と苦しそうに息をつなぐ藤原を見て、すぐに気付く。私、つい夢中になって、藤原が息ができないくらいの勢いで唇吸っちゃってたんだね。私自身は、生きている部分なんて脳みそしかなくて、だからそれほど呼吸が必要ってわけじゃない。だから、夢中になってしまうと、藤原が苦しそうなんてことにゼンゼン無頓着になってしまうのだ。恥ずかしい。
「ずいぶん積極的なんだね」
 口のまわりについたつばを、手でぬぐいながら苦笑する藤原。ちょっと上気して赤らんだ顔がまたかわいらしい。正直萌え死ぬってカンジ?
「ご、ごめんなさい。なんか、こういうことあんまり久しぶりなんで、私わけわかんなくなっちゃってるかも」
 私は、自分の淫乱さを正直に認めた。そして、さらにそれを態度で証明すべく、藤原のシャツのボタンに手をかける。ちゃっちゃと、いつにない手際のよさで藤原の身体からシャツを剥ぎ取り、部屋を彩る深紅の絨毯に放り投げる。
「私のも、よろしく」
 藤原の上半身を裸にしたところで、今度は藤原の手を私のスーツに導く。そして私にできる精一杯の色っぽさで、上目遣いに藤原に迫ってみた。
「あ、脱いじゃうの」
 藤原は拍子抜けした調子で言う。今度は私が苦笑する番だ。このコスプレバカ、おおかたスーツを着せたままでヤリたいって考えているに違いないんだ。
「脱いだらダメ?」
「ダメじゃないけど、せっかく裕子さんいいスーツ着てきたのにもったいない感じ」
 だからと言って着たまましろってのかい。あきれた私は、ため息しかつけない。
「藤原クン的には着ていたほうが萌えるのかもしれないど、さすがに、スーツがシワになるのは勘弁かな。それに服を着たままだと、今日の目的が達成できないし」
「目的?」
 藤原は首を傾げた。そう、今日の私には、どうしても脱がねばならない理由があるんだ。でもまだタネ明かしはしない。
「ふふふ。さあ、なんでしょうねー。脱がせてくれたら、わかるかもねー」


 藤原は私の後ろにまわりこみ、ちょっとぎこちない手つきながらも、私のスーツを脱がして、部屋の入口のハンガーに丁寧にかけてくれる。そして、今度は私のシャツのボタンを外していく。
 シャツの前がぱっくり開き、シャツの下から水色のブラが顔をのぞかせはじめたところで、予想通り藤原の手が止まった。
「あ・・・やっぱりすぐにわかっちゃった?」
 明らかに困り顔の藤原に向かって、私は精一杯の無邪気さを装って、言う。
 止まってしまった藤原の手の動きを引き継いで、私は自分でシャツの残りのボタンを外し、タイトスカートとブラを外し、できるキャリアウーマン風の格好を全て脱ぎ捨て、眼鏡と、この日のために買った可愛らしいデザインのピンクのぱんつ以外は生まれたまんまの格好で、藤原に向き合った。
 ううん、生まれたまんまというのは正確には違うかもしれない。一見普通の裸の女の子の姿ではあるものの、よく見れば私の身体のあちこちを、うっすら分割線が走り、私の身体が、生まれたままどこか、単なる作り物だってことが誰にでも分かってしまう状態である。
 自分から服を脱いではみたものの、私はなんだか気まずくて、まともに藤原の目を見ることができない。自分の身体に目を落とし、胸の下を走る分割線に指を這わせた。
「実は、こういう姿を見てもらうのが、今日の目的なんだ」 
 いくら私の身体が、ぱっと見はフツー人のそっくりといっても、所詮は機械じかけの義体。機械ってことはつまり、正常に作動するためには、こまめな調整が必須ってコト。だから、義体にはメンテナンスに便利なように、よーく見れば作り物の肌のあちこちに継ぎ目が入っていることがわかる。要するに、検査なんかの時、そこから分解できるってわけ。メンテナンス不要な部品も増えてきたとはいえ、これは最新型の義体でも同じ。
 たとえ、体のあちこちに継ぎ目が入っていたからといって、別に生活するうえで支障をきたすわけじゃないんだけどさ、自分の身体がツクリモノだと一目で分かってしまうようでは、義体ユーザーの精神衛生上よくないとされている。だから、定期検査の後で、義体の継ぎ目をコーティングして、パッと見には普通の身体に見えるように仕上げてくれるんだ。こういう細かい職人作業があってはじめて、見た目だけでもフツーの人と同じ身体を装えるというわけ。いってみれば義体のお化粧のようなもの。
 でもコレ、一つ問題があるんだよね。このお化粧、ジョイントコーティング作業っていうんだけど、いくら医療扱いで保険が適用されるといっても、タダではないんだ。毎月ゼッタイに必要な検査費用の他に、こうした、ただ見た目を取り繕うだけの作業にも安くないお金が消えていく。こういう身体で生きていくのもラクではないのだ。
 前置きが長くなってしまったけど、なんで今の私の身体に継ぎ目があるかというと、それはモチロン、ジョイントコーティングをしなかったから。一般生活に支障をきたすわけではないということは、つまり任意であるってこと。検査費用を安くあげるため、コーティングをしないという選択肢ももちろんある。継ぎ目だらけの、服を脱げば機械人形って一目で分かる姿と引き換えにね。私が冒頭にお伝えした「あること」をして作ったお金というのは、これのことでした。

「その、どうしても今日藤原に会いたくて、それで、そのう、このホテルを取るためにお金が必要で、それでこんなふうに・・・!!!!」
 くどくど弁解をはじめた私を、藤原は何も言わず、ただ強くだきしめてくれた。


 しばらく抱き合っていた私たちだけど、藤原が、ぽんぽん私の背中を優しくたたき、それを合図に、どちらからともなく、抱き合うのをやめた。それで、私はもう一回、藤原と向かい合うカッコになった。さっきは目をそむけてしまったけど、今度はまっすぐ藤原の顔を見るのだ。
「裕子さんが言いたいことは、なんとなくわかるよ」
 藤原が、私がより先に口を開いた。
「どうせ、裕子さんまた自分のことを、機械じかけのお人形さんとか、生体脳つきのダッチワイフとか言うつもりでしょ」
 げ、なんで分かるのさ。
 私のウロタエを見て取ったのか、藤原はくすりと笑った。
「でもさ、俺に言わせれば、俺と会いたいっていう理由だけで、訳わかんない行動をとるの、それって、機械人形でも、他の誰でもない、たまらなくいつもの裕子さんだよね」
「うー、それって誉めてるのか、あきれてるのか、どっちだよう」
 口をとがらせて不満顔を作る私。でも、やっぱり表情はちょっと緩んでしまう。正直この身体を見てドン引きされたらどうしようと、内心不安だったので、ほっとしたのが正直なトコロなのだ。
「両方かな。でも裕子さんのそういうトコ好きだよ。どんな身体とか、関係ないよ」
 それを聞いて、私の中のちっぽけな理性のタガがガラガラ崩壊した。藤原に抱き付き、ぎゅーっと抱きしめ、それから藤原のトランクスの中に手を突っ込んで、充分に固くなっている藤原のあれをやさしく握る。ゆったりとしたリズムで上下にしごき、それにあわせて藤原が興奮したように息を吐く。その息が私にかかるたびに、ほとんど機械の私に、かすかに残った動物としての本能に火がつくんだ。
「藤原っ!」
 私は、たいして大きくもない、作り物の胸を、藤原に押し付け、せがむ。
「あの、私どうしようもなく欲情した。藤原がほしい。今ほしい。ベッド、いこ」 


“ばふん“
 飛び込まんばかりの勢いでベッドに乗る私。子供か私はw
 なんと天蓋まである重厚なつくりのベッドは私の120kgの体重を軟らかく受け止め、それでいて適度な弾力を保ち深く沈むことはない。いつもの菖蒲端のラブホテルの安っぽいベッドとは、身体に伝わる感触がゼンゼンちがう。
「うわあすごい。さすが一流ホテル」
 しばらく、うつぶせで足をバタつかせてベッドの感触を、全身にちりばめられた、つたないセンサーで味わったあと、仰向けになって、藤原を受け入れる体制をとる。
「私は、いつでも大丈夫だよ」
 身体を重ねてきた藤原の頭を掻き抱きつつ耳元で囁く。ついでに軽く息も吹きかけるのだ。そうして、もう何もしなくても充分すぎるくらい潤っていて、すぐにでも入れてくれて大丈夫だよっていうか、入れなさい!という強いサインを、精一杯藤原に送ったツモリなのである。
 ところが、藤原のヤツ、私の顔を見て笑い出しやがった。ムードもへったくれもないのだ。
「な・・・なにがそんなにおかしいんだよう」
「いや、今日の裕子さんは、態度がコロコロ変わると思ってさ」
「うー、悪いかよう」
 またもやはじまりそうな私の弁解をさえぎるように、藤原の手が私の身体を這いまわる。左手は胸の上、右手はあそこの上。ぱんつの上から割れ目をすーっと軽く撫でられただけで、たいした刺激でもないのに、快感で身体が震え、またまたじわじわっと身体の奥から熱いものがにじみ出てきたのを実感する。しかも感じすぎて、尋常じゃない量の気がする。
 藤原の手のひらが私のあそこの上に置かれ、ぐりぐりっと円を描くように動かす。同時にぐちゃぐちゃと、いやらしい音が響く。いや、なんかあまりにも量出しすぎちゃって、いやらしさを通り越してムードもへったくれもない感じ。
「ああっ!」
 ぱんつ越しに、クリを探り当てられ、手のひらで強く押しつぶされる。とってもあからさまで、わかりやすい快楽が私を襲い、たまらず私は悦びの声をあげてしまう。藤原は私の唇を吸いながら、左胸とあそこを本格的に攻めはじめる。
「ああっ、ちょっと待って藤原。ね、ちゃんとしよ。ああああっ!」
 イマサラ「前戯」なんかしなくてもいい、すぐにでも藤原のものがほしい、と伝えたつもりだったんだけど、いつも以上の私の身体の反応に気をよくしているのか、藤原は私の抗議の声をガン無視して、ますます強く、ぐりぐり円をえがくように手を動かし続ける。このまま私をイカせるつもりだね。
 悔しいっ!何が悔しいかって、はっきりいって何のテクもメリハリもない、稚拙な動きのくせして、そんなのにめちゃくちゃ感じさせられるのが悔しい。いつもなら、そうたやすくはイカないはずなのに、なんか今日の私はもうだめ。本当なら、こういうとき、私も藤原のあそこをさわってあげて、二人して一緒にキモチよくなるべきなのかもしれないけど、私には、もはやそんな余裕もない。ハシタなくもふかふかベッドの上に大の字になり、藤原の手の平に操られるままに、素直に快楽に身をゆだねることに決めた。こういう時の私ってば、どんな恥ずかしい顔をしているのか、あとから考えれば赤面もの(いや、顔色は変わらないんだけどね)なんだけど、もはや外面を取り繕っている場合ではないのだ。せいぜい手で顔を覆い隠すくらいしかできない。
 ざざっと私の視界にノイズが入った。普段だったら、あからさまに自分が機械なんだと自覚させられてしまう、すっごく嫌な現象なんだろうけど、全身から集まってくる快楽の奔流を処理しきれず、サポートコンピュータ−が悲鳴を上げていると思えば、それすらも自分を高める材料になるのだ。
「ダメっ!もうダメっ!!!!!!」
 私は、股間の上で踊る藤原の腕を、手探りあてるとぎゅっと強くつかんだ。その瞬間に、何かお腹の奥のほうにある、電気仕掛けの小さな淫魔をためこんで、パンパンにふくらんだ袋がばちんと弾け、そこからぶわっと一斉に飛び出した電子妖精が、今までの比じゃない、数十倍の快楽のペンキで、私の身体を塗りつぶし、脳みそを真っ白にしてしまう。一回、二回、三回。身体を電子妖精に蹂躙されるたび、私の身体はひくんひくんと震え、そのたびに「あっ」「あっ」という、喉を絞り出すかのような、か細い喘ぎ声が、まるで快楽の残滓のように吐き出さしてしまうのだ。


「ひどいよ藤原。ちゃんとしてって言ったのにさ。意地悪」
 ようやく身体が落ち着いてきたところで、半身を起こした私は、ふくれっ面で、恨めしげにそうこぼした。
「ごめん。なんか裕子さんがすごいキモチ良さそうだったから、調子に乗っちゃった」
 ペロリと舌を出し、いたずら小僧のように笑う藤原が「ようやく」私のぱんつに手をかける。でも、もう遅いのだ。私は藤原の手をぴしゃりと払った。もう、あんたのペースには乗らないよ。
 あてが外れて拍子抜けした感じの藤原を後目に、私はのそのそと這いずって藤原に向き合うように正座すると、藤原のあそこを握りにいった。そして、ちょっとしごいて藤原の感じる顔を楽しませいただく。そうして、藤原の息が少し荒くなってきたなってところで、わざとやめてやった。
「藤原クン、こんどは自分がきもちよくなる番だと思っていませんか?でも、藤原が意地悪をするなら、私にだって考えがあるんだからね」
 情けない顔で続きを懇願する藤原に向け、女王様もかくやとばかり冷たく言い放つ。そう、次は私が藤原に意地悪する番なんだからね。


 私は、きゅっと目をつむり、サポートコンピューターの設定画面を義眼に表示した。
 真っ黒な視界を背景に浮かび上がる、義体の様々な情報を表示したウインドウ。私は思念でカーソルをゆるゆる動かしつつ、その設定画面の奥深くの階層にある「手足の着脱」という項目たどり着く。
(えい!)
 かちり、と金属質の音がして、左腕のチタン製の人工関節のロックが外れる音がした。右腕で、左腕を引っ張ると、ちょうど肩に走る継ぎ目の部分から、きれいにすっぽりと左腕が抜けた。腕が抜けるのにあわせて、腕と義体をつなぐカラフルなコードの束がずるずる義体から引き出される。私は、デリケートな構造のコードを傷つけないように慎重に、残った右手だけを使い義体側に連結しているプラグを外していく。
「はい!あげる」
 全てのコードが引き抜かれ、意のままに動く私の左腕から、ただの機械の塊になり下がったそれを、私はにっこり笑って藤原に渡した。
「左腕一本でも、ネットオークションではすごい値段つくんだって。特に、若い女の子の脳が使ったもの、マニアに高く売れるみたいだから、大事に扱ってね」
 私の左腕を受け取った藤原、どうしていいんだか分からないって感じの微妙な顔つきになっちゃった。でも、そんな藤原には気付かないふりで、私は、さらに挑発的なコトバを投げつける。 
「さて、藤原クンに質問です。こんな私が相手でも、できますか?」
 私は実はちょっと疑ってるんだよね。何をって、藤原の覚悟をさ。口では私がどんな身体でもこだわらないって言ってくれたけど、実際のところ、どこまでホンキなのか分からないんだ。だったら、今のここで藤原のキモチを試しちゃおうなんて、ものすごーい意地悪なことを考えてしまった。
 幸か不幸か、さっきものすごく深くイかせてくれたおかげで、まだ興奮していることに変わりはないけど、多少なりとも欲求不満が収まったというか、どうしても入れてほしい!っていう切羽つまった気持ちはなくなった。それで変な余裕ができてしまったのかもしれない。
「何度も言わさないでよ。裕子さんは裕子さんだって言ってるじゃないか」
 あ、藤原少し怒ってる。ま、当たり前か。でも、右腕を、そうっと丁寧に枕もとに置いてくれたのは嬉しいかも。機械だけど、私の身体の一部でもあるんだから、そういう心遣いって大事だよね。
 さて、私はそんな少し怒った藤原には視線を合わせず、藤原のむすこ君を見てしまいます。むすこ君は、まだまだ上を向いて元気そうなので、残る右手で触ってみます。やっぱり、まだ硬いままでした。
「おおー、すごい!まだ興奮してくれてるんだね」
 私は、まるでテストのデキがよかった小学生を誉めるみたいに、大げさな調子でそう言ったあと、目をつむり、もう一度サポートコンピューターにアクセスして、さっきと同じ作業を繰り返す。
“かちり”
 藤原のあそこをつかんでいる右腕が、肩のジョイントから外れ、ぽとんと藤原の腰のところに落ちて、カラフルなコードの束だけで義体とつながっている状態になる。だけど、もちろん右手は藤原のあそこを握ったまんま。
「あーあー、右腕も外れちゃった。といっても、もう自分じゃコード抜けないから、藤原抜くの手伝ってよね」
 でも藤原は下を向いたっきり、顔をあげようとしないのだ。なにー?手伝うの嫌なの?嫌なの?
 私は催促とばかりに、ごつんと自分のひたいを藤原にぶつけた。
「・・・」
 無視かい・・・
「手伝わないと、こうだよ」
 右手で藤原のあそこをにぎにぎ。身体から外れてしまったとはいえ、まだ義体につながるコードを通じて電気が供給されているから、指を動かすことはできるのだ。
 にぎにぎにぎにぎにぎにぎ
「藤原が外してくれないと、このまま永遠に私の右腕は、藤原のちんちんにぎってぶらんぶらんぶらーん」
「わかった。わかりましたよ」
 とうとう根負けした藤原、ぶつぶつ言いながら、義体の左腕を接続するジョイント部分を覗きこみながら、複雑に絡み合うコードとの格闘を始めてくれた。義体側につけられたコネクタ—からコードが引き抜かれるたびに、私の右手が藤原のあそこを触っている感覚が薄らいでいく。それは実に残念なことではあるんだけど、それとは別に藤原に義体をいじられるという行為は、妙な気分になってくるというか、変なケに目覚めてしまいそうである。機械の身体をいじられて悦んでいるとか、昔だったらありえないんだろうけどさ、もうそれだけ藤原のことを信頼しているし、愛しているんだろうね。たぶん、藤原の前でだけ、ありのままの私でいられるんだ。こういう機械の身体であるということも含めてね。


「なんかこれ、ミロのビーナスっぽくない?」
 右腕も左腕もなくなった私。ちょっとモデルっぽい仕草で、身体を右に傾けたり、左に傾けたり。さらに調子に乗って、ベッドの上で立ち上がってみたものの、よろけて倒れそうになってしまった。あるハズのものがないというのは、とてもヘンな感覚なんだね。
「さて、藤原クンに質問です。こんな私でも、やれちゃいますかって、できそうだね」
 藤原を見下ろすカッコになった私は、まだ藤原の息子君が元気なのを確認した。
 それで、私は決めた。もうトコトンまでいってしまおうと。藤原に意地悪とかじゃなくて、さっき藤原に右腕を外してもらったときの感触が忘れられないのだ。
 ごろんと、仰向けに、大の字ならぬ人の字に寝転ぶ私。サポートコンピューターを操って、今度は両足を外してしまう。
「藤原、次は足をお願い」
 ヤバイ。頼み込む声が興奮して声が上ずった。
 藤原は相変わらず無言のまま、でも私の言いなりで、私の股間のあたりでごそごそ作業をしている。藤原が手を動かす気配を感じるたびに、両足の感覚が徐々に薄れ消えていく。藤原の手が、私の身体の中をいじりまわしている。直接見えるわけではないけど、そんな光景を想像するだけで、肝心なところを触られているわけじゃないのに、あやうくイキそうになった。本当に私は変態なのかもしれない。


 とうとう、両手も両足もなくなってしまいまった。外された私の手足は、藤原が、一本一本重そうに、よっこらしょと言わんばかりに持ち上げて、窓際のテーブルの上に置いてくれた。テーブルに置かれた花瓶のまわりを取り囲むように置かれた、もはやモノとなってしまった四本の手足。なんだかとってもシュールな光景である。
「さあ、お待たせしました。藤原くん。存分に犯してどうぞ!」
 手足を失い、ぽつんとベッドの真ん中に置かれるかっこになった私は、そう叫んだ。
 手足がなくなってしまうと、身体を起こすことができず、藤原がベッドから離れてしまうと、特に足元のほうに行ってしまうと(もう足はないんだけどね)、どこにいるのかまるで分からなくなる。それで、ちょっと不安になって、大きな声を出してしまいました。
 しかしながら、なんの反応もなし。藤原、ちゃんとこの部屋にいるんだろうね。両手両足のなくなったダルマさん状態の私に萎えて帰ってしまったとか、本当にやめてほしい。両手を使えない状態で、高ぶりきったこの身体のまま放置プレイされたら、気が狂ってしまう。
「ちょっと、藤原。この部屋にいるんでしょ。返事してよう」
 それでも続く沈黙。冗談でなく、本当に藤原が、この部屋から消えてしまったのかと不安になりはじめたころ
“ばふん”
 突然やつは、手足を失い小さく縮んでしまった私を抱え込むような感じで、上から覆いかぶさってきた。
 っていうか、あんた顔めっちゃ近くありませんか。
「裕子さん、あのさ。気を悪くしないでほしいんだけどさ」
「な、なにさ」
 なんか頭から湯気出てるんじゃないかって思うくらい上気して、鼻息も荒い藤原に、私は気おされうろたえる。なんだ、あんたさっきとゼンゼン様子が違うじゃないか。
 藤原は、興奮しつつも、コトバを選んでいるんだなって私にもわかるカンジで、一文一文ブツ切れな調子で話しはじめる。
「裕子さんが、機械の身体ってことは、自分ではよく理解しているつもり。で、それは今の日本じゃ、超特別ってわけじゃないことも、知っている。現に裕子さんが、そういう会社に勤めているくらいには、社会に普及してるってこともね」
「まあね」
「そうすると、気になるわけさ」
「気になるって何が」
「世の中には、俺たち以外にも、そういうカップルがいるわけじゃない。そういう人たちがさ、一体どういう悩みをかかえて、どうやってそれを乗り越えてきたとか、そういうこと。そういうのって、ネットとかで分かるでしょ」
「うん。ツーチャンネルとかに、専用の板はあるって聞いたことある」
 空とぼけた調子で相槌をうつ私。しかし、藤原にはゼッタイ内緒だけど、私は密かにそういう板に出入りしているのだ。つい先日「アンドロイドって家電の分際で人間そっくりの姿してるとか、おかしくね?」 っていうスレを立てたばかりである。
「それでさ、はじめは、おおーみんな同じような悩みを抱えているんだなーとか、ああそういう時はそんな風に慰めてあげればいいのか、とか、そういうのを真面目に読んでいるんだけど、そのうちエロ方面も読み始めるんだよね。そうすると、そこには、マンネリ打破のため手足を外してしてみました。とても新鮮でよかったです、とか書いてあったりするわけだ」
 あ。藤原の鼻息がさらに荒くなった。うーなんか、雲行きがあやしくなってきたぞ。


「でも、やっぱり俺から、次は手足を外してみようとは、とても言えないわけだよ」
 さらに顔が近づいた。それから、藤原の両手が、腕の抜けた私の両腕のジョイント部分を覆うようにつかんだ。っていうか、結構尖ってるっぽい金属部品もあるんだけど、そんなに手の平押し付けたら、あんた手痛くないか。
「だ、か、ら、裕子さんが、自分からこういうことをしてくれたってことは、もー俺的には願ったりかなったりだったってこと!」
 そう叫ぶと藤原は、私のぱんつに手をかける。スポンという音が出るくらいの勢いで、いとも簡単に私はぱんつをぬがされたのだ。そりゃそうだ。なんたって足っていう障害物がないんだからね。
 それで、そのあと無抵抗のダルマ状態の私は、手足がついていたらありえないような、あらゆる体位で、ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃに犯されたのでした。
 ひー! 


 翌日。朝起きた瞬間、カーテン越しに差し込む朝日が、なんかいつもより明るい気がしたんだよね。
 いやな予感がして、現在時刻を義眼ディスプレイに表示したら7時半。展示場の集合時間の8時まで、あと30分しかないじゃないかよう。昨日は夜中まで「主に藤原が」頑張りすぎたのだ。お蔭さまで、私は藤原が気を失うように寝たのと同時に、スイッチが落ちたみたいに眠りに入ったのだった。体内目覚ましをセットするのを忘れてね。生身ならまだしも、機械のサポートによって正確無比な行動が期待されているはずのサイボーグが遅刻とか、ホントシャレにならないんですけど。
 一瞬で目が覚めた私は、あわてて身体を起こ・・・せない。
 しまった。手足、外しっぱなし。
「ふじわらっ、ふじわらっ!起きて。起きてよう」
 私のただならぬ様子に、さすがの藤原も、あくびをしながら身体を起こした。
「ふじわら。ちっちっちっちこく・・・」
 藤原は、首をかしげながら、ベッドの横の小机に置いた腕時計を取る。その瞬間、さあっと藤原の顔色が変わったのがわかった。
「ゆうこさん、やばい、ちっちっちこく」
「ふじわら、どうしよう、ちっちっちこちこく」
 ハタから見れば、ただのコントかもしれないけど、本当にシャレにならないんだって。
 あわてて跳ね起きた藤原が、窓際のテーブルの上に置いてある私の両手足を抱え、どかどかとベッドの上に置いていく。
「とりあえず、まず右腕お願いします。右腕さえつけてくれれば、あとは自分でなんとかするから。コネクタ—についているマークの色と同じ色のコードをつなげばいいから。そんな難しくないよ」
 藤原は、私の説明どおりに腕からコードを引き出して、私の義体のコネクタ—に接続していく。よし。とりあえず、腕は動くようになった。あとは義体のジョイントとつなげるだけ。
 ところが
「あれ?あれ?」
 藤原は首をかしげるばかりで、腕がいっこうに義体につながってくれない。当然のことながら、義眼ディスプレイに「接続完了」の文字も浮かびあがらない。
「おおお落ち着いて。あんたなにやってんのさ」
 そういう私も全く落ち着いていないのである。そして、5分ほど藤原が悪戦苦闘したあげく、二人して同時にあることに気が付くんだ。
「「これ左腕だ!!」」
 ホント私たち、なんでこんなにバカなんだろうね。


「藤原、とりあえず服だけ着させてよ。もう手足はバラバラのままでいいから、とりあえず会場にだけは連れて行って」
 もう、余り時間がない。このまま二人して正気を失っていては、何かトンでもないことをしでかしてしまそうな気がする。だったら、とりあえず、もう恥をしのんで、手足はバラバラのままでも、展示会にたどつけさえすればいいと思ったんだ。
 そこで、藤原が手足のない私の身体を持ち上げてみようと、頑張ったんだけど
「ふん!」
 といううなり声が上がるばかりで、私の身体は一向に持ち上がらないんだ。
「一人じゃとても無理だ。運べない」
 がっくりとうなだれる藤原。そうだよね。普通の女の子ならまだしも、義体全体では120kgの重さがあるんだ。いくら男手でも、一度に運ぶのは、到底ムリだよね。あ・・・一度にって・・・あ、そうか。私は、手をポンと叩いたつもり。手はないけどね。
「そういえば、ここのボーイさん、この部屋に入るとき『何か、ご用件がありましたら、なんなりとお申し付けください』って言ってたね。ボーイさんたち何人かにも手伝ってもらって、手とか足とか、バラバラに運べばいいんだよ。っていうか、そうするしかない」
 私のコトバに藤原は大きくうなずくと、すぐさまフロントに電話をかけはじめたのでした。


<展示会会場にて>

「あーもー、忙しい。忙しい。忙しい。忙しい。猫の手も借りたいくらい忙しいのに、なんで、八木橋さんはなんで来ないんでしょうね」
「松原さーん、八木橋さんがーーーー!」
「みわちゃーん!やった。猫の手が、やっとご到着ね」
「それが、八木橋さんの、手が届きました」
「・・・・・」

「松原さん松原さん松原さん!!ヤギーの義手投げたら困ります!!あー っ!!!松原さん!!困ります!!あーっ!!!困ります!!あーっ!!!!松原さん!!松原さん!!困ります!!あーっ!!!あーっまま松原さん!」




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