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ドッガー・バンク海戦に見る機関部の実相
2-4. 公試成績の検証
ここでは、計画性能(出力、速力)と公試成績との整合性を検証してみましょう。
簡単にするために、所要出力Pは速力Vの3乗に比例するとします。
これに比例法則(排水量)の項を絡めて、
P=(V)3乗×(D)2/3乗/Cad, Cadはアドミラル係数、Dは排水量
小文字d、同tをそれぞれ計画値、公試値として、
Pd=(Vd)3乗×(Dd)2/3乗/Cad
Pt=(Vt)3乗×(Dt)2/3乗/Cad
Pt/(A×Pd)={(Vt) 3乗×(Dt)2/3乗}/{(Vd) 3乗×(Dd)2/3乗}
A={Pd×(Vt) 3乗×(Dt)2/3乗}/{Pt×(Vd) 3乗×(Dd)2/3乗}
上式を簡単にして、
A={Pd×(Vt) 3乗×(Dt)}/{Pt×(Vd) 3乗×(Dd)}
としたときの予実指数Aを計算すると、興味深い結果が判明しました。
2-4-1. 軽巡洋艦以上
まず、両軍の軽巡洋艦以上について検証してみましょう。
上記の要領で予実指数Aを計算すると、
英国:
インドミタブル: 0.97
ライオン: 1.00
プリンセス・ロイヤル: 1.06
タイガー: 0.99
タイガー(過負荷): 0.96
ドイツ:
ブリュッヒャー: 0.97
モルトケ: 0.93
ザイドリッツ: 1.02
デアフリンガー: 0.89
シュトラールズント: 0.95
ロストック: 1.03
グラウデンツ: 0.96
となって、A=1が計画どおり、A<1が計画未達、A>1が計画クリアですが、おおむね予実差±10%の範囲に入っているようです。測定誤差も含まれますので、この時代としては予実差±10%以内は妥当と思われますが、それを超えたら元データに何らかの疑いが有ります。
ライオンなどは、まさしく計画どおりの出来栄えと言えるでしょう。
ザイドリッツについては、最大速力を28.1ノットでなく、29.1ノットとした文献も有りますが、これだとA=1.13と過大になってしまいます。
デアフリンガーは、水深の浅いのが影響して、公試出力に対して最大速力が低く出ています。
シュトラールズントは、公試速力を28.2ノットでなく、26.3ノットとした文献も有りますが、これだとA=0.77と過小になりますので、ミスプリントの可能性が高くなります。
いずれにしても、第1次大戦期のドイツ艦は公試において相当無理焚きをしているようで、機関出力で計画値の1.5倍以上なら、缶の燃焼率ではおそらく2倍以上と考えられます。
2-4-2. 駆逐艦
同様に、両軍の駆逐艦の分も検証してみましょう。
英国:
フェレット: 1.06
フォレスター: 1.04
ゴスホーク: 1.06
ホーネット: 1.06
ハイドラ: 1.01
ジャッカル: 0.91
フェニックス: 0.93
ティグリス: 1.01
レアーティズ: 1.08
ラフォリー: 1.07
ランドレイル: 1.07
ラーク: 0.87
ローレル: 1.06
ロウフォード: 1.03
リージョン: 1.05
リバティ: 1.00
ルイス: 0.98
リディヤード: 1.00
ライサンダー: 0.97
ミルン(M級): 0.94
モーリス(M級): 0.84
マスティフ(M級): 0.87
マイノス(M級): 0.95
ドイツ:
S176〜179: 1.48
V180〜185: 1.22
V1〜6: 1.32
G7〜12: 1.34
V25〜30: 1.34
S31〜36: 1.31
となって、英国駆逐艦はラーク、モーリス、マスティフは計画性能が出てないようですが、他はおおむね予実差±10%以内に収まっています。
この時期のドイツ駆逐艦は、予実差が大き過ぎますので、再吟味の必要が有ります。おそらく、計算の基準を満載状態に置いていたためと考えられます。
<Q&A>
Q1.デアフリンガーの公試成績が悪いように、水深の浅いところでは、一般に速力が発揮できない傾向がありますよね。で、ドッガー・バンクはまさにそういう海なのですが、これはどのくらい影響していたのでしょうか。(新見 志郎氏)
A1.デアフリンガーの公試は、水深約35mのベルトBelt標柱間で行なわれ、最大速力は通常より10%近く低く出ました。ドッガー・バンクの水深は、大英百科辞典によれば、最浅部で6尋(1尋=6ft, 1.83m)、おおむね10〜20尋(18〜37m)とされています。ただし、ド海戦でヒッパーが16点回頭をして退却に転じたあたりはまだバンク上でしたが、両軍が大速力を発揮した主戦場はバンク南の水深40m以上の海域でしたので、速力への影響はそれほど無かったものと考えられます(冒頭 合戦図参照)。
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