このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



おもしろ化合物 第2話:「分子の歯車が回る」



NIFTY SERVE 旧 FCHEM 10番【有機】会議室 #1265(94/2/10)より

 好評につき(^^;、おもしろ化合物ゼミから第2話です。

 トリプチセン(triptycene)という化合物がありまして、その構造はちょっとわかりづらいのですが、次のようです(^^;。

 つまり、[2,3],[5,6],[7,8]-tribenzobicyclo[2.2.2]octane ですね(命名法については突っ込まないように(^^;)。平面に描くと面妖ですが、立体的には三個の ベンゼン 環が三枚羽根の歯車のように配置した分子をイメージしてください。上の図を上からみると、ベンゼン環がちょうど120°の角度で三個配置しているわけです。これが理解できないと先へすすめませんから、精一杯想像をたくましくしてくださいね(^^;。
 で、このトリプチセンが二個、それぞれの 橋頭位 (三個のベンゼン環をつなぎあわせている位置)で エーテル 結合した分子があります。図を描くと次のようになります。

 つまり、三枚歯の歯車が二個酸素でつながっていて、ちょうど傘歯車のように噛み合っている状態になります。室温では、この分子歯車は高速でぐるぐる回転(もちろん二個のトリプチセンが連動して)しています。
 これだけでも十分面白いのですが、さらに面白いことを考えた人がいて、この三枚歯のベンゼン環のひとつに 置換基 (Clとか)をつけて目印とします。両方のトリプチセンに一個ずつ目印をつけた歯車ができますね。
 さてこの歯車が噛み合った状態を考えると、一方のトリプチセン単位の印をつけたベンゼン環に対して、他方の印つきベンゼン環が噛み合う位置は三通り考えられます。つまり、右ねじれ(右60°)、左ねじれ(左60°)、正反対(180°)です。この三通りの状態がいりまじってくるくる回転しているのです。「右ねじれ」と「左ねじれ」は互いに 鏡像体 の関係にあり、それに対して、「正反対」はねじれをもたない メソ体 ということがいえます。
 この分子歯車の歯の噛み合いはしっかりしているので、これらの三種の「 異性体 」はいくらぐるぐる回ろうとも相互に変換することはできません(相互変換するには歯を乗り越えなければならない)。「右ねじれ」と「左ねじれ」は鏡像異性体ですから分離不可能ですが、「正反対」とは分離することができます。実際に HPLC で、「左」+「右」と「正反対」の二種の異性体を分離することができました。
 こういう異性関係を、歯車の噛み合い方、すなわち位相の違いに起因するので、 位相異性体 (phase isomer)と名付けられています。

 おもしろいですねぇ.....って、わかります?

junk (JAH00636) 川端 潤     

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