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反応6-2
基礎有機化学25

図25

<求核付加反応(続き)>
  ケト-エノール互変異性 :カルボニルに隣接する炭素に結合している水素を α水素 とよぶ(カルボニルから炭素鎖が伸びているときに順にα、β、γと記号をつける)。α水素をもつカルボニル化合物( ケト形 )は、この水素が酸素上に移動した形の エノール 形異性体との平衡状態にある。この両者の関係は水素とπ電子の移動による異性関係であり、簡単に相互変換可能であるため、 互変異性 体とよぶ。通常はケト形の方が熱力学的に安定であるため、平衡は大きくケト形に傾いている。ただし、特殊なカルボニル化合物ではエノール形が優勢になる場合があり、たとえば2,4-ペンタンジオンのような β-ジケトン (ケトンカルボニルが互いにβ位にならんでいる)では、平衡はケト:エノール=24:76とエノール形へ傾いている。これは、エノール形が六員環構造の分子内水素結合により安定化されているからである。α水素をもたないカルボニル化合物ではこのような互変異性は起こらない。

 エノラートアニオン:カルボニル化合物のα水素は、エノール水酸基の水素と等価であるため、塩基によってこの水素をH+として容易に引き抜くことができる。その結果生成するアニオンを エノラートアニオン という。エノラートアニオンはα炭素上に負電荷があるケト形と酸素上に負電荷があるエノール形の間の共鳴構造で表すことができ、安定なアニオンである(もちろん実際は電荷は共鳴により非局在化している)。エノラートアニオンのケト形とエノール形の2種の 極限構造 は共鳴関係(原子配置は変化なく、電子配置だけが異なる)であり、前述のケト-エノール互変異性は異性体関係(水素の位置が異なる)であることに注意しよう。このエノラートアニオンは、部分的には炭素上のアニオンであるため、 有機金属試薬 同様に求核試剤として炭素−炭素結合形成に有用である。

 アルドール反応:ケトンあるいはアルデヒドから生成したエノラートアニオンが他のケトンやアルデヒド分子に求核付加する反応が アルドール反応 である。たとえば、アセトアルデヒドをメトキシドアニオン(ナトリウムとメタノールの反応で調製できる)のような強塩基で処理するとα水素が引き抜かれてエノラートアニオンが生成する。このアニオンが別のアセトアルデヒド分子のカルボニル炭素を求核攻撃し、生じた酸素上のアニオンにH+が付加すると、2分子のアセトアルデヒドが結合した形のβ-ヒドロキシアルデヒド(アルドール)が生成する。これがアルドール反応である。ケトンでも同様の反応が起きる。エステルの場合は、 クライゼン縮合反応 とよばれ、反応の中間で脱離しやすい アルコキシ基 の脱離が起きて、 β-ケトエステル を与える。
 異種のカルボニル化合物間でアルドール反応を行うことも可能であるが、その際には、複数のエノラートアニオンが生成したり、また攻撃相手のカルボニルが複数存在したりするので、生成物が複雑な混合物になりがちである。このため、このような反応には、片方のカルボニル化合物にα水素をもたない(つまりエノラートアニオン化できない)ものを選ぶなどの工夫が必要となる。


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