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図2
<電子配置>
有機化学は電子の化学であるから、まず
原子
の
電子配置
について復習しておこう。
原子は、
原子核
と電子から構成されている。原子核中の
陽子
数を
原子番号
といい、中性原子では陽子数と等しい個数の電子をもつ。原子核の周りを回る電子の道筋(正確には電子の存在確率の分布)を
電子軌道
とよぶ。これはちょうど惑星が太陽の周りをある一定の軌道に従って運行しているのと似ている。ただし、電子の場合は軌道が平面ではなく球状に立体的であるため、その意味で
殻
ともよばれる。
電子の軌道(殻)は大きい区分として内側から順に、
K殻
、
L殻
、
M殻
...と層状になっており(
主殻
という)、K殻はさらに1s軌道、L殻は2s軌道と2p軌道、M殻は3s、3p、3d軌道に細分される(
副殻
)。この、s、p、dの分類は軌道の形態によっており、たとえば
s軌道
は対称な球形(1種類)、
p軌道
はxyzの各軸方向へ伸びた形(px、py、pzの3種類)をしている。1s、2sなどの数字は内側からの順番、すなわち1がK殻、2がL殻にあることを表す。これらの細分された軌道にはそれぞれ2個の電子を収容でき、つまりs軌道は2個、p軌道は3x2=6個の電子がはいることができる。電子軌道にはエネルギーの低い方から順に電子が充填されてゆく。エネルギーは内側の方が低いので、主殻はK→L→Mの順であり、副殻は、sの方が球形で中心に近いので、s→pの順となる。すなわち電子の充填順位は、1s→2s→2p→3s→3pの順となる。炭素の電子配置は、右肩に電子の個数で表して、1s22s22p2となる。ここで、電子の存在する最も外側の殻の電子を
原子価電子
という。原子価電子は、原子の最も外側、いいかえれば表面部分に相当するので、原子の性質や反応性に大きく影響する。
周期表
で縦に並んだ各族の元素が類似した性質を示すのは、最外殻の電子構造が等しいためである。
<
電気陰性度
>
さて、原子は主殻がちょうど電子で満たされた状態(
閉殻構造
という)で安定化する。K殻は1s軌道のみからなり、2個の電子で満たされるため、原子番号2番のヘリウムは安定な殻構造をもつ。次のL殻は2s+2px,2py,2pzの4個の軌道があるので、計8個の電子を収容でき、K殻の2個とあわせて10個の電子をもつ10番元素ネオンが安定な閉殻構造となる。このように、周期表の最右列に位置する
希ガス元素
が非常に安定で反応性に乏しいのは、これらの元素がすべて電子で満たされた閉殻構造をもつためである。
それ以外の原子はすべて、閉殻構造になるには電子が足りないか、あるいは余分な状態にある。電子を失うことによって閉殻構造になりうる元素は
陽イオン
になって安定化しやすく、逆に電子を受け取ると閉殻構造になりうる元素は
陰イオン
になって安定化する傾向をもつ。たとえば、安定なネオンより1個電子の多いナトリウムは1個の電子を放出してNa+イオン、1個少ないフッ素は1個電子を受け取ってF-イオンになり、安定化しやすい。Na+とF-の電子配置はネオン原子のそれとまったく同じとなり、安定である。
フッ素の隣の酸素はさらに1個電子が少なく、安定化には2個の電子を受け取る必要があり、同じくナトリウムの隣のマグネシウムは2個電子を放出する必要がある。電子の授受にはエネルギーが必要であるから、酸素やマグネシウムが安定な2価のイオンとなるのは、フッ素やナトリウムよりもエネルギー的に不利である。周期表を横に読むと、右端の希ガスは別にして、右側の原子ほど電子を受け取って陰イオンになりやすい、すなわち電気的に陰性であり、逆に左側の原子ほど電子を放出して陽イオンになりやすい、すなわち電気的に陽性なのは、この理由による。
話を炭素にもどすと、炭素はK殻に2個、L殻に4個の電子をもち、閉殻構造をとるためには4個受け取ってL殻を満たすか、4個放出してK殻を閉殻にするしかない。これはどちらも非常に困難である。したがって炭素は陰陽どちらのイオンにもなりにくく、電気的に中性である。ここに炭素化合物がきわめて多種多様に存在し、有機化学という大きな化学の分野を形成しうる鍵があるのである。
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