このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


日露戦争黄海海戦に見る機関部の実相

2.参戦各艦の機関

本海戦に参加の各艦の機関が、一体どれくらいの実力を持っていたか、公試成績を参考にしてみましょう。
ちなみに、日露戦争での日本海軍は、第一戦隊(前弩級戦艦)15ノット、第二戦隊(装甲巡洋艦)17ノットを戦闘時の戦隊速力としていました。


2-1. 主力艦

まず、両軍の主力艦(前弩級戦艦、装甲巡洋艦)から、起工順に見てみましょう。
記事中、日本艦艇の数値(強圧通風、自然通風)は「戦役従軍艦艇及其ノ最近高力運転成績」(帝国海軍機関史所載)に拠ります。
数値は排水量(計画値は常備排水量)、推進軸回転数、機関出力、速力を示します。
単位のTは排水トン、rpmは毎分回転数、ftはフィート(1ft=304.8mm)、inはインチ(1in=25.4mm)、ihpは指示馬力、ktsはノット(1kt=1.852km/h)、psiはポンド/平方インチ(1psi=0.0703kg/cm2)、atmは大気圧(1atm=1.03kg/cm2)です。

2-1-1. 日本の前弩級戦艦

富士 Fuji 英国テームズ鉄工所建造(主機ハンフリー&テナント社)、1897年竣工
 12,450T, 120rpm, 13,500ihp, 18.25kts (計画値)
 ? T, 120.3rpm, 14,180ihp, 18.5kts (新造時)
 12,649T, 108.5rpm, 9,877ihp, 17.3kts (1903.3/強圧通風)
 同上、108rpm, 9,915ihp, 17kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚き円缶10基、使用圧力155psi (10.9kg/cm2)
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。機械室には中央縦隔壁を有しており、これは後述の諸艦も同様です。推進器は内方回転です。
缶室は前後2室で、艦首寄りから主缶をそれぞれ6基、4基収め、中央縦隔壁を挟んで半数ずつ背中合わせに配し、焚口を舷側炭庫に向けています。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分け、第2煙突は断面が縦長の小判形で、有効断面積は第1煙突の0.55倍でした。
公試成績ですが、日露海戦の前年のデータでは新造時に比較して著しく低下しており、これは同時期に建造された八島も同様で、円缶の炉筒圧壊に対する危惧から大負荷を掛けなかった可能性が有ります。


IJN 1st Class Battleship FUJI. (Auther's Collection)


敷島 Shikishima 英国テームズ鉄工所建造(主機ハンフリー&テナント社)、1900年竣工
 14,850T, 120rpm, 14,500ihp, 18.0kts (計画値)
 15,088T, 119rpm, 15,355ihp, 18.6kts (1899.10/強圧通風)
 同上、106rpm, 11,098ihp, 15.9kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚きベルヴィール式水管缶25基、使用圧力270psi (19.0kg/cm2)
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。推進器は内方回転です。
缶室は前後3室で、艦首寄りから主缶をそれぞれ10基、10基、5基収め、第1・第2缶室には半数ずつ背中合わせに横に5基並べています。
煙突は3本で、煙路導設は缶室ごとに分け、煙突の外径は3本とも同一ですが、第3煙突のみ内径を細くし、有効断面積を第1・第2煙突の0.51倍としていました。


IJN 1st Class Battleship SHIKISHIMA. (Auther's Collection)


朝日 Asahi
 英国ジョン・ブラウン社クライドバンク造船所建造、1900年竣工
 15,200T, 108rpm, 15,000ihp, 18.0kts (計画値)
 15,443T, 104.1rpm, 15,593ihp, 18.3kts (1900.2/強圧通風)
 同上、106rpm, 15,001ihp, 18.2kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚きベルヴィール式水管缶25基、使用圧力300psi (21.1kg/cm2)
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。推進器は、この時代の日本戦艦には珍しく外方回転です。
缶室配置と主缶配置は上記の敷島と同一ですが、煙突は2本で、煙路導設は前から主缶10基、15基に分け、第2煙突の断面を横長の小判形とし(前後長は同一)、有効断面積を第1煙突の1.37倍としています。
ちなみに、英国海軍ではカノーパスCanopus, フォーミダブルFormidable, ロンドンLondonの各級が同様の煙突形状を採用していました。


IJN 1st Class Battleship ASAHI. (Auther's Collection)


三笠 Mikasa
 英国ヴィッカーズ社バーロウ造船所建造、1902年竣工
 15,140T, 120rpm, 15,000ihp, 18.0kts (計画値)
 15,362T, 124.2rpm, 16,431ihp, 18.5kts (1902.1/強圧通風)
 同上、113rpm, 14,922ihp, 15.6kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚きベルヴィール式水管缶25基、使用圧力300psi (21.1kg/cm2)
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。推進器は内方回転です。
缶室は前後3室で、艦首寄りから主缶をそれぞれ5基、10基、10基収め、第2・第3缶室には半数ずつ背中合わせに横に5基並べています。
煙突は2本で、煙路導設は前から主缶15基、10基に分け、煙突の外径は2本とも同一ですが、第2煙突のみ内径を細くし、有効断面積を第1煙突の0.66倍としていました。


IJN 1st Class Battleship MIKASA. (Auther's Collection)



2-1-2. 日本の装甲巡洋艦

浅間 Asama 英国アームストロング社エルジック造船所建造、1899年竣工
 9,700T, 135rpm, 18,000ihp, 21.5kts (計画値)
 同上、154.5rpm, 18,278ihp, 22.1kts (1899.2/強圧通風)
 同上、136rpm, 14,022ihp, 19.5kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚き円缶12基、使用圧力155psi (10.9kg/cm2)
主機は4気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。推進器は外方回転です。
缶室は前後2室で、主缶を6基ずつ収め、中央縦隔壁を挟んで半数ずつ背中合わせに配し、焚口を舷側炭庫に向けています。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。


IJN 1st Class Cruiser ASAMA. (Auther's Collection)


八雲 Yakumo 独国フルカン造船所建造、1900年竣工
 9,695T, 140rpm, 15,500ihp, 20.5kts (計画値)
 9,645T, 138.8rpm, 16,960ihp, 21.0kts (1900.5/強圧通風)
 同上、125rpm, 11,915ihp, 19.4kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚きベルヴィール缶24基、使用圧力19kg/cm2
主機は4気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。推進器は内方回転です。
缶室は前後3室で、主缶を8基ずつ収め、半数ずつ背中合わせに横に4基並べています。
煙突は3本で、煙路導設は缶室ごとに分け、煙突は断面が縦長の小判形でした。


IJN 1st Class Cruiser YAKUMO. (Auther's Collection)


春日型
春日 Kasuga
 伊国アンサルド社建造、1903年竣工
日進 Nisshin 伊国アンサルド社建造、1903年竣工
 7,578T, 106rpm, 13,500ihp, 20.0kts (計画値)
 同上、106rpm, 14,944ihp, 20.1kts (春日/強圧通風)
 同上、107rpm, 14,692ihp, 20.2kts (日進/強圧通風)
 同上、95rpm, 11,100ihp, 17.9kts (同/自然通風)
 主缶: 片面焚き円缶4基、両面焚き円缶4基、使用圧力165psi (11.6kg/cm2)
春日はもとアルゼンチン海軍リヴァダヴィアの、また日進は同マリアノ・モレノの後身で、世界的傑作とされるガリバルディ型装甲巡洋艦の9番艦と10番(最終)艦です。これらは日露開戦の直前、アルゼンチンの好意によりわが国に譲渡されたもので、到着時には国民の熱狂的歓迎を受けました。特徴は船体中央を機械室、その前後を缶室とした缶室分離配置で、速力と兵装の割に小型・軽量とすることができました。
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。装甲巡洋艦としては低速回転なので、他艦のように4気筒直立3段膨張とはしていません。推進器は外方回転です。
缶室は前後4室で、第1・第4缶室に片面焚き円缶を2基ずつ、第2・第3缶室に両面焚き円缶を2基ずつ収めています。
煙突は2本で、煙路導設は第1・第2缶室と第3・第4缶室の2群に分けていたので、前後の間隔が大きく開いています。


IJN 1st Class Cruiser KASUGA. (Auther's Collection)



2-1-3. 露西亜の前弩級戦艦

ポルターヴァ級
ポルターヴァ Poltava
 露国海軍新工廠建造(主機ハンフリー&テナント社)、1899年竣工
セヴァストーポリ Sevastopol
 露国ガレルニ島造船所建造(主機フランコ・ルシアン社)、1899年竣工
 10,960T, ? rpm, 10,600ihp, 16.0kts (計画値)
 11,500T, ? rpm, 11,233ihp, 16.0kts (ポルターヴァ/新造時)
 11,249T, ? rpm, 9,368ihp, 15.30kts (セヴァストーポリ/新造時)
 主缶: 片面焚き円缶14基(ポルターヴァ)または16基(セヴァストーポリ)、使用圧力8.8atm (9kg/cm2)
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。
缶室は前後2室で、艦首寄りから主缶をそれぞれ8基、6基(ポルターヴァ)または8基ずつ(セヴァストーポリ)収め、中央縦隔壁を挟んで半数ずつ背中合わせに配し、焚口を舷側炭庫に向けています。
煙突は2本で、煙路導設は前後2缶室に分けており、ポルターヴァの第2煙突は内径が第1煙突の約7/8、有効断面積は約0.75倍でした。
セヴァストーポリの新造時公試では計画速力に達していません。通常このような場合は発注者から受領拒否されるか、違約金の支払いを求められます。


Russian Battleship POLTAVA. (Auther's Collection)


ペレスヴィエト級
ペレスヴィエト Peresviet
 露国海軍新工廠建造(主機バルティック造船所)、1901年竣工
ポビエダ Pobieda
 露国バルティック造船所建造、1902年竣工
 12,674T, 100rpm, 14,500ihp, 18.0kts (計画値)
 13,810T, ? rpm, 14,532ihp, 18.44kts (ペレスヴィエト/新造時)
 13,320T, 107.5rpm, 15,578ihp, 18.5kts (ポビエダ/新造時)
 主缶: 片面焚きベルヴィール式水管缶30基、使用圧力17.0atm (17.5kg/cm2)
本級は軽兵装(主砲25.4cm×4門)の高速戦艦で、機関部は同時期に建造の防禦巡洋艦パラーダPallada級との共通性が高いものでした。
主機は3気筒直立3段膨張、3基3軸で、前部機械室に両舷機、後部機械室に中央機を収めています。推進器は外方回転(中央軸は右回転)です。シリンダは内径965mm+1420mm+2130mm, 行程990mmで、蒸気分配は高圧シリンダのみピストン弁、中圧・低圧シリンダはD形弁によっています。
缶室は前後3室で、主缶をそれぞれ10基ずつ収め、艦中心線を挟んで半数ずつ背中合わせに配し、焚口を舷側炭庫に向けています。
煙突は等径のもの3本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。


Russian Battleship PERESVIET.


レトヴィザン Letvisan 米国クランプ社建造(主機バルティック造船所)、1901年竣工
 12,746T, ? rpm, 16,000ihp, 18.0kts (計画値)
 12,902T, ? rpm, 17,112ihp, 17.99kts (新造時)
 主缶: 片面焚きニクローズ式水管缶24基、使用圧力18.0atm (18.5kg/cm2)
主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。シリンダは内径980mm+1570mm+2340mm, 行程は不詳です。
缶室は前後2室で、主缶をそれぞれ12基ずつ収め、4缶を横一列に配し、うち2列(第1缶室前側、第2缶室後側)を背中合わせとし、残り各一列(第1缶室後側、第2缶室前側)は背面を隔壁に対接させています。
煙突は等径のもの3本で、煙路導設は8缶ずつに分けていました。


Russian Battleship LETVISAN. (Auther's Collection)


ツェサレヴィチ Tsessarevitch
 仏国ラ・セーヌ鉄工造船所建造、1903年竣工
 12,915T, 107 rpm, 16,300ihp, 18.0kts (計画値)
 13,047T, ? rpm, 15,254ihp, 18.77kts (新造時)
 主缶: 片面焚きベルヴィール式水管缶20基、使用圧力19atm (19.6kg/cm2)
本艦は露西亜戦艦で初めて主機を4気筒直立3段膨張、2基2軸としています。推進器は外方回転です。
主機の主要諸元は、シリンダ内径1140mm+1730mm+1890mm(×2)、行程1120mm、シリンダ配列は艦首寄りから高−中−低−低、蒸気分配は各シリンダともピストン弁で、弁室は各シリンダの側面斜め後ろに在り、弁装置は通常のスティヴンソンStephenson式リンクモーションでなく、ラジアルギアの一種・ブレムBremme式と推定されます。
缶室は前後2室で、主缶をそれぞれ10基ずつ収め、5缶を横一列に配し、2列を背中合わせとしています。主缶の総火床面積は118.56m2、総伝熱面積は3872.8m2(うち節炭器1386.8m2)、火床面積対伝熱面積比(H/G)は32.6です。
煙突は等径のもの2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。


Russian Battleship TSESSAREVITCH.


次のページ

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください