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明治・大正期
日本軍艦 機関部データ集

第2章 主缶



戦艦 薩摩。戦艦で初めて宮原式水管缶を搭載。


2-1.基本仕様


2-1-1. 戦艦

NameQdBFNPbGHeHsHH/GCfRcQd/H
Royal Sovereign11,000810.965.01,817-1,81727.96.1
富士・八島13,5001010.976.82,177-2,17728.36.2
Majestic12,000810.976.22,267-2,26729.75.3
Canopus13,5002021.198.03,138-3,13832.04.3
敷島14,5002519.0106.03,514-3,51433.14.1
初瀬106.03,524-3,52433.24.1
Formidable15,0002021.1108.73,448-3,44831.74.4
朝日15,0002521.1107.63,695-3,69534.34.1
三笠15,0002521.1118.63,478-3,47829.34.3
Duncan18,0002421.1127.74,065-4,06531.84.4
King Edward VII18,0001014.875.72,565-2,56533.84.4
614.845.61,516-1,51633.2
Africa1814.8126.03,720-3,72029.54.0
314.821.9775-77535.5
香取16,3202016.2123.94,087-4,08732.94.0
鹿島15,6002016.2120.73,994-3,99433.03.9
Lord Nelson16,7501519.378.84,670-4,67059.33.6
薩摩17,0002016.5114.84,508-4,50839.13.8
Dreadnought23,0001817.6148.55,147-5,14734.64.5
安芸21,6001518.3157.84,8955855,48034.73.9
河内・攝津25,0001619.3140.44,8051744,97935.55.0
Orion27,0001816.5-
扶桑・山城48,0002419.3198.86,1608076,96735.16.9
伊勢・日向56,0002419.3159.09,554-9,55460.145.42855.9
Queen Elizabeth,
Valiant,
Malaya
56,0002416.59,120-9,1206.1
Warspite,
Barham
56,0009,917-9,9175.6
長門・陸奥66,7501519.38,3412,08710,42847.66.4
13,200640.71,8923872,73567.313.73354.8
加賀・土佐79,560819.38,023-8,02347.99.8
11,440427.51,789-1,78965.010.83906.7

Name: 艦名
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、円は円缶、べはベルヴィール式、ニはニクローズ式、バはバブコック・アンド・ウィルコックス式、宮は宮原式、ロはロ号艦本式を示す
F: 使用燃料、炭は石炭専焼、混は炭油混焼、油は重油専焼を示す
N: 主缶数
Pb: 主缶使用圧力 [kg/cm2]、太字は過熱式
G: 主缶総火床面積 [m2]
He: 主缶総蒸発伝熱(受熱)面積 [m2]
Hs: 主缶総過熱面積 [m2]
H: 主缶総伝熱(受熱)面積 [m2]、 He +Hs
H/G: 主缶伝熱(受熱)面積/火床面積比
Cf: 主缶毎時燃料消費量 [t/hr]
Rc: 主缶燃焼率 [kg/m2-hr]、混焼は石炭換算
Qd/H: 計画出力/主缶伝熱(受熱)面積比 [hp/m2]

<解説>
表中に見るように、主缶の伝熱面積/火床面積比は缶の形式によって一定範囲内に在り、円缶では28〜30、べルヴィール式では19〜23(節炭器を含まず)または29〜35(節炭器を含む)、ニクローズ式では33前後、宮原式では34〜39、ロ号艦本式では60〜68となっています。円缶は煙管式で、炉筒と煙道の周囲が缶水で満たされているため、水管式よりも無駄な放熱が少なく、缶効率の面では有利ですが、反面保有水量が多いことは急速汽醸に不利であり、万一破裂したときの被害も大きいなどの欠点が有るので、艦艇用としては水管式に取って代わられました。水管式同士の比較では、伝熱面積/火床面積比が大きいほど理論上の缶効率は高くなり、べルヴィール式<ニクローズ式<宮原式<艦本式(ヤーロー式)の順となります。

なお、安芸以降は過熱式を採用しているものがありますが、全伝熱面積に占める過熱面積の比率が10%前後では蒸気の過熱度は20〜30℃程度で、凝結防止以上の効果は期待できないものと考えられます。長門級の重油専焼缶では全伝熱面積に占める過熱面積の比率が20%となり、過熱度は55℃(華氏100度)に上昇しました。

燃焼率は、舶用缶(自然通風または押込通風)は機関車用缶(誘引通風)に比べて通風力が弱いため、機関車(石炭専焼)の400〜600kg/m2/hrの1/2前後でしたが、伊勢級・長門級・加賀級と進むに従って前級より50〜55kg/m2/hrずつ段階的に高めていることが判ります。缶にとっては単位伝熱面積当りの蒸発力が増大し、熱的負荷が増えるため信頼性の面で不利となりますが、力量増大の要求に応えるにはやむを得ないとされていました。

伝熱面積1m2当りの出力は、おおむね円缶(石炭専焼)では5〜6hp、べルヴィール式(同)では4〜4.5hp、ニクローズ式(同)では4hp前後、宮原式(炭油混焼)では4〜7hp、ロ号艦本式(同)では5〜7hp、ロ号艦本式(重油専焼)では6〜10hpとなっています。


2-1-2. 装甲巡洋艦/巡洋戦艦

NameQdBFNPbGHeHsHH/GCfRcQd/H
O'Higgins16,25030-
浅間・常磐18,0001210.9106.62,920-2,92027.46.2
出雲・磐手14,5002419.0106.53,552-3,55233.44.1
Drake30,0004321.1214.66,706-6,70631.26.3
Monmouth22,0003121.1149.04,675-4,67531.34.7
八雲15,5002419.0115.93,599-3,59931.04.3
吾妻16,7652419.0112.33,441-3,44130.64.9
Giuseppe Garibaldi14,0002415.0102.03,271-3,27132.14.3
春日・日進13,500811.682.62,252-2,25227.36.0
Argyll21,0001615.5107.94,259-4,25939.44.1
615.531.7878-87827.6
Duke of Edinburgh23,0002014.1133.74,742-4,74235.54.0
614.129.41,076-1,07636.5
Minotaur27,0002414.8-
筑波19,5002016.5120.24,238-4,23835.24.6
生駒20,5004.8
Invincible41,0003117.6162.69,650-9,65059.34.2
鞍馬22,5002816.5138.04,972-4,97236.24.5
伊吹21,6001818.3154.04,8325605,39235.04.0
Lion70,0004216.5-
金剛・榛名・霧島75,0003619.3240.014,401-14,40160.075.093135.2
比叡240.014,472-14,47260.35.2
Tiger85,0003916.5418.115,794-15,79437.85.4
Renown112,0004219.3-14,604-14,604-7.7
Hood144,0002416.5---
天城・赤城107,1951119.3----
24,0008-

Name: 艦名
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、円は円缶、べはベルヴィール式、宮は宮原式、ヤはヤーロー式、バはバブコック・アンド・ウィルコックス式、イはイ号艦本式、ロはロ号艦本式を示す
F: 使用燃料、炭は石炭専焼、混は炭油混焼、油は重油専焼を示す
N: 主缶数
Pb: 主缶使用圧力 [kg/cm2]、太字は過熱式
G: 主缶総火床面積 [m2]
He: 主缶総蒸発伝熱面積 [m2]
Hs: 主缶総過熱面積 [m2]
H: 主缶総伝熱面積 [m2]
H/G: 主缶伝熱面積/火床面積比
Cf: 主缶毎時燃料消費量 [t/hr]
Rc: 主缶燃焼率 [kg/m2-hr]、混焼は石炭換算
Qd/H: 計画出力/主缶伝熱面積比 [hp/m2]

<解説>
こちらも表中に見るように、主缶の伝熱面積/火床面積比は、円缶では27前後、べルヴィール式では30〜34(節炭器を含む)、宮原式では35〜36、ヤーロー式では60前後となっています。

アーギル(デヴォンシャー級)とデューク・オブ・エディンバラ(同級)は、戦艦キング・エドワード7世級と同様、当時の英海軍で仏起源のべルヴィール式に否定的な意見が沸き起こったため、バブコック・アンド・ウィルコックス式など他方式の水管缶と円缶との混載となったものです。

伊吹は過熱式を採用しており、過熱度は計画では47℃(華氏85度)でしたが、全伝熱面積に占める過熱面積の比率は10.4%しか無いため、実際は25℃程度と考えられます。タービン入口ではさらに低下し、実測値は僅かに12℃でした。

燃焼率は、コレスポンドの戦艦よりやや高めと考えられ、金剛級ではちょうど伊勢級と長門級との中間の値です。
伝熱面積1m2当りの出力は、おおむね円缶(石炭専焼)では6hp前後、べルヴィール式(同)・宮原式(炭油混焼)・ヤーロー(同)では4〜5hpとなっています。


2-1-3. 防禦巡洋艦/軽巡洋艦

NameQdBFNPbGHeHsHH/GCfRcQd/H
和泉5,50046.344.61,417-1,41731.83.9
浪速7,50066.339.31,404-1,40435.75.3
Charleston7,6506-
畝傍6,00096.036.51,435-1,43539.34.2
千代田5,600611.624.7973-97339.45.8
松島5,326612.035.11,419-1,41940.43.8
Baltimore10,7504-
秋津洲8,400410.545.41,396-1,39630.76.0
須磨8,384810.541.21,358-1,35833.06.2
明石7,890947.31,325-1,32528.06.0
25 de Mayo14,0504-
吉野15,5001210.980.82,230-2,23027.67.2
高砂15,500810.980.82,243-2,24327.87.0
Chacabuco15,7008-
笠置17,0001210.987.82,372-2,37227.07.2
千歳15,5001210.973.62,150-2,15029.27.2
新高9,4001614.870.11,935-1,93527.64.9
音羽10,0001016.256.42,422-2,42242.94.1
Amethyst12,0001044.02,416-2,41652.45.0
利根15,0001615.888.23,083-3,08334.94.9
筑摩22,5001619.3
矢矧19.3-
平戸19.389.44,751-4,75153.230.43404.7
Arethusa40,0008-
天龍46,100818.3-3,9241,0324,956--9.3
4,900211.461416177567.64.363826.3
球磨・長良84,0001018.3-7,661-7,661--11.0
6,000215.0956-95663.95.223486.3

Name: 艦名または級名
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、円は円缶、低は低円缶、機は機関車型缶、ニはニクローズ式、宮は宮原式、イはイ号艦本式、ロはロ号艦本式を示す
F: 使用燃料、炭は石炭専焼、混は炭油混焼、油は重油専焼を示す
N: 主缶数
Pb: 主缶使用圧力 [kg/cm2]、太字は過熱式
G: 主缶総火床面積 [m2]
He: 主缶総蒸発伝熱面積 [m2]
Hs: 主缶総過熱面積 [m2]
H: 主缶総伝熱面積 [m2]
H/G: 主缶伝熱面積/火床面積比
Cf: 主缶毎時燃料消費量 [t/hr]
Rc: 主缶燃焼率 [kg/m2-hr]、混焼は石炭換算
Qd/H: 計画出力/主缶伝熱面積比 [hp/m2]

<解説>
主缶の伝熱面積/火床面積比は、円缶では27〜29、ニクローズ式では27前後、宮原式では35前後、イ号艦本式では43前後、ロ号艦本式では63〜68となっています。
なお、新高級のニクローズ式はフランス製、また音羽のイ号艦本式(当初は艦政式と称した)はわが国初のものでした。

筑摩級は3隻中筑摩のみが過熱式で、主缶16基のうち大型の12基のみに過熱器を備えていました。全伝熱面積に占める過熱面積の比率は14.7%で、過熱度は計画で33℃(華氏60度)、実際は31℃でした。
天龍級は過熱式で、全伝熱面積に占める過熱面積の比率は全缶とも20.8%と比較的大であり、過熱度は計画で55℃(華氏100度)、実際も同程度と考えられます。

燃焼率は、艦本式(炭油混焼)で340〜380kg/m2/hrと、コレスポンドの戦艦・巡洋戦艦より高めとなっています。
伝熱面積1m2当りの出力は、おおむね円缶(石炭専焼)では6〜7hp、ニクローズ式(同)・宮原式(炭油混焼)・イ号艦本式(同)では5hp前後、ロ号艦本式(同)では6.5hp前後、ロ号艦本式(重油専焼)では9〜11hpと、やはり戦艦・巡洋戦艦より高めとなっています。言うまでも無く、信頼性の多少の低下を忍んでも、缶の大力量による高速力発揮という用兵上の要求を満足するためで、これは次項の駆逐艦においてより顕著となります。


2-1-4. 駆逐艦

NameQdBFNPbGHeHsHH/GCfRcQd/H
Desperate
(30-knotter)
5,700315.5-
東雲5,400315.518.11,006-1,00655.65.4
6,500417.622.31,208-1,20854.25.4
朝潮(白雲級)7,000416.223.41,338-1,33857.15.2
春雨6,000417.620.41,086-1,08653.15.5
追風(神風級)6,000420.41,066-1,06652.25.6
Afridi (Tribal)16,500615.5----
海風・山風6,280217.6-770-770-3.99-8.2
14,220643.02,309-2,30953.717.884166.2
9,500517.6-
浦風22,000318.3-1,6774122,089-12.25-10.5
5,700217.6-925-925-5.44-6.2
3,800212.3764-76462.24.543695.0
磯風20,250318.3-1,927-1,927-12.25-10.5
6,750215.4845-84554.96.174007.9
10,000218.3-1,006-1,006-6.53-9.9
6,000213.5780-78058.05.634177.7
11,500218.3-1,082-1,082-6.53-10.6
6,000213.5780-78058.05.634177.7
谷風34,000418.3-2,4515953,046-18.15-11.1
21,500318.3-1,8231,823-11.03-11.8
若竹21,500318.3---
峯風38,500418.3-2,6446453,289-19.96-11.7
神風(2代)38,500418.3---

Name: 艦名または級名
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、ソはソーニクロフト式、ヤはヤーロー式、イはイ号艦本式、ロはロ号艦本式を示す
F: 使用燃料、炭は石炭専焼、混は炭油混焼、油は重油専焼を示す
N: 主缶数
Pb: 主缶使用圧力 [kg/cm2]、太字は過熱式
G: 主缶総火床面積 [m2]
He: 主缶総蒸発伝熱面積 [m2]
Hs: 主缶総過熱面積 [m2]
H: 主缶総伝熱面積 [m2]
H/G: 主缶伝熱面積/火床面積比
Cf: 主缶毎時燃料消費量 [t/hr]
Rc: 主缶燃焼率 [kg/m2-hr]、混焼は石炭換算
Qd/H: 計画出力/主缶伝熱面積比 [hp/m2]

<解説>
主缶の伝熱面積/火床面積比は、ソーニクロフト式では55〜57、ヤーロー式では54前後、イ号艦本式では52〜54、ロ号艦本式では54〜62となっています。

浦風・谷風級・峯風級は過熱式で、全伝熱面積に占める過熱面積の比率はいずれも19.5%前後ですが、過熱度は燃焼率の高めなことを考え合わせると、やはり55℃程度と考えられます。

燃焼率は、360〜420kg/m2/hrと、同時代の軽巡洋艦よりさらに高めとなっています。

伝熱面積1m2当りの出力は、おおむねソーニクロフト式(石炭専焼)では5〜5.5hp、ヤーロー式(同)では5hp前後、イ号艦本式(同)では5.5hp前後、ヤーロー式(炭油混焼)では10hp前後、イ号艦本式(同)では8hp前後、ロ号艦本式(同)では5〜8hp、ロ号艦本式(重油専焼)では6〜12hpとなり、また同一形式の缶でも時代とともに数値が増大しています。


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