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日本の蒸気機関車データ集
2. 本線試験成績
1916年に米国のイリノイ工科大学より購入した動力測定車(ダイナモメーター・カー)オケン5020とその後身を使用した本線試験の成績その他をベースに、日本国鉄蒸機各形式のエネルギー変換システムとしての性能を見てみましょう。データは「業務研究資料」各巻その他の公式文書によっています。
2-1. 6760形/8620形
Class | Train No. | Load | Tmean | Tmax | Cc | Cw | Eb | Ecm | Et |
6760 | 751(Down) | 9 / 281.5 | 271.9 | 313.9 | 2.39 | 13.71 | 58 | 6.7 | 3.9 |
8620 | 270.4 | 307.1 | 2.20 | 11.97 | 55 | 7.6 | 4.2 | ||
6760 | 750(Up) | 272.5 | 316.5 | 2.43 | 14.25 | 59 | 6.4 | 3.8 | |
8620 | 271.7 | 307.5 | 2.13 | 11.97 | 57 | 7.7 | 4.4 |
典拠: 業務研究資料 第5巻第7号
試験時期: 1916年10月
試験区間: 東京〜国府津
被験機: 6765, 8667
Load: 牽引重量 [両数/t]、測定車を含む
Tmean: 気室蒸気温度、平均 [℃]
Tmax: 気室蒸気温度、最大 [℃]
Cc: 引張棒出力当り石炭消費量 [kg/PSe-h]
Cw: 引張棒出力当り水消費量 [kg/PSe-h]
Eb: 缶効率 [%]
Ecm: シリンダ効率×機械効率 [%]
Et: 全効率 [%]
<解説>
6760形と8620形は、同一基本仕様(同一物ではなく互換性は無い)のボイラとシリンダを備えた2Bと1Cの姉妹形式ですが、本線試験では缶効率で前者が、シリンダ効率×機械効率で後者が優るという結果でした。
使用炭はいずれも夕張切込炭で、給気時間・給気距離・内部摩擦損失(機械効率に関係)・ピストン弁漏洩などは両形式とも大差無しと査定されていましたので、残るシリンダ効率で差が有ったことになります。
シリンダ部の主な差異は、次表に示すとおりです。
Class | PV | d | PO | PC |
6760 | 単式、 シュミット式広幅リング付 | 254 | 4.8 | 11.9 / 13.5 |
8620 | 複給気孔式、 細幅リング付 | 190 | 9.5 | 9.5 / 11.1 |
PV: ピストン弁形式
d: ピストン弁直径 [mm]
PO: 蒸気孔開口長、ポート・オープニング [mm]、カットオフ20%にて
PC: ピストン・クリアランス、最小/最大 [mm]
つまり、6760形は8620形に比べてポート・オープニングが小さいため、イニシャル・エクスパンション(カットオフ前の圧力降下)が大きく、同一負荷に対してはカットオフを延ばす必要があり、またピストン・クリアランスも大きいため、蒸気をやや多く消費する傾向にありました。このためシリンダ効率、さらに全効率で8620形に劣ったものと考えられます。
ちなみに、当試験を通じての最大出力は次表のとおりでした。いずれも短時間における数値です。
Class | Date | Grade | Cutoff | V | N | Pi | Pe | Pi - Pe | Em |
6760 | 1916.10.10 | Level | 30 | 55.2 | 207 | 827 | 561 | 266 | 67.8 |
8620 | 1916.10.14 | Level | 25 | 59.4 | 223 | 857 | 612 | 245 | 71.4 |
Date: 日付 [年月日]
Grade: 勾配
Cutoff: カットオフ [%]
V: 速度 [km/h]
N: 動輪回転数 [rpm]
Pi: 指示出力 [PS]
Pe: 引張棒出力 [PS]
Pi - Pe: 指示出力と引張棒出力との差、内部摩擦損失 [PS]
Em: 機械効率 [%]、Pe/Pi
計画時点では6760形のほうが内部損失が小さいと推定され、軽量の旅客列車には最適と見込まれましたが、実際はむしろ逆の傾向が判明したため、6760形は1918年度をもって増備中止となり、その埋め合わせとして1920年度からは川崎造船所にも8620形が発注されたようです。
2-2.9600形/9900形
Class | Load | Cc1 | Cc2 | Cw1 | Cw2 |
9600 | 31 / 759.2 | 1.69 | 1.70 | 11.32 | 11.24 |
9900 | 31 / 759.2 | 1.57 | 1.46 | 11.46 | 11.06 |
35 / 851.3 | 1.54 | 1.50 | 10.70 | 11.28 | |
40 / 967.4 | 1.51 | 1.50 | 10.70 | 11.33 |
典拠: 業務研究資料 第14巻第2号
試験時期: 1924年3〜4月
試験区間: 水戸〜平
被験機: 29620, 9901
Load: 牽引重量 [両数/t]、測定車を含む
Cc1: 引張棒出力当り石炭消費量 [kg/PSe-h]、水戸〜高萩
Cc2: 引張棒出力当り石炭消費量 [kg/PSe-h]、高萩〜平
Cw1: 引張棒出力当り水消費量 [kg/PSe-h]、水戸〜高萩
Cw2: 引張棒出力当り水消費量 [kg/PSe-h]、高萩〜平
<解説>
9900(→D50)形は、それまで一般貨物用に広く使われていた1Dの9600形から根本的にコンセプトを改め、広火室を従輪で受けた1D1とし、動輪径も1245mm (4ft1in) から1400mm (4ft7in) に増大して動輪回転数300rpmにおける運転速度を70km/hから79km/hに向上させたもので、当初は急行貨物用および勾配線旅客用とされていました。いきなり箱根越えに投入されてCC複式マレーを駆逐したように一部で言われていますが、これは丹那トンネル工事遅れに伴って同区間の軌道強化が完成した昭和5年頃のことで、それまでは特急など一部列車の補機に限られ、初期製造分はむしろ東海道線山北〜高島間、常磐線平以南、北陸線米原〜今庄間、函館線函館〜小樽間に投入されました。
9600形との比較試験は常磐線水戸〜平間で実施され、使用炭はいずれも入山塊炭で、発熱量6,011kcal/kgの並級炭でした。試験の結果は、上表に見るように9600形より9900形のほうが石炭消費量が小さいことが判明しています。
つまり、小型機関車を全負荷で使用するスモール・エンジン・ポリシーより、大型機関車を部分負荷で使用するラージ・エンジン・ポリシーのほうが、燃焼率が小さいため缶効率が向上するので、かえって経済的であることを示しています。
ちなみに、当試験を通じての最大出力は次表のとおりでした。いずれも短時間における数値です。
Class | Date | Grade | Cutoff | V | N | Pi | Pe | Pi - Pe | Em |
9600 | 1924.4.1 | Level | 38 | 38.8 | 166 | 1,035 | 830 | 205 | 80.2 |
9900 | 1924.3.28 | Level | 32 | 52.0 | 197 | 1,659 | 1,376 | 283 | 82.9 |
1924.3.29 | Level | 32 | 45.1 | 171 | 1,532 | 1,272 | 260 | 83.0 | |
1924.3.30 | 1/330 | 38 | 42.3 | 161 | 1,550 | 1,275 | 275 | 82.3 |
Date: 日付 [年月日]
Grade: 勾配
Cutoff: カットオフ [%]
V: 速度 [km/h]
N: 動輪回転数 [rpm]
Pi: 指示出力 [PS]
Pe: 引張棒出力 [PS]
Pi - Pe: 指示出力と引張棒出力との差、内部摩擦損失 [PS]
Em: 機械効率 [%]、Pe/Pi
2-3.C57形/C61形
Class | Load | Tsc | Rc | Cc | Cw |
C57 | 500 | - | 875 | 3.139 | 12.32 |
C61 | 325〜330 | 641 | 2.846 | 11.25 | |
587 | 2.840 | 12.86 | |||
C57 | 600 | - | 932 | 3.335 | 12.79 |
C61 | 325〜330 | 726 | 2.909 | 11.04 | |
624 | 2.784 | 11.43 |
典拠: 東京鉄道局運転部技術研究所 「新製C61型機関車性能試験成績 本線路上試験」
試験時期: 1948年2〜3月
試験区間: 宇都宮〜白河
被験機: C571, C611
Load: 牽引重量 [t]、測定車無し
Tsc: 汽室蒸気温度 [℃]
Rc: 燃焼率 [kg/m2/h]
Cc: 引張棒出力当り石炭消費量 [kg/PSe-h]
Cw: 引張棒出力当り水消費量 [kg/PSe-h]
<解説>
C61形は、予算難のため1947年度で増備中止となったC57形の未成分18両(C57202〜219)の足回り残材とD51形の遊休ボイラとを組み合わせ、動軸重を14t台に抑えるため従輪を2軸とした、改造名義の新製機です。
C57形との比較試験は東北線宇都宮〜白河間で実施されました。使用炭は発熱量5,100kcal/kgの低質炭で、焚火は両機とも手焚きでした。
試験の結果、上表に見るようにC61形の石炭消費量はC57形に比べて500t牽引時で9.4%減、600t牽引時で14.6%減と、明らかに小さくなっています。両形式とも足回りはほぼ同一ですから、これはC61形のほうが火床面積が約29%大きいため、燃焼率が小さくて済むことによるものと判ります。
2-4.C59形/C62形
Class | Load | Tsb | Tsc | Thw | Tfw | Rc | Cc | Cw | Eb | Ecm | Et |
C59 | 550 | 285.8 | 311.8 | 73.1 | 14.6 | 561 | 3.005 | 13.22 | 60.0 | 7.02 | 4.21 |
293.8 | 325.9 | 74.9 | 15.7 | 656 | 3.524 | 12.64 | 50.9 | 7.05 | 3.59 | ||
C62 | 296.8 | 325.6 | 76.4 | 15.9 | 411 | 2.638 | 13.09 | 68.6 | 7.00 | 4.80 | |
298.5 | 320.1 | 78.8 | 18.7 | 379 | 2.360 | 12.12 | 70.5 | 7.60 | 5.36 | ||
C59 | 600 | 297.9 | 335.7 | 78.3 | 15.1 | 703 | 3.523 | 12.29 | 49.2 | 7.30 | 3.59 |
298.4 | 338.1 | 76.6 | 15.3 | 656 | 3.124 | 12.02 | 53.7 | 7.54 | 4.05 | ||
C62 | 304.6 | 327.7 | 70.5 | 15.7 | 439 | 2.477 | 11.87 | 66.7 | 7.66 | 5.11 | |
295.2 | 328.5 | 75.0 | 17.0 | 450 | 2.577 | 11.73 | 63.5 | 7.73 | 4.91 | ||
C62 | 650 | 309.4 | 326.3 | 77.1 | 17.8 | 497 | 2.773 | 12.10 | 61.3 | 7.44 | 4.56 |
302.5 | 324.7 | 76.3 | 17.2 | 461 | 2.607 | 11.74 | 62.6 | 7.76 | 4.86 |
典拠: 鉄道業務研究資料 第6巻第3号
試験時期: 1948年4〜5月
試験区間: 糸崎〜八本松
被験機: C5955, C621
Load: 牽引重量 [t]、測定車無し
Tsb: 煙室温度 [℃]
Tsc: 汽室蒸気温度 [℃]
Thw: 給水温度 [℃]
Tfw: 予熱前の水温 [℃]
Rc: 燃焼率 [kg/m2/h]
Cc: 引張棒出力当り石炭消費量 [kg/PSe-h]
Cw: 引張棒出力当り水消費量 [kg/PSe-h]
Eb: 缶効率 [%]
Ecm: シリンダ効率×機械効率 [%]
Et: 全効率 [%]
<解説>
C62形は、やはり予算難のため1947年度で増備中止となったC59形の未成分47両(C59133〜155, 197〜220)の足回り残材とD52形の遊休ボイラとを組み合わせ、動軸重を16t台に抑えるため従輪を2軸とした、改造名義の新製機です。
C59形との比較試験は山陽線糸崎〜八本松間のものが有名で、一躍C62形の名を高めました。使用炭はいずれも新入切炭と猪花粉炭の60 : 40の混合で、発熱量5,000kcal/kgの低質炭相当とされました。焚火は両機とも甲種(両手)シャベルによる手焚きで、平均すくい量3.1〜4.6kg、力行時の平均投炭間隔7.2〜11.3secでした。
試験の結果、上表に見るようにC62形の石炭消費量はC59形に比べて550t牽引時は23.4%減、600t牽引時は24.0%減と、大幅に小さくなっています。これも、(C5955のブラストノズル口径が132mm相当と絞り気味で、通風力強大のため燃え過ぎ傾向であったことを勘案しても)C62形のほうが約18%火床面積が大きいため、燃焼率が小さくて済むことによるものです。
第3章1-2項のC59形とD52形の定置試験結果の示唆するところとも符合しており、換言すればC62形の良さはC59形ではなく、D52形の良さに負うところが大であったと言えるでしょう。
一部で言われている、C59形への過度とも思える賛辞は、そもそもどこが発信源か、知りたいものです。
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