このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

人生に本、3冊

以前、神保町で少々古本屋巡りをした時のことである。 こういう「本の海」みたいな街を漂うと、とたんに影響を受けて自分にとっての本との出会い、 などと他の人にはどうでもいいような話をはじめてみたくなるもんである。 という訳で、書いてはみたものの、ハードディスクの隅でホコリをかぶっていたファイルを見つけてしまった ので、他の更新のついでということであっぷしてみた。以下、本文

「運命的な出会い」なんて数多くあるはずもなく、実際のところ、数多く起きたりしたら たまったもんではないのだが、こと本に関して言えば、 これは明らかに影響が大きかったなぁ、と思える本が3冊ある。

1冊目。「北の海」 井上 靖
「しろばんば」「夏草冬波」に続く井上 靖の自伝的小説3部作のトリをつとめる 浪人小説。(旧制)高校受験に失敗して送る浪人の日々が、この上なく魅力的である。 学校卒業後の一種の解放感、立場が変わって別の一面を見せる人々との交流、 1年という浪人期間の長さに思う安心感、それでいてそこはかとなく忍び寄る受験勉強の圧力、 風来坊でありながらもどこかで仲間を求める孤独な心理、そんでもって淡い恋。
なんか青春だなぁ、とか思って作中に登場する四高、現在の金沢大学の願書を取り寄せてみたり したのも、今となっては、ほろ苦い昔話である。

2冊目。「古代道路」 木下 良 編著
古代律令国家が建設した道路は、山陽道をはじめ、いずれも幅数〜十数m、直線的な 堂々たる高規格道路だった。
この本は今は失われてしまった古代の街道が、現在のどの地域を通っていたのかを 検証する考古学の論文集である。たまたま親の本棚で見つけた。
神社や国分寺、駅の遺跡の位置関係、はたまた道路や町村境を手がかりに古代の道路跡を 比定していく内容もそれなりに興味深かったが、圧巻だったのは、かつての道路がそのまま、 田畑の境界をたどって一直線に見てとれる佐賀平野の様子を紹介した口絵写真である。 (現在は区画整理が進んでその風景は無くなってしまったのだそうだ) この写真を見たとき、「これだ!」と思い、大学の進路を決めた。歴史地理学との出会いである。

ところで数年前、古代の道路は高規格だったことを褒め称えるような内容?の本を道路公団のOBの人が出したらしいのだが、高規格の是非はともかくとして、 律令時代の街道(駅路という)は集落と無関係に一直線に建設されたために利便性が悪く、 利用者が増えずに、律令制の衰退も影響して廃道に追い込まれてしまったそうだ。 だとすれば、今の高速道路だって・・・という思いが一瞬、心をよぎったのは別の話。

3冊目。「海上護衛戦」 大井 篤 (学研文庫)
先の大戦中、海軍の海上護衛総司令部で作戦参謀を務めた著者による、 海上補給線の攻防を描いた本。
最初は、戦記ものかと思って手に取ったのだが、実は立派な戦略解説書であった。

この本を読んでから太平洋戦争を見る目が大きく変わったように思う。 今では、たとえ、

真珠湾で米空母を沈めようが、ポートモレスビーを占領しようが、利根の水偵が30分早く射出されて 赤城から5分早く攻撃隊が発艦しようが、米・豪の巡洋艦を夜戦で沈めた後に泊地で上陸輸送船団を タコ殴りに撃滅しようが、零戦に次ぐ高性能な戦闘機が早い時期に登場しようが、 アウトレンジ戦法が大成功を収めようが、台湾沖で空母を2ダース沈めようが、 反転せずに突入しようが、無事に沖縄に着いて主砲を撃ちまくろうが、

そんなことはもう、どうでも良くなってしまった。
今後、こういった総力戦が起きる可能性は限りなく小さいだろうが、 何時の世でも理知的な思考をしていたいものである。


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